刺激し合う存在
岸田繁さん(ミュージシャン)×反田恭平(ピアニスト)
2017
07.16
岸田さんは、京都府生まれ。今年、結成21年目となるロックバンド「くるり」のボーカル、ギタリスト、作曲家として、日本の音楽シーンの第一線で活躍し続けています。一方、高校在学中に日本音楽コンクールで第1位を獲得し、一躍、注目されるようになった反田恭平さんは現在、22歳。その若さがクラシック界を震撼させ、“21世紀のリスト”との呼び声高いピアニストです。
イタリアの名門オーケストラと共演した反田さんのアルバム『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第二番』について、岸田さんが「感動しました」とTweetしたことがきっかけで初対面を果たしたおふたり
岸田さんは、昨年12月、作曲家として夢だった自身初のオーケストラ作品「岸田繁 交響曲第一番」を完成。世界的指揮者・広上淳一さんと、京都市交響楽団によって、地元京都で初演され、その演奏を収録したCDが、先日発売されました。およそ1年半をかけて作られたオーケストラ作品で、岸田さんは新たな扉を開くこととなります。
ピアニストの使命
イタリアの名門オーケストラと共演した反田さんのアルバム『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第二番』について、岸田さんが「感動しました」とTweetしたことがきっかけで初対面を果たしたおふたり
- 岸田
- 実際にお会いするのは、はじめてなんですけど、知り合いのレコード会社の人と飲んでいた時に反田さんのCDを聞かせてくれたんですよ。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番はすごい好きな曲だったんですけど、オーケストラがやっている演奏ばかりを聞いていたので、他のを聞いてもテンポが遅いなとか、音質が気になって、それ以外認めていなかったというと失礼な話なんですけど、でも、反田さんのは、聞いてみたら全然違う曲に聞こえて、すごく感動したんですよね。
- 反田
- ありがとうございます。
- 岸田
- 僕、そんなにわかっていないんですけど、音は、音質自体とかタッチで個性や楽想をコントロールしていると思うんです。それが自分の考えていたのと全然違う方向で、はじめて見た映画みたいに感じました。あと金管がかっこいいのが印象的。クラッシックを聞いているとなかなか新曲ではなくて膨大なアーカイブされたものの中から聞くことが多いんですけど、それが新曲に聞こえる瞬間や思っていたのと違うインプットが入ってくる時は、こういう音楽が好きでよかったと思うわけですよ。
- 反田
- ほんとありがたいですね。ピアニストという肩書きで生きていますけど、ピアニストの使命は僕の中では作曲家の作品を我々が演奏して表現して残すわけであって、例えば、奏者が悪ければ、”なんだこの曲”となってしまう可能性がある。我々が目指すものは、あくまで音楽が一番で、この曲ってこんないいところあったんだと思ってもらえる気持ちにもっていくのが使命だと思っているので、ほんとうに嬉しい限りです。
- 岸田
- ほんまに全然思っていたのと違ったんです。僕が思い込みすぎていたんかもしれないですけど、曲がすごい好きやったというのもあって。でも僕は作曲家ですし、楽器は適当にしか弾かない方なんですけど、曲を作っていると曲のことを一番わかっていると誤解しやすんです。自分はこんな顔をしているというのは普段わかっているつもりだけど、僕より家族のほうが僕の顔をよく見ていたりするわけで、普段、プレイヤーの方と一緒に演奏していると先ほど反田さん言われたように曲の魅力をふんだんに見つけるというのは、いい演奏家の人はしばしやってくれるから怖くもあるんですよね。
岸田繁、交響曲に挑む
岸田さんは、昨年12月、作曲家として夢だった自身初のオーケストラ作品「岸田繁 交響曲第一番」を完成。世界的指揮者・広上淳一さんと、京都市交響楽団によって、地元京都で初演され、その演奏を収録したCDが、先日発売されました。およそ1年半をかけて作られたオーケストラ作品で、岸田さんは新たな扉を開くこととなります。
- 反田
- 岸田さんのシンフォニーを聞かせていただきましたけど、最高ですね。
- 岸田
- ほんまですか。あんまりよくわかってない人が作っている、よくわかってない曲だと思っているので、ありがとうございます。
- 反田
- 5楽章まであってびっくりしたんですけど、なぜ5楽章まで作ったのですか?どういう経緯で書こうと思ったのですか?
- 岸田
- 最初は京都市の交響楽団からオーケストラの30分以上の作品を作ってくださいという依頼がきて、ずっと長いのをやりたかったので、それを交響曲と呼ぶか交響詩にするのか組曲にするのかどうしようかなと思っていたんですけど、書きはじめたらラプソティーや組曲っぽいのを作りだしたので、とりあえずスケッチをしていたというか、書きながら勉強しようと思っていたら長くなってきてしまって。その時にもう3楽章くらい出来上がっていて、これにはストーリーがない、辻褄を合わせないとと思いはじめて、いっぱい作ったんです。たまたま作っていた時にマーラーをよく聞いていたとか、あとバルトークのオーケストラのためのコンチェルトが大好きなんですよ。あれがシンメトリーになっているというか、だから、その3楽章を軸にしてちょっと自分の中でシンメトリーにしたみたいな感じで。
- 反田
- 僕がシンフォニーを聞いて、まずぱっと思ったのがいろんな色がぱっときたんですよ。
- 岸田
- 嬉しいです。
- 反田
- まず色彩感がきて、これはゆっくり座って聞こうと思って、スピーカーの前で聞いたらいろいろ景気が見えてくる気がして。それで負けず嫌いなんで僕もいずれかはシンフォニーを書こうかなと思って。
- 岸田
- めっちゃいいじゃないですか!
- 反田
- 今、ピアノコンチェルトを書きはじめているんです。
- 岸田
- マジですか!
- 反田
- 岸田さんの音源を聞いてからです。
- 岸田
- 編成は?
- 反田
- ベートーベンの1番とかモーツアルトの初期の編成、古典のは単一楽章なんですよ。僕がクラッシックを好きになったのはオーケストラなんです。幸いにして11歳の頃に、オーケストラを振る機会がありまして、パンとふったらバンとなる感動が忘れられなくて。
- 岸田
- なるほどね。
- 反田
- 指揮者になりたいと先生に言ったんですよ、そしたら「君、楽器弾ける?」と聞かれ「ピアノをかじってるくらいです」と返事したら「ピアノをちゃんとやりなさい」と。それでピアノをちゃんとやりはじめたんですね。ピアニストがもしかして指揮者になりたいと思って、練習しているとしたら、その人たちのためのコンチェルトがないと思ったんです。
- 岸田
- なるほど。
- 反田
- 要はピアニストのための指揮振り用のオーケストラ、単一楽章で20分くらいにまとめてそれが2番につながるようにしたくて書いています。
- 岸田
- いいですね。
- 反田
- これは見せたくて今日、持ってきたんです。
- 岸田
- いいですね。