今だからこそ作りたかった音楽

松本隆さん(作詞家)×クミコさん(歌手)

2017

12.10

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先日、学問や芸術などで功績を残した人に贈られる紫綬褒章を受章された松本さん。長きにわたる作詞家人生が評価されての受章でした。そんな松本さんと、現在、「クミコ with 風街レビュー」として一緒に活動されているのが、歌手のクミコさんです。
9月にリリースされたニューアルバムには秦基博さん、永積崇さん、つんく♂さん、クレイジーケンバンドの横山剣さん、亀田誠治さんなど、今のJ−POPシーンを代表する気鋭のアーティストたちが参加し、見事なコラボレーションを実現させました。

読み通りのメロディーが仕上がってくる



クミコ
全編、松本さんの詩だけど、曲は、いろいろな方々で手がけてくれました。

松本
このアルバム、2つ、しばりがあって、ひとつは、ラブソング。もう1つは、松本隆がいままで組んだことのない作曲家と新しく組む。若手の今、尖った人たちとコラボするというものだったんです。だからいままでやり慣れた人はひとりもいなくて、それぞれ、付き合いはあるんですけど。

クミコ
わたし、聞きたかったことがあって、松本さんは、曲が先の場合も詩が先の場合も両方あるけど、詩をまず書く場合、そのときにこういうメロディーが付くといいなというのはあります?

松本
だいたいあるし、ほぼそういうメロディーがついてくる。

クミコ
え!うそ!今回も?例えば、「枝垂桜」は亀田誠治さんが作曲してくださって、わたし、詩からみたので、亀田さんが曲を付けてくださったときにびっくりしたんです。松本さんが「枝垂桜」を書いたとき、どうでした?

松本
「枝垂桜」は”桜くらくら”というサビは、はっぴいえんどのときからやっているので、そういうのは一番、細野さんがうまいから、縛りがなければ細野さんだけど、亀田さんもベースだし、似ているかな。

クミコ
この曲を聞いたとき、こんな風になったなと思いました?

松本
「はっぴいえんど」っぽくきたなって。だから合っているのよ。

クミコ
たしかに。

松本
だいたい僕が読むと読み通りになるの。

クミコ
えー。七尾旅人さんの「不協和音」とかはどうです?

松本
七尾さんは、2曲か3曲くらい僕の曲をカバーしてくれていて、歌が上手いのを知っているからこういう感じだろうなと思った。

クミコ
すごいな。そうなんだ。だいたい詩を書いていると、こんな風になるであろうみたいなことの予想が広がってその中にだいたい入ってくるという感じ?

松本
曲先のほうが読めない。

クミコ
今回も曲先がいくつかありますけど。

松本
横山剣さんが一番読めなかったね。

クミコ
この「フローズン・ダイキリ」は評判がいい曲なんですよ(笑)。

松本
シングルカットの噂もでていますよね(笑)。

クミコ
これが曲先だったというのが意外だと思われると方も多いかもしれませんね。

松本
ちょっとカントリーっぽく、クミコとどういう設定なんだろうと思いながら書いていたらのりのりになってしまって、あっという間に出来て、クミコの自叙伝みたいな歌になってしまったなぁと。よく考えると自分のことにも当てはまるし、酒のことも当てはまるし、僕とクミコさんは似ているのかなって。
クミコ
松本さんはお酒が飲めなくて、わたしがお酒を飲みすぎちゃったみたいな。

松本
「しゃくり泣き」の2番を聞いていてもおれのことかなと思って(笑)。

クミコ
詩の中に松本さんがたくさんいらっしゃいますよ。わたしいつもこれ松本さんだなと思う。それが男の人であっても女の人であっても、けっこう松本さんな感じだと思ってしまう。そういうのがみなさん好きで、松本さんの詩を愛している人がたくさんいらっしゃると思いますよね。


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シューベルトが聞いても喜んでくれる


今回のおふたりのニューアルバム、「デラシネ」は、選び抜かれた気鋭の作曲家たちによるメロディと、松本隆さんの言葉のマリアージュが楽しめる一枚。中には20代のシンガーソングライターの吉澤嘉代子さんのような若いアーティストの楽曲もあれば、クラシックの巨匠、シューベルトの曲に松本さんが歌詞をつけた1曲も収録されています。そして、アルバム全体のサウンドプロデュースを手がけているのは、冨田ラボの冨田恵一さんです。

松本
亀田さんとか菊池さんとか巨匠と言われる人が多いよね。村松さんもそう。どちらかというと、アレンジャーが曲を提供しているようで、おもしろいなと思う。そういう人たちはとんがっていて、人の言うことを聞かないし、一筋縄ではない大家なんですよ。そういう人たちがやってくれるだけでもすごいのに、みんな凌ぎをけずって、必死にまわりに負けないようにがんばっているのが伝わるので、すごいアルバム。

クミコ
化学変化が大きければ大きいほどおもしろいと思いますね。少しずつ裏切り続けるじゃないけど、こうきたんだなとか。詩、曲、富田さんのアレンジ、そこにわたしなりの一生懸命の歌を入れると、4者の中で科学反応が起こり、それがうまくいったときはすばらしいなと、今回特にそう思いますね。

松本
サウンドプロデュースをやってくれた富田くんがすばらしい仕事をしたよね。

クミコ
わたしもそう思います。

松本
ちょっと水と油の曲もあるんだけど、間をすごく上手にやってくれて、シューベルトとクミコとか合いそうもないんだけど。

クミコ
わたしもまさかこんなことになるとは思いませんでした。

松本
見事にエレクトロな感じで、しかも最新でおしゃれな音楽にも変身してします。シューベルトが聞いても喜ぶと思うよ(笑)。世界的に見てもこんなお洒落な変身はないと思うんだけど、シューベルトの中でいちばん有名な曲が「セレナーデ」でそれに詩をつけるのは荷が重くておもしろくて、なんとか上手についたのでクミコさんにまず歌ってもらおうと。歌うとちゃんとポピュラーになるのね。いい曲はジャンルを超えるんですね。シューベルトは不遇なまま31歳くらいで亡くなってしまうけど、ほんとうに純粋でいつも振られてばかりの曲が多い中で「セレナーデ」だけは珍しく求愛の歌なんですね。どういう心境の変化があって作ったんだろうと思いながらね、ラブソングですからこの中に入っても違和感ないかな。


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