間違えることから生まれる面白さ
常盤貴子(女優)×鈴木康広(アーティスト)
2019
11.01
今回、常盤さんが5年にわたって新聞に連載したエッセイが「まばたきのおもひで」という1冊の本になりました。その挿絵を手がけたのが、鈴木さん。鈴木さんの作品に惚れ込んだ常盤さんたっての願いで実現しました。
鈴木さんの代表作といえば、「ファスナーの船」。巨大なファスナーの形をした船が水面を運行する作品で、まるで、ファスナーが海を切り開いていくようにうつります。実際に瀬戸内海や隅田川を運航したこともあるこの『ファスナーの船』の誕生秘話を教えてくれました。
(瀬戸内国際芸術祭 2010 出展)
(「隅田川 森羅万象 墨に夢」/「ふねと水辺のアートプロジェクト」出展)
常盤さんもご自身のエッセイの中で、台本を読み間違えること:「誤読」の面白さについて書いています。
常盤さんのエッセイ「まばたきのおもひで」は、講談社より発売中です。
【『まばたきのおもひで』(常盤 貴子)|講談社BOOK倶楽部】
見間違えから生まれた「ファスナーの船」
鈴木さんの代表作といえば、「ファスナーの船」。巨大なファスナーの形をした船が水面を運行する作品で、まるで、ファスナーが海を切り開いていくようにうつります。実際に瀬戸内海や隅田川を運航したこともあるこの『ファスナーの船』の誕生秘話を教えてくれました。
- 鈴木
- 作品を作っていると、クリエイターとかアーティストが実はものすごいみたいに見られることがあって、違和感を感じる時があるんですね。全然そうではなくて、作っているほうは、日常的だったり、そういうものが、自然に生まれてくるんで。
- 常盤
- かっこいい。
- 鈴木
- 予想を超えて、ポンとか出てくるみたいなところがあって、特に初期の頃は自分が記憶力とかしっかりとした論理的な辻褄が合った考えや勉強も苦手だったんですね。だから大学を卒業した時点で、違う生き方をしようとはっきり思って、見間違えたりとか勘違いとか聞き間違えとか、そういうところだったら自信があると思ったんですよ。
- 常盤
- どういう自信ですか(笑)。
- 鈴木
- 大体自分がおもしろいうと思うときは、「それってそういうことだったの」とか「全然分かってなかった」とか
- 常盤
- あるある。
- 鈴木
- 本当の面白さは、そういうとこにあるなと思っていたから、この面白さは皆共通だろうと思って、だから人類共通の勘違いとかは科学の大発見のきっかけになるわけじゃないですか。その大小様々だけど何か勘違いや間違えてる事は面白さのタネだなって。
- 常盤
- なるほど。
- 鈴木
- その一つの成功例が「ファスナーの船」ですね。あれは国内線の飛行機に初めて乗った時に、たまたま東京湾を見たら船がファスナーに見間違えただけなんですよ。でもその時に視覚的にそう見えたと言ったらそうじゃないから、面白いですよね。 頭の中ではファスナーに見えているわけですから、他の人からしたら船にしか見えない。僕はその時、そういう見間違い勘違いキャンペーンを開いたので、すぐに「ファスナーじゃん」みたいな、たまたまそれを気づけちゃった。
- 常盤
- すごい夢があるから鈴木さんの作品はいつもワクワクするんです。
(瀬戸内国際芸術祭 2010 出展)
(「隅田川 森羅万象 墨に夢」/「ふねと水辺のアートプロジェクト」出展)
「誤読のすすめ」
常盤さんもご自身のエッセイの中で、台本を読み間違えること:「誤読」の面白さについて書いています。
- 鈴木
- 常盤さんの台本の話も興味深かったです。
- 常盤
- 「誤読のすすめ」というタイトルで書いたものなんですけど、私たちの仕事も台本に書かれている通り演じることがまずベースとして一番大切なことなんだけど、それをいかに誤読するかも同時に求められていることでもあって、誤読しなくてももちろんいいんですよ、しないことが本当は一番いいのかもしれないんだけど、誤読をした瞬間に一気にその役柄が人の想像を超えると言うか、スタッフが台本を読んでいる時に「え!こうこないの?そういう風によると思わなかったんだけど」っていうものが広がっていく。それをいかにできるかが面白さのポイントだったりもするから、誤読するといいよね。
- 鈴木
- 誤読してさらに良いみたいな。こっちの方が面白いみたい。
- 常盤
- たまに直されることもあります。「そういうことじゃないです」って(笑)。でもそれによって感謝して頂けることもたまにある、「まさか ああいう風にくると思いませんでしたよ」みたいな単純に本当に誤読しただけの時とかもあって、その時はひやっとするんですけどね。
- 鈴木
- 狙って誤読したりとか見間違えても何も面白くないこともありますよね。演出家の意図は、当然、言葉でくるわけですよね、ウインクとかでしないですよね?
- 常盤
- ウインクじゃ伝わらない。
- 鈴木
- 理解して、自分の体にそれを反映させるってどういうことなのか?
- 常盤
- これが不思議なことにエッセイにも書いたことあるけど、日本語でなくてもわかるようになってくるんですよ。本当に謎。香港映画を撮っている時に完全に最初は通訳してもらってたんだけど、だんだん分かるようになってきて、あげく監督が「貴子は分かるから大丈夫。」って。
- 鈴木
- 謎なんだけど、そういうことありそうだなと思いました。
- 常盤
- プライベートで遊びに行った中国の旅では、中国語が一言も喋れないのに2時間ぐらいおじさんと大爆笑してたっていう。それもエッセイに書いてるけど、あれも謎だった。
- 鈴木
- すごいですね。
- 常盤
- さすがにわたしもすごいなと思った。
- 鈴木
- 常盤さんすごいなと思うし、人間って凄いなって思うし、日常で何気なくやってることが実はすごい。
常盤さんのエッセイ「まばたきのおもひで」は、講談社より発売中です。
【『まばたきのおもひで』(常盤 貴子)|講談社BOOK倶楽部】