いま、必要とされる力
常盤貴子(女優)×鈴木康広(アーティスト)
2019
11.08
今女優として、アーティストとして、正解のない世界で、それぞれの道を切り開いているお二人。これからの時代に、もっとも必要とされる力についてうかがいました。
常盤さんのエッセイ「まばたきのおもひで」は、講談社より発売中です。
【『まばたきのおもひで』(常盤 貴子)|講談社BOOK倶楽部】
グレーでもいい
- 常盤
- 最近、器用な人が多くないですか?
- 鈴木
- 器用と言うと?
- 常盤
- 何でもできる人が多い。
- 鈴木
- やっぱり、道具が揃ってるんだと思うんですよ。道具は使い道が決まっているものですよね、その中で勝手に遊び方を見つけるとか、全然違う使い方をするのが、意外と難しいのかなとは思います。
- 常盤
- ものに溢れているから、きっとそこを見落としがちなんですよね。
- 鈴木
- そうですね。楽しみ方が強烈に用意されている気がしますね。だからまずそれで時間を使ってしまうから。時間は限度があるから、足りなくて、いろんな道筋があるって言うことをちょっと忘れがちと言うんですかね、そもそも知らないことも多いのかなと思います。
- 常盤
- 私達の世界では、特に私の世代は、ドラマや映画ではリアルを教えられてきた世代なんですよね。全てリアルであるべき、だから芝居もリアルに本当に会話をしてるみたいに芝居をするべきというのが当たり前のごとく教えられてきたことなんです。でも、最近、鈴木さんの影響とかもあると思うんだけど、私の夫、長塚圭史もそうだし、よく出させて頂いてる大林宣彦監督とかは、リアルはそんなに重要なことなのかなって思い始めてきて、リアルは、もしかしたらすごく危ないことなんじゃないかなって。鈴木さんと初めてお会いした時、観ていただいた「レミング」という寺山修司最後の遺作と言われている舞台の私のセリフで「リアルを持ち込まないで」というのがあったんですけど、演じている時はあんまり分かってなかったんだけど、どんどんそのことが身にしみるというか、現実を持ち込まれた瞬間にすべてが消えてなくなってしまうと思うようになって。そういうのはありません?
- 鈴木
- 分かります。本当にちょっとしたことなんでしょうね。ちょっとしたことで自分の中に自然発生的に生まれてきた考え方や感じ方の糸口みたいなものがすっと消えていくみたいな、そういう怖さがあるな、って。
- 常盤
- そう。そうなの。
- 鈴木
- たぶん空気みたいな気配みたいなぐらいのことだと思うんですよ。
- 常盤
- でも頭の中に浮かんだ、そのことは宝物みたいに実はすごく大切なものだったりとかするんだけど、それが現実という目の前にあるものによって消されてしまう。確実っていらなくないみたいな、グレーの方がいいことがいっぱいあるのかなって思ったりもして。
- 鈴木
- 本当にそうです。
「ないことの豊かさ」
- 鈴木
- このエッセイの中で僕がすごいなと思ったのが、『「ない」の豊かさ』って言うエッセイ。こんなに限られた文章でこの内容を書けるなんてスゲーと思って、本当に常盤さんが映像の世界で活躍されて、舞台の世界で気づかれたことが書かれているんですけど、これを読めば、みんな今おっしゃったリアルと言う話もきっとわかるんじゃないかな。
- 常盤
- 私はドラマとか映画の現場でリアルなことを教え込まれてきて、心がけていたからこそ舞台に行った時にすごく衝撃を受けて、舞台の上だと俳優がそうだと信じ込むことで、そこにそのものが出てくるというか、見ているお客さんの脳内に出てくることが舞台では可能なことを知ったんですよね。
- 鈴木
- すごいですね。
- 常盤
- だから舞台もアートだと言われるんだっていう風に思ったんですね。大林宣彦監督との出会いで映画もそうだとわかって、私たちの世代はやっぱりドラマの延長の映画とかが多かったんですね。だからそのことに気づきずらかった。でも、その傍ら小津安二郎しかり黒澤明しかり見てればそのことには気づいたはずなんだけど、それとそこが一致してなかった。昔の映画はアート性が高かったと線を引いてしまってたところがあるんですね、だけど、今でもやっぱりその意識で映画はアートなんだっていうところにちゃんと持っていけるものがあることを大林映画で私は学ぶことができてすごい面白くなったんですよね、さらに、鈴木さんの影響もすごくあって。
- 鈴木
- 例えば、戦後日本がこれだけ成長したことがあって、だからない時に生み出すものすごくパワフルでみんな頑張ろうってなると思うんですよ。でもこれだけモノにあふれて、いろんなことが豊かに物理的に豊かになった時には、僕の世代って言い切れるかわかんないんですけど、やっぱり何か違う忘れてしまったものを取り返さなくてはという気持ちもあったと思うんですよ、その時に間違えとか勘違いを頼りにするしかなかった。
- 常盤
- 長塚圭史が四谷シモンさんとお話をしてた時に、そういう話をしてたんですね。そしたら「君ね、そんなこと考えてたらね、地球から滑り落ちるよ」って言われたの。もうその言葉自体がアートだなと思って、二人でひっくり返りそうになるくらい本当に感動したんだけど、鈴木さんも滑り落ちそうですね。
- ふたり
- 笑。
常盤さんのエッセイ「まばたきのおもひで」は、講談社より発売中です。
【『まばたきのおもひで』(常盤 貴子)|講談社BOOK倶楽部】