米津玄師「Lemon」のMV制作秘話
石川直樹さん(写真家)×吉開菜央さん(映像作家、振付師、ダンサー)
2019
03.29
”踊る”から”撮る”へ
吉開さんは、ダンサーとしてだけではなく、自らカメラを手にし、脚本を書き、編集も手掛け、ときには、出演もされます
- 石川
- ダンスをやりながら映像に入っていくことは、自分の身体になり、振り付けした身体を記録していくところから自然な流れで映像に接続していったのかな?
- 吉開
- そうですね。日本女子体育大学の舞踊学専攻だったんですけど、同期が100人くらいのダンサーなんですよ。街の教室でわたしが一番みたいな精鋭たちが全国から集まって、しのぎを削っているようなところで、そういう子たちの身体をみているうちにどっちかというと自分で振り付けたい気持ちが強くなっていって、それを舞台で発表するよりも映像で撮ったほうが私の頭の中に思い描いているイメージが近いなと思ったんです。特にお風呂で踊るダンス作品を作りたいと思ったのがきっかけで、お風呂の水面をばんばんと叩くようなものだったんですけど、カット割りとかカメラワークとかもう頭に思い浮かんでいたので、これはきっと映像でやった方がいいんだろう、それを作品として出そうとおもったのが始まりですね。
- 石川
- 日本女子体育大学だと運動系のイメージがあるし、映像にいく人は少ないんじゃないかと察するんですけど元々、中学高校の頃から体を動かすのが好きだったの?
- 吉開
- そうですね。
- 石川
- それでダンスもやってみたいということで?
- 吉開
- 小6の頃に、B’Zにはまったんですよ。稲葉さんがすごい好きで、ああいう風に歌いたいと、本当は歌が歌いたかったんですけど、自分の部屋で第一声を出したらめちゃくちゃ下手だったんですよ。それで、歌はあかんと思って、稲葉さんがライブでやってるようにライブパフィーマンスを真似しだしたら、それはすごいよくできたんですよ、体にフィット感があって。
- 石川
- 体にリズム感がもともとあったのかな?
- 吉開
- そうですね。音を予測するのが得意です。次にこの音がくる、ここで盛り上がって、この音がきたので、この音で終息するだろうみたいな。
- 石川
- 歌とか楽曲的な話かな?
- 吉開
- メロディーになっているものとか、声の調子を聞いていたんだと思います。
- 石川
- おもしろいね。おれはリズム感がないほうでいろいろ教えてもらいたいくらい。歌も音痴だと思うんだけど、もともと音楽を聴いていて音が予測できるタイプだったんだね。
- 吉開
- そうですね。外れることもあったんですけど、外れることもおもしろいんですよ。今、音が外れて動きとちぐはぐになったけど、それが全体としておもしろいみたいな感じがあったので本格的にダンスを習いたいと親に頼み込んだのがきっかけですね。
「Lemon」のPVは即興
日本で初めて、3億回を突破したミュージックビデオとして話題になったのが、米津玄師さんの楽曲「Lemon」です。この曲の中で、踊っているのが、吉開さん。その踊りは、多くの人にインパクトを与えました。
- 石川
- 米津さんのミュージックビデオで踊っているけど、どういう風に自分で自分を振り付けするのかな?
- 吉開
- わたしが踊っているパートに関しては、あの時に「はいどうぞ、ここで踊ってください」と言われて即興で踊ったものですね。
- 石川
- 即興は面白いよね。全部ぴったり合うのではなくて、少し外れる部分とかがあって、逆にそういうところが見ているほうにはすごく伝わってきたり、体の動きとかも、決まりきってないから、すごくいいなあって思いましたよ。
- 吉開
- ありがとうございます。
- 石川
- リズムにあった中毒性のあるダンスもあれば、吉開さんみたいに即興でやるダンスもあって、僕は圧倒的に即興の方が好きで、なんでかと言うと、その場の空気とか自分自身の直感とか偶然とかを取り入れた動きだから。 いろんな人が見ている中で、期待もある中で即興をする、没頭する瞬間はどんな感じなの?
- 吉開
- 例えば、「Lemon」のミュージックビデオで踊っていた時は、監督さんから出演して欲しいと言われたんですけど、「わたしは、出演するプロフェッショナルではないですよ」と何度も確認したんですよ。でも、「いいんです」と言われて、実際、始まってみたら、あの歌は亡くなった人へのレクイエムみたいなところがあったので、そういうのをモチーフにして米津さんはヒールを履いて、わたしもすごい高い10cmくらいあるヒールを履いていたんです。
- 石川
- ヒール自体は監督の用意した設定?
- 吉開
- 確か米津さんがヒールを履きたいということだった気がします。そして、監督がヒールを亡くなった人と結びつけるモチーフにしようとしていたような気もします。
- 石川
- 何テイクも撮ったの?
- 吉開
- 10回くらい。最初は着ている服がラフだったので、スニーカーでやったんですよ。久しぶりに人前で踊ったので緊張して、たくさんスモークもたかれて綺麗な照明もあたって、この空間を私が盛り上げねば誰が盛りあげるんだと思って踊ったら、みんな結構唖然としていました。そして、ヒールを履いて踊ってみましょうとなったんです。そしたら、その時にすごい制約が出たんですよ。10センチのヒールは履かない、それで踊ったこともないし、すごい自分の中では自縛霊じゃないけど、生と死の間にいるような足かせみたいな感じになって、さらに自分の緊張感とかも相まって何か謎の動きがうまれたんじゃないかな。
- 石川
- 練習してできるもんじゃないしね。
- 吉開
- ないですね。でも何回も踊らされましたが、毎回違うことして、毎回、スタッフさんを脇見させないようにしようと思っていました。その一回だけの舞台のような気持ちで踊っていましたね。
- 石川
- その気合や気持ちが伝わってくる踊りだったよね。
- 吉開
- 正直、最近、ダンスを世の中でたくさん見るけど、リズムと同調した気持ちの良い動きが多いですけど、結構あれが公開された時に、あんまり普段ダンスを見られないような方から「ダンスってああいう感情が伝えられるんですね、初めて知りました」と言われることが多くて、自分としては、やってきたダンスが、むしろそっちが近かったから、そういうものでしょと思っていたけど、世間ではそうではないんだと思って、それが新しい目線や見方になるんだと思って、そういう感想もらえると、やってよかったなぁと思いますね。