結婚に至るまでの道のり
林望さん(作家・国文学者)×阿川佐和子さん(作家・エッセイスト)
2018
03.18
昨年ご結婚された阿川さん。そんな新婚の阿川さんに結婚に至るまでの道のりを、さらには、リンボウ先生には、日本の名だたる文豪たちが、どんな結婚生活を送っていたのか、それぞれの女性に対する考え方を伺いました。
昨年ご結婚され、還暦婚などと話題となった阿川さん。「ようやく結婚いたしました。穏やかに老後を過ごしていければ幸い」というコメントも発表されましたが、実は若い頃から結婚願望が強かったそうです。
阿川佐和子さんと脚本家の大石静さんとの共著「オンナの奥義 無敵のオバサンになるための33の扉」は、文藝春秋から発売されています。
数多くの歌曲の作詞も手がけているリンボウ先生。3月31日に、小金井宮地楽器ホールでは、『演劇的組歌曲 悲歌集(ヒカシュウ)の再演』と題するコンサートが開催されます。
日本の名だたる文豪たちの結婚観
- 阿川
- わたしはリンボウ先生に強く申し上げたい。文士というのはめちゃくちゃな仕事をしていると。今の小説家は家庭に仕事を持ち込まない方も多いから家族が迷惑することもないけれど、昔は小さな一軒家の中で締め切りに追われて悶々と苦しんで、そのイライラを家族にぶつけることもあって。父は直情型だから「おれがこんなにイライラしているのにおまえたちはうるさい!」とお膳をひっくり返すみたいになってしまうから家族一丸となって父が心地よくなるように支えないといけなくて、「今日、友達と出かけてくる」と言うと「俺の晩飯の手伝いをするのはおまえの使命だ」みたいなことになってしまうんですよ。「養われているうちは子供に人権なんかない」と。
- 林
- (笑)。それは漱石型なんですね。
- 阿川
- そうなんです。夏目漱石も奥さんが悪妻と言われているけど、わたしは奥様の言い分も聞きたかった。
- 林
- 漱石はそうとうひどいよ。
- 阿川
- でしょ?奥様は後世に渡って、夏目漱石の妻はひどい女だったと言われ続けるのはかわいそうで
- 林
- だって漱石がロンドンから出した手紙を読むと、奥さんに対して「お前の生んだ子はへんな顔をしている」とか「どうせおまえの娘だからしかたないだろう」とか言いたい放題。おまえのような頭の悪い奴にはわからないから言って聞かせるんだとひどいことを散々言うんですよ。帰ってきてからも奥さんにあたりちらすんだよ。普通の人では務めらないですよね。
- 阿川
- そうですよね。漱石の奥様は気丈な人だと思うんだけど。
- 林
- 例えば、漱石を崇拝する弟子どもがいるんですよね、その弟子からみると漱石は絶対的な神様みたいな存在、それに対して一生懸命逆らっている女は悪妻だと言われてしまう。
- 阿川
- あーかわいそう
- 林
- 大きな間違いだと思います。
- 阿川
- ここで訂正してくださってありがとうございます。
- 林
- もうひとつは森鴎外型というのがあって、これは家族を守る戦う父親ですね。そのかわり、父さんは正しいというファザーコンプレックスばかりになってしまう。
- 阿川
- それもちょっと困りますね。
- 林
- 阿川さんとわたしは慶応の出身なんですけど、慶応は非常に女性を尊崇するという福沢先生の気風があってね。
- 阿川
- 慶応の男子は女性を同等にみる気風は受け継がれていますね。
- 林
- 福沢先生はお母さんに育てられてお姉さんたちがいて、その家庭の中が和気あいあいとしていて何のけがわらわしいこともなかった。福沢先生にとっての女性は理想なんですよね。女をバカにするようなこと、差別するようなことは許せないんですよ。
- 阿川
- 感情的に許せない?
- 林
- 許せない。男女共同参画、男女平等の最先端であの軍国主義の時代に未だに日本では夫婦別姓は成立しないけど、福沢先生は夫婦になったら親と違う名前を名乗れと、例えば、阿川と林が結婚したら阿林という名前にするとかね、林川にするとかそういう風に苗字をどっちかにするんでなくて、
- 阿川
- 旦那さんに添うのではなくて
- 林
- 両方から一字をとって新しい姓を作れと
- 阿川
- 新しい姓を作れと、へー!
- 林
- そういうすごい先進的なことまで言っているんですよ。「女大学評論」を読むと快哉を叫びたくなるくらいすばらしい、そういう伝統が慶応にはずっとあるので、慶応ボーイというとチャラチャラしているみたいだけど、女子学生に対しての尊敬というか、尊重というか、そういうのはありますね。
- 阿川
- お父ちゃん、聞いていますかね
- ふたり
- 笑
結婚に影響を与えた父親の存在
昨年ご結婚され、還暦婚などと話題となった阿川さん。「ようやく結婚いたしました。穏やかに老後を過ごしていければ幸い」というコメントも発表されましたが、実は若い頃から結婚願望が強かったそうです。
- 阿川
- リンボウ先生はおいくつの時、結婚されたんですか?
- 林
- 24歳の時結婚しました。
- 阿川
- 早い。
- 林
- 当時は早くなかったですよ。みんなそんなものでした。だいたい阿川さんが遅すぎんですよ。
- 阿川
- まぁそれは否定しません。老婚とか言われていますから(笑)。奥さんはご自分で見つけになって?
- 林
- 大学の同級生ですね。
- 阿川
- へー。何が決め手ですか?
- 林
- 当時はちょいとかわいかったですね(笑)。
- 阿川
- そうとうかわいかったということですね。
- 林
- それはともかくとして、阿川さんのご亭主はどういう方なんですか?大学の先生でしたっけ?
- 阿川
- そうですね。もう定年で辞めましたけど。じいさんばあさん婚です。でも、これが困ったもんで、うちの父は男尊女卑だから、例えば語学ができるとか学術的な能力があるとか、スポーツにしろ、芸術にしろ、秀でた女性は社会に出て仕事をすることはありうるけど、わたしはごく普通で成績がそんなにいいわけはなかったから、年頃になったら結婚して専業主婦になって子供を育てながら亭主の経済力のもとに、嫁として生きていくのが一番適した幸せな道だろうと父も思っていたし、母もそうでしたし。母は、あの当時の女性としては成績もよかったから父みたいな人でなかったら社会に出ていたかもしれないなと後になって思うくらいんなんですけど。
- 林
- でも僕らの世代は結婚したら仕事を辞めてというのがメインでしたね。
- 阿川
- そうでしょ。例え、大学を卒業して社会に出たとしても3〜4年で寿退社をして、会社でもコピー取り、お茶汲みくらい、管理職までいくなんてありえないことだったと思うんです。だから、わたしも専業主婦になることを夢見て、ただひとつの条件としては父みたいな人ではない人を探していたんです。これはある意味でもファザコンなんです。父を意識しすぎるという。
- 林
- なるほど。
- 阿川
- 父のような人に仕える母のような人生を送りたくないと思っていたから、情緒が安定して穏やかな人がいいって思って、大学を卒業するちょっと前からお見合いに励む、励む、あらゆる人に会ったんですけど別に高望みしていたわけではなんだけど縁がなくて。
- 林
- 一人娘でしょ、
- 阿川
- はい。それを言われますけどね、一人娘がなんですか?
- 林
- お父様は非常に娘に対して特別な愛情を持っておられたんでしょうね。
- 阿川
- 愛情表現は人それぞれでしょうけど、この子はかわいいからなんでも好きにさせてあげたいなんて気はさらさらないですからね。
- 林
- (笑)。
- 阿川
- とにかく学校に行くのをやめて俺の手伝いをしろ、母の手伝いをして1日、台所にいて、俺が夜、ご飯を食べる時によしよく作ってくれたって、わたしは忠犬ハチ公か、そういう娘を望まれていたんだから。
- 林
- でもさぁ、そういう父親がいるところに男は行きにくいですよ。
- 阿川
- 娘は不幸になる道なんですよ。
阿川佐和子さんと脚本家の大石静さんとの共著「オンナの奥義 無敵のオバサンになるための33の扉」は、文藝春秋から発売されています。
数多くの歌曲の作詞も手がけているリンボウ先生。3月31日に、小金井宮地楽器ホールでは、『演劇的組歌曲 悲歌集(ヒカシュウ)の再演』と題するコンサートが開催されます。