旅をする理由
石川直樹さん(写真家)×吉開菜央さん(映像作家、振付師、ダンサー)
2019
04.05
自分の目で世界を知る
石川さんは、人類学、民俗学にも関心を持ち、最難関の登山といわれるK2や訪れるのも難しい極地、さらには、都市まで、あらゆる場所を旅してまわっています。そんな旅をしながら生きる石川さんにとってライフワークでもある「旅」とは、どういったものなのでしょうか。
- 石川
- 僕は、旅がもちろん好きで、もう20年以上も旅しているんだけど、わかんないことがあったらインターネットで調べるじゃない。それで知っているつもりになっちゃうんだけれども、やっぱり体で感じる事は違くて、自分の目で見て耳で聞いて体で感じて世界を把握して理解したいという気持ちが強いから、世界を知るための方法として一番自分に合っているのが旅だった。10代の頃からいろんな場所に自分の身をさらしておいて、世界のことを知ろうと思って旅をしてきました。
- 吉開
- 10代の頃から?
- 石川
- 一番初めは高校2年生の時にインド、ネパールに行ったところから始まって、いろんな場所を旅してきたんですよ。今もずっとそれは続いていて、体で、世界を知覚する。
- 吉開
- 私の忘れられない旅は、そんな命の危険があるようなことにはなってないですね。
- 石川
- 吉開さんがそんな旅していたらびっくりだわ(笑)。繊細なタイプなの?図太いの?例えば、枕が変わったら眠れないとか、俺は枕はなんだって眠れるし、なんなら枕なくても眠れるし、固いところでも寝られるし、いつもの慣れてる場所と違うところに順応できるタイプなの?
- 吉開
- 順応できないけど、我慢できるタイプです。
- 石川
- 長くなるとストレスたまりそうだね。
- 吉開
- そうですね。枕とかちょっとした違いは気にしちゃいますね。
- 石川
- 繊細だね。おれは鈍感力の人だから。
- 吉開
- どこでも寝られないかもしれないですね。ロケの撮影の時はそれが辛いですね。
- 石川
- なるほど。
カメラにおさめたくなる瞬間
先日まで、吉開さんは、「トーキョーアーツアンドスペース本郷」で新作を発表されていました。この作品には、”自転車”という身近なモチーフが取り入れられています。写真と映像で表現とするおふたりは、いったいどんな瞬間や景色をカメラにおさめたくなるのでしょうか?
- 吉開
- 映像は演出ができるので、カット割だったりカメラワークだったり、音の付け方ですごくエンターテイメントに出来ちゃう、でもなるべく何か起きたことをストレートに描きたかったんですよね。今回、自転車の新作をやるのも。
- 石川
- 目の前にある世界をちょっとだけ見え方を変えて、そこに新しい未知の風景を立ち上げるみたいな所をすごく感じて、河原を自転車で走っているだけの映像なんだけれども、通り過ぎていく風景だったり、あるいはちょっとスピードが変わったりして見え方が変わったりとか、これだけ世界が豊かなんだみたいなことをすごく感じられる。日常の冒険家じゃないけど、そんな人なのかなと思ったんですよね。あのただ本当に自転車の車輪のカラカラした音が鳴っていて、その中でも世界は多様で混沌としていて、色んなものがある中を僕達は生きているんだ、みたいなことが詰め込まれている感じがして、だから不思議だなと思った。そういうモチーフを見つけてくるのが。
- 吉開
- 今思い出したんですけど、石川さんの展示で見た言葉を思い出してて、石川さんは世界のいろんなところを旅されて、すごくいろんなことを吸収されたりして、どんどん積み重なっているものがあると思うんだけど、沖縄の写真家さん、ちょっと名前忘れてしまったのですが、
- 石川
- 平敷兼七さんという写真家で、本当に自分は井の中の蛙なんだけど、そこをずっと掘っていけば宇宙にも繋がっていくんだみたいなこと教えてくれた人でもう亡くなってしまったんだけど、まさにそういうことで、冒険とか探検は、何もすごい遠いところに行く必要はなくて、すぐ身近な場所にもちょっと視点を変えたり、自分たちが見ているレイヤーには、僕はここのレイヤーを見ていたら、他の人はここを見たり、違ったところを見たりしているわけで、そこにすっと入り込むだけで未知の世界が立ち上がってくる、というのを常々考えている中で、吉開さんの映像は、レイヤーを色々と滑り込ませることで何気ない町の河原の風景が未知の世界に変わって行くみたいなところを、すごく包み込むように作品化している感じがして、いいなぁと思いながら見ていたんだね。
- 吉開
- ありがとうございます。石川さんの写真の中に、石川さんも動きながら犬を撮っているのがあって、あれは好きです。
- 石川
- あれは犬ぞりに乗って、グリーンランドで撮影していたんだけど、犬の足に紐が絡まってしまってマッシャーのおじさんが「やばい、からまった」と言って、犬ぞりから飛び降りているところで、犬と一緒におじさんが走っているわと思いながら写真を撮った。でも、僕のカメラはオートフォーカスではない昔のカメラだから、片手で露出とか合わせながら、犬ぞりもガタガタしてすごいので、ブレた中で撮っていたやつだね。
- 吉開
- ああいうのもすごいなと思いました。
- 石川
- 寒かったり高い場所だったり、暑いとか砂漠とかいろんな制限がある中で撮ろうとすると、自分がコントロールできない部分が写真に現れるから好きなの。本当に崖っぷちに立って、ここで写真を撮りたいけど、撮れない。全部、僕が標準レンズで撮ってて望遠とかズームとか一切使わないから、遠いものは遠くに映るし、近いものは近くに映る、だから実際に体験しているように感じられるっていうのがあって、本当に遠くのモノで凄いのがあったけど、近くに寄りたいけど寄れないという距離が映るし、離れて見たかったら自分の足で離れてと、距離感が全て映ってしまうんですよね。人間同士だったら初対面だから恥ずかしくて近寄れないとかそういう距離が映るし。
- 吉開
- 写真は、おもしろそう
- 石川
- おもしろいですよ。
- 吉開
- やってみたくなってきちゃった。
- 石川
- でも別に映像だって自分で寄ったり引いたりして撮っているんじゃないの?
- 吉開
- はい!けっこう、望遠とかマクロとかすぐに使ってしまうので(笑)。