「いい顔をしてる植物」とは?

風間ゆみえさん(スタイリスト)×小田康平さん(植物店「叢」店主)

2019

02.01

null

広島県広島市の繁華街から外れた静かな街の一角にある「叢」。ここでは、サボテンをはじめ、様々な大きさの植物が、所狭しと並んでいます。小田さんならでは審美眼で集められた植物は、どれもユニークな風貌なものばかり。小田さんは、それらを「いい顔をしてる植物」と呼んでいます。

null

園芸業界のタブー破る



小田
サボテン園芸は江戸時代くらいからあるんですよ。

風間
えー。

小田
そこからいろんな技術とか知恵で様々なサボテンが交配で作り出されていくんです。その伝統的な考え方はかなり盆栽に近くて、僕はど素人でこの「叢」という会社を立ち上げたので全然知らなかった。

風間
それはいつですか?

小田
8年前です。仕入れる場所とかサボテンの伝統的な考え方も全く知らずに入っているんです。でも、仕入先のおじいちゃんは、ガチガチに固まってる価値観があるんで、それはそれで見事なんですけど、僕、素人だからよくわかんないから、「こっちのほうがかっこいいですよね」と言って全然価値のないものをチョイスして満足して帰るみたいな。「あいつバカか」と言われながら。会社を立ち上げて最初の4〜5ヶ月ぐらいはほぼサボテンは売れず、もうやばいやばい。お店を立ち上げたのに誰にも言ってないし、看板もないし、勝手に倉庫でサボテンをいじくってるみたいな。自分でかっこいいなと思ってるだけで、売れるわけないですよね。それで初めてサボテンを売っていくためには東京に行くしかない、それで最初は、恵比寿のギャラリーで展示をしたのがはじまりですね。僕は常々、植物はすごいと思っているんですけど、ただの美しさや綺麗さではなくて、生き様が反映されているような、苦労してきたんだなと感じられる植物にいい顔してるって呼んでいますね。その価値観は、これまでの園芸業界ではタブー、逆のことを言っているので、例えば、お祝いで届く胡蝶蘭はちょっとでも傷が付いたら価値がなくなるんですよ。だから守って、守ってお客さんまで届けていたんですけど、生きていたら傷も負うし、自然界なんてめちゃくちゃ激しいわけで、食べられたり風が降ったり雨が降らなかったり、そんな中でも頑張って生きてる様の方が僕はかっこいいなと思って、一つの傷とか折れたり曲がったりする様もよく頑張ったなと、今元気でやってるならそれでいいじゃんみたいな、そういう感じで植物を捉えていますね。


null

惹かれる植物




風間
サボテンを育てたりもするのですか?

小田
しますね。

風間
小田さんがいろんなことを唱えていたらサボテンの形が変わりそうですよね? 

小田
狙って伸ばすこともあるんですけど、基本的には自然に、植物が生きたいままに生かせるんです。こうなればよかったのになぁという思いはあるけど、そうはならんですよ。そうはならんのが好きなんです。嘘でしょ?!みたいな育ち方をすることがよくあるんでね。僕はクローン植物が嫌で、何がいいかというと、現地の植物がいちばんいいと思っていたんですよ。

風間
現地って?

小田
アリゾナ、メキシコやアンデスとかに生えてる植物はでっかいし、その土地の風や日を浴びてストレスもかかって、それでも頑張って生きてるみたいな姿が最高。だからそれに似た植物が手に取れればいいなと思っていたんです。それよりも僕がそわそわするのは、昔、アスファルトから大根が生えたというニュースがあったじゃないですか。あと、遊園地が潰れて観覧車に蔓が巻き付いて、そういう廃墟とか文明がある上に植物が覆いかぶさるみたいなのが怖いなって思うんです。そういう方が自分をそわそわさせる、ドキドキさせるので、現地のサボテンもいいんですけど、人間がこうあればいいなと思う姿と全然違う風になった次木とかが好きなんですよ。

風間
手放すの嫌になりませんか?

小田
嫌になりますよ。一個しかないから手放さない人はコレクターになっていくんですよね。僕は飯も食わないといけないので、割と冷静にと言うか、そういう意味ではないんだけど、手放すのが当たり前だと思ってるんです。はっきり言うと寂しい。寂しんですけど、それを売れたから今度また買いに行けるじゃないですか、買いに行くと、また居るんですよ、すごいのが。だからその寂しい寂しいと手放さなかったら次の出会いがないと思ってるんで。

風間
私も以前、例えば100足を超える靴があったわけですよ、どれも美しい、偏愛ですよね。手放せなくて、次から次へとくるし、ふんぎりしたきっかけは引っ越しでしたけど。

小田
お別れしたんですか?

風間
しました。大きなフリーマーケットをして、たまにいまだに何かのイベントでそこで買った靴を大事に履いてくれる人に再会したりして。

小田
うれしいですね。

風間
うれしいです。そう思うと手放せるようになって。

小田
植物もありますね。現物を見ることは少ないですけど画像で見させてもらって、あの時に買った植物が元気になっていますと言われるとすごいうれしいですよ。

風間
わたしだったら会いに行ってしまいそう。


これまでの記事

その他の記事