恋愛観の変化
角田光代さん(作家)×岸井ゆきのさん(女優)
2019
05.03
現在公開中の映画「愛がなんだ」では、原作を角田さんが、映画の主演を岸井さんが務めています。この作品は、主人公のテルコが、自分のことを好きになってくれない男性、マモちゃんを一途に追いかける究極の片思いを描いたもの。角田さんが、この「愛がなんだ」の小説を発表したのは、2003年。それからしばらく経ち、現在は、恋愛離れが叫ばれ、恋愛をしない、好きな人さえいないという若い人も増えているといいます。
角田さんは、レシピ小説を発表したり料理に関するエッセイを書いたりするほどの料理好き。「愛がなんだ」の中でも食事のシーンが多く登場します。
映画『愛がなんだ』はテアトル新宿ほか、全国ロードショー中。
【映画『愛がなんだ』】
恋愛プレッシャー
- 角田
- わたしが若い時は、もっと恋愛至上主義で、本当に女性誌を買えば全ての女性誌に”恋愛恋愛恋愛恋愛”と書いてあって、いくつになっても恋愛してないと綺麗じゃないとか、すごく恋愛推しの世代なので、今そういうのがちょっとなくなって、時々若い人と話すと、本当に恋愛に興味ないっていう人が多いんですよ。恋愛よりも趣味や仕事を優先する子が多くて、楽になった人もいるんじゃないかなと思って、あまりにも恋愛しろと社会がけしかける若き日を過ごしたので。今そういうのはあまりないじゃないですか恋愛プレッシャーみたいな。
- 岸井
- プレッシャーだったんですか?
- 角田
- 恋愛していないと、人間じゃない的な、そこまでは言わないけど。
- 岸井
- 私はもっとみんなが素直だったと思っていました。そうやって社会がプレッシャーとして恋愛を押し付けてると思ってなくて、もっとみんな素直に行動していたからすごく恋愛至上主義になっていたんだと勘違いしていました。
- 角田
- あれはねプレッシャーですね。恋愛ドラマもすごく多かったじゃないですか、あらゆる方面から恋愛をけしかけられてたんだと思う。今、恋愛に興味ないんですって言える人はすごくいいと思う。
- 岸井
- 恋はしようと思ってもできないですよね。なかなかそういうものに出会えないけど人間としてすごい素敵だなって思う人はいっぱいいて、これが愛だと思うこともあるし、恋ってすごい特殊だなと思います。男友達も好きで、守りたいと思ってる部分もあるけど、付き合えるのかというと、それは違うと言うか、恋って難しい。
- 角田
- 今のほうが一昔前よりも自由かもしれないですね。恋愛プレッシャーの中で生きていると、仲のいい男友達がいて、守りたいっていう気持ちになったら、自分でこれは恋かって考えるより先に恋だよみたいに言われて、恋だと思わなきゃいけないと思い込んじゃって、付き合おうとして、うまくいかないとかがあったかもしれない。今だったら、友達だし一緒にご飯食べたい気持ちと、付き合いたいを分けるじゃないですか、今の話を聞くと、そういう風に関係の多様性みたいなのが、取捨選択しやすくなったのかもなあと思いました。
- 岸井
- やっぱり分かんない。恋とか愛とか難しいな。でも言葉にできない。恋はもっと言葉にできない。愛の方がもうちょっと広いから。
- 角田
- そうですね。
- 岸井
- 恋は、こういうものですって説明できないです(笑)。
- 角田
- 確かにわたしも小説を書いていると、言葉がありきで考えしまうけど、そうではなくて言葉の方が後と言うか、いろんな気持ちがあって、何かをじっとしてられないとか、モヤモヤするとか、助けたい、守りたいみたいなのもとりあえず恋って言ってるけど。恋という言葉をなくして、気持ちだけ先走りせたら、恋に似たものとか、すごくいっぱいあると思うんですよね。ただ便宜上に恋という括りにしているだけで、だから、わからないというのは、すごく率直なことなんだろうなと思います。
食べるのが好き
角田さんは、レシピ小説を発表したり料理に関するエッセイを書いたりするほどの料理好き。「愛がなんだ」の中でも食事のシーンが多く登場します。
- 角田
- 私はお酒をすごく飲むので、お酒を飲まない人でも飲み屋さんに行くのが好きな人だったら嬉しいんですけど、全く飲まなくて、飲み屋さんも嫌いっていう人だと辛いかな。飲む人間は長いじゃないですか、3時間ぐらいご飯食べているので。あと、「愛がなんだ」を書いてる時は、どの組み合わせが、どういうお店に行くとかを結構注意して書いてて、マモちゃんがテルコをさそって行くお店は安い店なんですよ。マモちゃんがすみれさんを誘って行くお店は、ちょっと創作居酒屋と言うか、ビールの値段が800円ぐらいになって、というのは関係性を書くために変化をつけた気がします。そして、岸井さんはこんなに小さいのに、すっごい食べるんですよ。私が今まで見た中で男女含めてぶっちぎり1位。
- 岸井
- ほんとですか?
- 角田
- 私が知ってる1番よく食べる人よりたくさん食べてました。
- 岸井
- あの日は、本当に食べましたね。でも、まだいけると思ってました。
- 角田
- だってスパゲティやかた焼きそばとその前に肉も食べて、サラダも食べて、ふたりくらい全く食べない人間がいたので、ほぼ岸井さんが食べて、「まだ食べる?」って聞いたら、まだ食べようかなって、でもやめたほうがいい気がするって。
- 岸井
- 普通に太っちゃうという部分で制限したのかもしれない。
- 角田
- みんなを驚かせたらよくないと思ったんじゃないですか?
- 岸井
- そうかも。いつも親友と一緒にいくので、その子は、頼みまくるのを知ってるから、こんなに驚かれることを私、していたんだと思って。
- 角田
- もう驚かせたらいけないと思ったのかなぁ。
- 岸井
- やめたんです(笑)。本当はもっと食べられるんですけど。
- 角田
- すごいですよね。羨ましい。
映画『愛がなんだ』はテアトル新宿ほか、全国ロードショー中。
【映画『愛がなんだ』】