本当の豊かさとは何か

松浦 弥太郎さん(ウェブメディア「くらしのきほん」主宰、エッセイスト)×水野 仁輔さん(カレー研究家)

2018

03.04

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生活や暮らしについてのエッセイ本を数多く出版されている松浦さん。心地よい日々の暮らし方とは何かを教えてくれるそのライフスタイルも注目されています。一方、家で本格的なスパイスカレーが作れるキットを発売するなど家庭の食卓が豊かになるカレーレシピを数多く紹介する水野さん。そんなお二人のこだわりや習慣にフォーカスしていきます。

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日曜日の朝7時、何をしている?



松浦
こだわりというわけではないんですけど、大事にしていることがひとつありまして、それは日曜の朝7時に自分が何をしているのかということ。

水野
7時まで限定なんですね

松浦
そうなんですよ。日曜の朝7時に何をしているのかで、自分の大げさかもしれないけど、人生や生き方、自分を鏡に映す感じがすごくするんですよ。日曜の朝7時にまだ寝ていますという人もいるし、着替えて外でマラソンをしている、朝食を食べている、こんな気分で部屋にいるとか、みんないろいろあると思うんですけど、あくまでも僕個人は、自分自身のバロメーターにしているんです。日曜は仕事がなくて、自由だから何をしているのか、そこが自分自身に対する好奇心ですね。

水野
土曜の夜深い時間まで飲んでしまったりするとね(笑)。

松浦
終わっている(笑)。こうありたいと思っているのが、もちろん7時には起きていて、ぼんやりでもいいんですけど、椅子に座って、リラックスしている状態がいちばん心地いいなぁと思っているんですよ。朝食を食べたりするんですけど。朝食べるものは決まっているんですか?

水野
決まってはいないんですけど、僕は習慣的に日曜日に限らず毎日、朝、出汁をとっています。そういうと、ストイックな生活をしている感じがするけど、でも前の日の夜、寝る前にどんなに眠くても鍋に水をはって昆布とか煮干しを入れておくだけなんですよ。朝起きてきて、顔洗ったり、歯を磨いたりする前に一番最初にキッチンに行って、火をかける。その後は何をしていない。しばらく経ったら、もう出汁が取れているんですよ。水をはったところに昆布のエキスもできているし、きっちりした出汁の取り方をしているわけでないけど習慣化してしまえば、なんともないことで、それが朝、味噌汁になる場合もあるし、適当な余ったものをぶちこんで塩だけふって、スープになることもあるので。これで、朝、すごい豊かな食事ができるんですよ。ほぼ何もやっていないし、朝ごはんのためにがんばってないんですよ。月曜から土曜までは和風の出汁なんですけど、日曜日だけはチキンブイヨンをとるんですよ。鶏ガラと香味野菜、あれはちょっと大変でめんどくさい。まず強火で煮立てて、灰汁を取り除いてからセロリとか人参とか香味野菜を入れて、時々余ったスパイスを入れたりして、そこから長時間ことこと弱火で煮ていくんですけど、調理をしている時間は人によって違うんですよね。例えば、カレーだと、玉ねぎを15分炒めて、その後、牛肉を入れて60分煮込みましょうといった時に、レシピを見て、この料理は75分の時間がかかる、そうなると、時間ないわとやめようとなるんですよ。でもこの75分というのは平等ではないんですよ。

松浦
60分鍋の前で立っていないといけないと思っているでしょ。

水野
そうじゃないんですよ。その時間に何をするのか、だから僕が毎朝出汁取るとのも、僕が寝ている間に昆布さんはやっていてくれるんですよ。自分が直接向き合ってなくても時間が解決して、おいしくしてくれるものやレシピに関して、もっと提案の方法があるんじゃないかと思うんですよ。

松浦
伝え方でしょ。観念的に。

水野
弥太郎さん、それを一緒にやりませんか?60分の煮込むカレーと一晩のマリネが必要なレシピを僕が作った時にすごく豊かな時間の過ごし方がレシピにくっついていれば、それはめんどくさいと思われないと思うんですよ。


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自分の物差しを持つ



松浦
すごい愚問かもしれないけど、普通の人よりかは、カレー食べるんでしょ?

水野
僕が?それは愚問もいいところじゃないですか(笑)。そうとう食べますよ。

松浦
やっぱりそうなんだ?

水野
ただ昔は、能動的に積極的に食べ歩きをしていたので、いろんなお店に行っていたんですけど、5〜6年以上前から外食に興味がなくなったんですよ。ここ5〜6年にできた新店舗はほぼ行っていないですよ。おいしいカレーを食べたいとは思うけど、僕の中で5軒くらい昔から通っているカレー屋さんがあって、この5軒だけ、毎月1回ずついければ、僕はもう幸せだな。

松浦
出会いがあれば食べるけど、わざわざ自分が出向いて意識的に出会いを作る事に対しては、今は違う。

水野
そうですね。

松浦
僕も新しくできた本屋とかほとんど行っていないですね。自分の好きな何軒かを定期的にまわっていて、もし出会いがあったりしたらそれは入れ替わることがあるかもしれないけど、あえて情報収集的に歩く回ることはないかな。なんでかな?
水野
たぶんですけど、僕はカレー、弥太郎さんは本という分野で自分なりの物差しがある程度できたと思うんですよね。その時に自分の物差しで自分がどこにいるのかを図るためには通い慣れた何軒かがあればそれで十分で新しい物差しは今必要としていないと思うんですよね。このことを感じたのは「きょうの料理」の元編集長が渋谷のムルギーという老舗のカレー屋さんが大好きでその元編集長が言っていたのは「僕はムルギーに行ってカレーを食べると、自分の体調がわかる」と。

松浦
おー!

水野
ムルギーのカレーにそういう効能はないけど、彼の中の物差しとルーティーンがムルギーだから彼の尺度でムルギーを食べた時に、おれ今日疲れているなとか、けっこう調子いいなとかが他の料理を食べてもわからないけど、ムルギーを食べるとわかるんですよと。

松浦
(笑)。

水野
これはカレーライフでいうと一番幸せなことだなと思ったんですね。

松浦
なるほどね。今聞いてこれまで自分で考えもしなかったけど、本にもあるかも。

水野
そうですか。

松浦
自分が好きな本があって、それを読むことで今の自分のコンディションがわかる。

水野
そうそうですよね。感じ方とかでしょ?

松浦
このページのこの内容を読んでいる自分が、今日こうであることは調子がいいとか調子が悪いとかね、それと似ているのかもしれない。

水野
だから繰り返すことで、自分が感じること。

松浦
豊かさってそういうこともしれないね。自分の繰り返し向き合う何かをいくつ持っているのか。

水野
そうですね。


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