自分のやりたいやり方しかできない

寺島しのぶさん(女優)×平貌愡劼気(映画監督)

2018

05.11

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平柳監督から役に向き合う姿が”アスリート”のようだと言われた寺島さん。そんな寺島さんが役を演じる上で、最も大切にしていることとは?


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頭で考えない



寺島
やっぱりね、反射神経、運動神経。投げられたものを打ち返すとか、スポーツだって全部間合いじゃないですか。剣道にしたって、一瞬の間をついて、「か!」といくわけでしょ。芝居もそうなんですよ。いかに独特の間を持っているか、人の間を壊したりとか、人の間を読んだりとか、そういうのが運動なんですよね。 相手がどうくるんだろうっていう、常に勝負しているじゃないけど、監督とも勝負ですよ。はじめてみせる、自分がどれだけのものかっていうのを見せないといけないし、やっぱりこの人でよかったと思われたいし、監督が思っている以上のことをやりたいなって常に思っているから、それが間違ってようが間違ってなかろうが、その人をびっくりさせる仕事だと思うんですよね。人と違うことをやるのがそれぞれのオリジナリティーだからそれを監督が素直に楽しんでくれたりするとすごい嬉しいし、また逆に監督から「これはこうじゃないですか」と言われた時に「あーなるほどな」と思ってまた違う風に返すとか、そういうラリーですよね。

たしかにそうですよね。頭を使ってしまうと、ゲームになってしまうではないですか、人をいくら騙すか、それじゃないんですよね、やっぱり、本能とかエネルギー的なところで、寺島さんも動いていらっしゃるんでしょうね。

寺島
頭使った時点で見えちゃうんだよね。

たまにありますか?自分でわたし何やっているのとか?

寺島
あるある!頭で考えてやりすぎているなっていうのはすごいある。だけど、それは絶対的にダメなんだよ。絶対的に見破られてしまうし、もちろん頭でやっている役者さんもいるけど、自分はそういうタイプではないんだな、考えた時点で終わるんだな、とにかく心が感じたことをそのままやればいいというところでこれからもいたいなと思いますしね。


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演技って難しい!



カメラを全然意識しないんですか?

寺島
うん。意識しない。

しないというか、できないというか、最初からそういうタイプだったんでしょうね。

寺島
最初からそういうタイプだった。

そういう風に思いました。

寺島
甘やかされたところで育っているというか、『赤目四十八瀧心中未遂 』にしても『ヴァイブレータ』にしてもカメラマンさんがとにかく360度回転して、野放しにして、切り取るからというやり方で評価されちゃっているから、若松孝二監督に会った時に「おまえ、ここで見えなきゃしょうがないんだよ!」と言われて「撮ってくれると思っちゃだめだよ。撮られにいかなきゃ」って言われて、そこでまた学んだりしたんだけど、でも基本、わたしは舞台出身の人間だから360度どこを撮られてもいいですよという態勢で育ってきているでしょ。だから「ここだけに集中してください」と言われると逆に困っちゃう。不器用なんですよ。『スリービルボード』見た時にフランシス・ マクドーマンドは、絶対的に心で芝居して、ものすごい的確な表現するでしょ、これがわたしにはないと思った。ここぞ!という時のわかりやすい演技、わかりやすい表現方法、それを『スリービルボード』で勉強しましたよ。

それはアメリカ人だから?例えば、わたしは英語をしゃべってから気づいたんですけど、アメリカ人は眉毛を上げたり下げたりする典型的な仕草みたいなカルチャーに慣れているからかもしれない。表現の仕方が最初から日本人と違う。関西人はもっとわかりやすんじゃないですかね?東京の人ってクールじゃないですか。

寺島
だからわたしはたぶんフランス人なんだよね。

(笑)。そうかもしれないですね。

寺島
アメリカ人って表現が大胆だよね。

そうですね。

寺島
喜び方にしても、絶対に心では、ウエルカムじゃなくても、ウエルカムってぽいことできるじゃん、フランス人は本当にウエルカムじゃないと、露骨な顔をするでしょ。

(笑)。そうなんだ。

寺島
ある意味正直なのよ、フランス人は。

わかる、わかる。

寺島
そこがわたしは好きなのかもしれない。仲良くなればなるほど、優しくしてくれるけど、はじめのあの怖さったら、ないでしょ。

そうですかね。そこまで!

寺島
やっぱり最初はアメリカ人のほうが優しいって思うだけど、あれこんなはずじゃなかったという仕打ちもされているから、旦那にみんながみんな同じフランス人じゃないといつも怒られるだけど、文化ってあるんですよ。

そう言いながらも寺島さんの演技はすごく評価されていますからアメリカ人でもわかるんですから、そのへんはどうなんでしょうね。

寺島
ちょっとアメリカで受けたのは意外だったね。だってカンヌで見た時、自分の演技に愕然としたもんね。わかりにくすぎて。でもさぁ、技術を身につけたところでとも思うわけ。

そうですよね、だから自分のやりたいやり方しかできないんですよね。きっと。

寺島
そうなんだよね、結局、

それでまた意識したら、どんでもない演技になるかもしれない。

寺島
そうね。それこそ頭で考えてしまう。難しいよな。演技って。


映画『オー・ルーシー!』は、4月28日より、ユーロスペース、テアトル新宿他にてロードショー。

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