外食にまつわる思い出
菊池亜希子(女優、モデル)×野村友里(「eatrip」主宰、料理人)
2020
01.31
行きつけのお店
- 菊池
- 結婚記念日にいつも行っていた近所の小さなビストロがあって、子供が生まれてから結婚記念日には子供を預けて行くのもいいんだけど、せっかくだったらそのお店に連れて行きたいと思ってお願いしたら、「いいよ」と言ってくれて、1時間半一本勝負みたいな感じで、1歳の時も2歳の時も連れて行ったんです。子供がいるとファミレスだと気を使わなくていいから楽で、そっちに連れて行きがちだけど、そうするとレストランで騒いでもいいよという前提になっちゃうから、大人のお店にも小さいうちから一緒に行きたいなと思っていて、特別な日はちょっと他の人の邪魔にならないようにご飯を楽しむんだよとなるべく習慣として小さい時から教えたくて、恒例行事にしようと思ってはいる。ハラハラしたけど、たまたまその時に居合わせたお客さんがみんな心が広くて。私の誕生日のランチは夫婦だけでいくって決めて、年に1回の楽しみで特別な日にしようねという話はしているんだけど、絶対に子供がいない方が他の人にとってもお客さんにとっても居心地がいいお店とファミレスの間ぐらいの大人も満足できて、子供も空間を楽しめるお店があったらいいなと考えて、なかなか難しいですけどね。でも行きつけは小さい頃からありました?
- 野村
- あった。うちの両親は無類のお蕎麦好きだったから、土日の昼は大体お蕎麦だし、贅沢もさせてもらった気もするんだけど、週末は鉄板焼きとかあったね。
- 菊池
- 両親の趣味を子供を連れて、
- 野村
- まさにそうね。両親の趣味に子供が付き合ってたんだけど、
- 菊池
- 私は岐阜出身なんですけど、父が名古屋で働いていたので、その頃は記念日でもないけど時々私たちが名古屋に出向いて仕事終わりのお父さんと合流して夕食を食べる習慣があって、名古屋のテレビ塔のゆっくりまわるレストランに食べに行くのが私の中ではすごい体験で贅沢をしているみたいな、ちょっといいワンピースを着せてもらって、だからすごい記憶に残っていて。
- 野村
- 私は、母が専業主婦だったから家族で食べに行く時がお出かけにもつながるから、いろんな意味で父の趣味もかねて、少しいいところに連れて行ってもらうのが外食にイメージだった。ホテルだったとしても特別な日感が強くて、それも相まって思い出になっているな。
気がいい場所
野村さんが営む「eatrip」は、原宿にある古民家を改装して作られたレストラン。都会のど真ん中にいることを忘れてしまうような、開放感のある緑いっぱいの場所になっています。
- 野村
- 今、私もレストランをやらせていただいているんだけど、そもそもやるつもりはなかったの。立ち上げるのはいいんだけど、続ける大変さを身にしみてわかっていたんだけど、お花屋さんのパートナーが「どういうところだったらやりたいの?」って言うから「やりたくはないけどでも、土があったり、空が見えたり、やっぱ風が吹かないとね」と答えて、私は、キッチンに入る身だから、それまでは地下とか窓がない厨房が一番奥で、一番見晴らしがいいところがテーブル席というのが多かった記憶があって、でも私は作ってる人がいい気持ちのエネルギーというかバイブスじゃないと、作れないってのがあったから、それを前提にそういう場所があったらと思ったら、パートナーが見つけてきちゃったのよね。
- 菊池
- ぴったりの。
- 野村
- でも、飲食はオーナーさんが良しとしないとこが多いんだけれど、大家さんが同じ敷地内なのに、無類の花好きで食べ物好きだったのね。だから、まさかのそれを借りることになったんだけど、やっぱり一応、夜はお子様はいろんなシチュエーションの方がいらっしゃるから遠慮してもらっているけど、土日の昼は OK にしてる。
- 菊池
- 連れていきます。
- 野村
- そうなの。木があって
- 菊池
- 外に出られるでしょ。
- 野村
- そうなの。
- 菊池
- ちょっと逃げ場があるだけで、全然いい。葉っぱとかずっといじってる。
- 野村
- あと池とかね。お花もあるし、スヤスヤ寝てると親もだんだんリラックスしてきて、多分親がピリピリするから子供もそれを察してピリピリするし、子供は騒ぐのがお仕事ぐらいなのに、子供がハッピーだと親もだんだんハッピーで、結局いい日だったになって、
- 菊池
- もう飲んじゃうみたいな。
- 野村
- そうなのよ。
- 菊池
- 親の機嫌がいいと子供も機嫌いいんですよね。
- 野村
- 子供は先入観がないからバロメーターだと思っていて、土があったり気がいいところだと、ものすごい元気になって、喜んでくれる。
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