年齢を重ねて進化し続ける
松本隆さん(作詞家)×クミコさん(歌手)
2017
12.03
松本さんは、ロックバンド「はっぴいえんど」を経て、作詞家に転身。歌謡曲、J−POPの名作に多数の詩を提供する日本を代表する作詞家の一人です。一方、シャンソン歌手として活動をスタートさせたクミコさんは、2010年、紅白歌合戦の出場で、広くその名前が知れ渡りました。
2人の出会いは1999年。まだ無名だったクミコさんに松本さんは、「街角の歌姫」という称号を与え、クミコさんのアルバムをプロデュースしました。そして今回、17年ぶりに「クミコwith 風街レビュー」としてタッグを組んだおふたり。今回は、彼らの出会い、そして松本さんの歌詞が生まれるプロセスに迫っていきました。
松本隆さんとクミコさんのユニット「クミコ with 風街レビュー」は、9月にアルバム「デラシネ déraciné」をリリース。収録曲全ての作詞を松本さんが担当。作曲陣には、亀田誠治さん、横山剣さん、菊地成孔さんら気鋭のソングライターたちが名を連ねています。大人のラブソングが詰まったこのアルバムにドキッとするようなフレーズにハッとさせられることも多いのですが、松本さんはどんな風にして歌詞をつむいでいったのでしょうか。
2人の出会いは1999年。まだ無名だったクミコさんに松本さんは、「街角の歌姫」という称号を与え、クミコさんのアルバムをプロデュースしました。そして今回、17年ぶりに「クミコwith 風街レビュー」としてタッグを組んだおふたり。今回は、彼らの出会い、そして松本さんの歌詞が生まれるプロセスに迫っていきました。
17年ぶりのコラボレーション
- 松本
- おはようございます。
- クミコ
- おはようございます。よろしくおねがいします。初めて会ったのが18年前くらいですか。突然、まったく売れないわたしのCDを松本さんの事務所に強引に送りつけたディレクターがおりまして、それから、松本さんの事務所に伺ったんですけど、松本さん、あの時、どうでした?わけのわからない女が訪ねて来て。
- 松本
- 昔ね、あがた森魚さんのプロデュースをして「乙女のロマン」というアルバムを作ったんですね。そのときに「最後のダンスステップ」という 緑魔子さんの声がはいっているのをクミコさんがカバーしていて、聞いたらおもしろかったので、この仕事、引き受けようかと思って。
- クミコ
- そして、2000年に「AURA」という鈴木慶一さんもサウンドプロデュースみたいな形で関わってくれたアルバムをリリースしました。
- 松本
- 「はちみつぱい」というか「ムーンライダース」の人も手伝ってくれて。詩は僕がフルアルバム書いて。
- クミコ
- おもしろいアルバムでしたね。
- 松本
- ずっと松田聖子を作っていて、明るいポップな女の子ばかりやっていたので、たまには根暗の・・・
- クミコ
- 根暗のやさぐれた、年増の女みたいな(笑)。
- 松本
- そういう人の歌もやってもいいかなと感じていて、それがこのくらい歌が上手い人なら歌えるかもしれないとね。
- クミコ
- そういう人たちをよく集めたなという感じですよね。
- 松本
- だから名盤として残るんじゃないですか。そこから17年経って、鬼のマネージャーから「松本さんもう一回やりませんか?」と言われ、
- クミコ
- そうなんですよね。鬼のマネージャーなんですが、勘をもっていて、今の松本隆がいい!ということで、こうして17年ぶりにタッグを組むことになりました。
歌詞が生まれる瞬間
松本隆さんとクミコさんのユニット「クミコ with 風街レビュー」は、9月にアルバム「デラシネ déraciné」をリリース。収録曲全ての作詞を松本さんが担当。作曲陣には、亀田誠治さん、横山剣さん、菊地成孔さんら気鋭のソングライターたちが名を連ねています。大人のラブソングが詰まったこのアルバムにドキッとするようなフレーズにハッとさせられることも多いのですが、松本さんはどんな風にして歌詞をつむいでいったのでしょうか。
- 松本
- 今回は普通に真ん中でラブソングをテーマに作ろうと思った。恋愛の歌が歌の原点だと思うのね、そうじゃない歌もたくさんあるんだけど。
- クミコ
- 歌詞の中によく覚えているな、言語化してくれたな、と胸がキュンとしたのがあるんですが、松本さんはそういう感覚をよく思い出しますね?
- 松本
- ぼくも数十年前のことだもん。
- クミコ
- そこからもってくるのですか?
- 松本
- もってきますよ。記憶の迷路みたいなのがあって、そこを散歩するんですよ。
- クミコ
- 頭の中にイメージで写真みたいのがつまっているってことですかね?
- 松本
- ぱっとみると忘れているんですけど。人間忘れ去ることはないと思うので。沈んでいるだけで覚えているんですよ。普段はそんな海底みたいなところまで届かないから忘れてしまった、で終わってしまうんだけど、真剣に戻っていくと必ず思い出しますね。どんどん新しいことが上に積もってくると上のほうがどんどん忘れていってしまう。でも子供の頃の記録はもっと底のほうにあるから覚えていたりするのね。
- クミコ
- そこから海底の砂があがるように「あ!これだ」と言葉があがってくるのですか?
- 松本
- いえ、こっちから吸いに行く。
- クミコ
- そんな歌詞を歌う時、今回のアルバムは、わたしが勝手にどうするべきものではなくて、ただ声を提供している人間で、ちょっとした思い出はあるにしてもそれは決して深く掘りすぎずにきちんとお伝えする役割をすればいいのかなという気持ちでのぞみました。得てして歌い手は自分が支配していくんだ、みたいな感じで世界観を出そうと思うんですね。でも今回はそれをやめようと思って。昔、最初に松本さんにお会いしたときに「クミコさんって自分が5cm掘った言葉を勝手に5m掘っちゃう人だよね」って言われ、それは褒め言葉でおっしゃってくださっていたと思うんですけど、今となるとそれは、わたしのネックになっていることじゃないかと今回すごく思って。自分の癖をなくして、声はただそこにあるだけで、声も作ろうとしないようにしてただ声だけでやっていこう。きちんと歌っていくことだけをやったので、終わったときにちゃんと自分で聴けて、これでよかったんだと思いましたね。
- 松本
- 本人は謙虚におっしゃっているけど、一段、深まっただけです。歌に関して。
- クミコ
- 嬉しいな。
- 松本
- これでいままでクミコ嫌いという人がたぶん耳を傾けると思うよ。何も癖がないから嫌いになる要素がない。好きになる要素はいっぱいあるんですけど。
- クミコ
- そうか!
- 松本
- おもしろいですね。この年になってもぼくらは進化し続ける。
- クミコ
- 発見は多いですね。