若き表現者の悩み

最果タヒさん(詩人)×石井裕也さん(映画監督)

2017

05.21

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おふたりとも30代。精力的に、次々と、新しい作品を発表していますが一般的には、まだまだ「若手」と言われる年代です。そこで、誰もがぶちあたる若さゆえの悩み、もの作りにおける「もがき」や「葛藤」などについて伺いました。

はじめてだから出来ること


都会の片隅で孤独を抱えて生きる現代の若い男女の繊細な恋愛模様を描きだしている『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』。原作は、最果タヒさんの詩で、石井祐也監督が映画化。「詩」と「映画」という異なるジャンルが、クロスオーバーし、詩の世界観に、新しい命が吹き込まれ、映像となりました。

主人公の美香を演じるのは、この作品が映画初主演となる石橋静河さん。そして、相手の慎二役は、池松壮亮さんが務めているのですが、石井監督は、ストーリーのない詩をいかに映画の物語にしていったのでしょうか。

石井
原作が最果さんの詩や言葉なので、理屈で考えるのはよそうと思いましたね。思いついていったことをそのまま書いていったという感じです。慎二は左目がまったく見えない設定なんですけど、世界が半分しか見られない男、半分しか見ることを許されない男、そういうイメージでした。女性のほうは、最果さんの目の位置、どこから世界や人を見ているのかというところに僕も影響をされていて、その目線が誰なのかっていうところで、美香というヒロインのキャラクターがでてきたんですよ。でも、美香は難しかったですね。新人でしたしね。

最果
私も脚本を読んだ時に、不思議な子だなと思いました。

石井
完全に石橋さんが素人で、新人をこの映画の中心に置くというのは、あらかじめ決めていたので、全く作為もないんですよ。それを想定して脚本を書いていたというのはありますよね。

最果
新人を使おうというのはどうしてですか?

石井
この映画自体が、新しいものとしてみえなくてはいけないと思いましたし、東京の今とか現代を描こうとしているので色やイメージのついていない人のほうが、きっとリアルにみえるのかなというのはありましたね。石橋さんも映画に出ること自体に緊張していたので、ずっと硬直しているんですよね。それは、東京のど真ん中に放り出されて、緊張して、震えている人にリンクした、そこを狙ったというのもあるんですけど、ああいう芝居は一回しかできないです。

最果
距離感の取り方とかありますもんね。はじめて詩を書いてみましょうといって書いた詩はおもしろかったりするんですよね。例えば、子どもは、朝のお父さんの靴下がくさかったとか、しょうもない詩を書くんですけど、それがすごくいいんですよ。詩を書くぞと思っていないことが、まず詩に近づく感じがします。詩を書くぞと思った時点で、詩という既存のイメージにあてていくじゃないですか、でも詩は、そうではない。お芝居や創作は、自分の中から出すものなのに先にモデルがある状態はよくなくて、詩や言葉の芸術系は、簡単にチャレンジできるんですけど、そこの枠を追いかけてしまうことによって自分の言葉ではないものを書いてしまう人はすごく多いなと思いますね。


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10代の葛藤を経て


ともに10代の頃から、作品を発表しているおふたりですが詩人、そして、監督として、おふたり、それぞれの原点についてお聞きしました。

石井
最果さんに2つ聞きたいのですが、10代の頃、自分に才能があると思っていました?

最果
才能はあると思わないと書かないですよね。

石井
やっぱり。もう1個は、その時に戻りたいですか?

最果
戻りたくないかな。

石井
一緒ですね。

最果
ほんとですか。

最果
才能があるって、みんな思っているんじゃないかな?

石井
根拠のない自信は絶対にあって、だから、ここまで認められたいという思いと、世間の認知にギャップや乖離があるじゃないですか。

最果
かなりある、しんどい。

石井
そこで苦しむんですよね。

最果
しんどいし、褒められたら褒められたで思っていたところと違うところを褒められたりして。当時は全部をわかっているつもりでいたんですけど、自分がよくわかっていると思っていること自体、視野が狭いんですけど。

石井
痛いですよね。

最果
そういう意味で痛いという言葉があると思います。やっぱり戻りたくないですね。

石井
ただし10代後半や20代前半に書いたものや作った短編映画を見ると自由で嫉妬しますね。おれは今33歳で戻りたくないって言っていますけど、戻られてもらえないという部分もあって、その感覚や自由さという意味でたまに嫉妬したりします。

最果
私も嫉妬というか、10代の人はみんないいなって思いますね。私も当時はすごい尖ったことを書いてて、理解されなくていいと思っていたんですよ。でも心の中にぐちゃぐちゃとあるものって、けっこうみんなが持っているもので、モラトリアムと言われるものですけど、本人が意図しなくても尖っている言葉で出て来る。勝手にはみ出るキーワードみたいのが当時のほうがたくさん無意識にもっていて、だからこそ好き勝手書いて、自分のことしかみてなくても、人が読んで「おっと」と思うものができていたんだと思いますね。そういう意味では10代の人は下手でもなんでもいいので何か作ったほうがいいかなと思いますね。

石井
ぼくもそう思いますね。



■『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
新宿ピカデリー、 ユーロスペースにて先行公開中、
5月27日(土)からは、全国の劇場で公開されます。

映画「夜空はいつでも最高密度の青色だ」公式ホームページ

■最果さんの詩集「夜空はいつでも最高密度の青色だ」は、リトルモアから発売中です。

「リトルモアブックス | 『夜空はいつでも最高密度の青色だ』 最果タヒ」公式ホームページ

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