40代をどう生きるのか
平野啓一郎さん(小説家)×福田進一さん(クラシックギタリスト)
2017
02.12
昨年、平野さんが発表した小説「マチネの終わりに」。クラシックギタリストの蒔野と、海外の通信社に勤務する洋子の出会いから始まるストーリーは、大人の恋愛小説であると同時に「40代をどう生きるのか?」もテーマになっています。ご自身も40歳を迎えた平野さんは、心境にどんな変化があったのか。また、人生の先輩である福田さんは、アーティストとして40代をどのように過ごしてきたのでしょうか。
平野さんの小説「マチネの終わりに」には、40代の生き方の以外にも生と死、難民問題、自爆テロや被爆、アメリカの金融問題など様々なテーマが、折り重なっているのも特徴です。それは、複雑な現代だからこそ、平野さんが伝えたいメッセージと重なります。
平野啓一郎さんの小説『マチネの終わりに』は、毎日新聞出版より発売中です。
小説全編にわたって登場する多数のギター曲を福田進一さんの演奏で収録したタイアップCD『マチネの終わりに』から日本コロムビアから発売中です。
40代は、一度、振り返る時期
- 平野
- 「マチネの終わりに」の主人公は、40代になって、自分の音楽性に疑問を感じ、ちょうど迷っている時期を描きたかったので、自分で40代の音楽家が悩んでいるようなイメージを膨らませて書いたところはありますね。音楽家に限らず、文学者や画家もいろんな人の人生を見ていても、これくらいの年齢の時に一時期、停滞したり、すごく実験的なことに取り組んだりとか、思うように行かなかったりとかがある年齢なのかなと感じていて、僕自身も停滞感というほどでもないんですけど、自分が40歳になるにあたって、そういうことを考えることもあったので、どうしても描きたかった年齢ではありましたね。
- 福田
- 僕は、40代が真ん中だと思っていませんからね。
- 平野
- 今回、福田さんが作られた、この小説のためのCDも40代以降の変遷が辿れるようになっていて、そういう意味では40代から下り坂という話とは関係ないですしね。
- 福田
- もちろん熟していくことがあるんだけれど、日本は、若い人頼みのところがあって、いちばん熟している人たちがもっと前に出てクローズアップされてもいいんじゃないか、40代になると安定して、これでいいんでしょ、あと横ばいに生きていきなさいみたいな風潮がありますよね。だから全員もっとがんばって60代くらいがピークにしてくれたら僕は、嬉しいだけどね。
- 平野
- 昔の60代と今の60代は感覚も違いますしね。
- 福田
- 40代クライシスなのかなぁ。たしかに一回振り返る時期なんでしょうね。
- 平野
- 今、そんな感じがしていますね。僕に関して言うと、20代、30代の頃は、自分の中に沸き上がってきたものを吐き出すように書いていたという感じ。
- 福田
- 恋愛と同じですね(笑)
- 平野
- 書かないと苦しいから、書いているみたいなところもあったけど、その仕事の仕方をずっとやっていくのもなぁっていう感じもあって。
- 福田
- 一回振り返ってもう一回、ぐるっと回って、360度また戻って歩き出すみたいな。
- 平野
- 元に戻るにしても一回周りを見てから元に戻るのと一回も周りを見ないまま、まっすぐ進むのでは違うんでしょうね。だから僕も今40歳ですけど、もっと、ましな作家になっていくようにがんばりたいと思っているのでそんなに悲観はしていないです。
国境のない生き方
平野さんの小説「マチネの終わりに」には、40代の生き方の以外にも生と死、難民問題、自爆テロや被爆、アメリカの金融問題など様々なテーマが、折り重なっているのも特徴です。それは、複雑な現代だからこそ、平野さんが伝えたいメッセージと重なります。
- 福田
- この小説で平野さんが書かれたことは、平野さんがパリで暮らされたことがたくさん織り込まれているし、占拠化の中東に行く話にしても、知らないと書けないよね。興味がないと書けない。僕は、21歳でヨーロッパに行って、29歳まで8年間いたんだけど、やはりフランスとイタリアで学んだことはすごく大きいですね。理解というよりも文化全体のこと。音楽というひとつのジャンルではなくて全てのことに関して微妙な、違い。
- 平野
- 福田さんに比べたら、僕は住んでいた期間は短いんですけど、僕が興味をもったのは、けっこうフランス人といっても何代か前はドイツに住んでいたとか、先祖はベルギーとか、わりとヨーロッパ大陸は何百年もかけて人が移動しているですよね。その間で混血も進んでいますし、今はヨーロッパでも拝外主義とか極右とかか台頭してきて国家主義的な思想もまた復活してきていますけど、僕はヨーロッパ文化のいいところは混ざり合っている、混ざり合うことが深みになっていると思うんですよね。日本にいると中東とかアフリカは、遠い場所という感じがしますけど、ヨーロッパにいるとアフリカとか急に近くなったような感じがして、だから今の自国に閉じこもってナショナリズムが高揚してみたいな時代にやっぱり国をまたいで音楽や文学は多くの人の共感を得て、感動をさせたり、したりということがあることに僕自身は希望を感じているところがあって、主人公を通じてそういうことも書きたかったし、そういう人と恋愛する人ってどういう人かなっていうとやっぱり国際情勢に関係があって、ジャーナリストがいいかなと思ったんです。
平野啓一郎さんの小説『マチネの終わりに』は、毎日新聞出版より発売中です。
小説全編にわたって登場する多数のギター曲を福田進一さんの演奏で収録したタイアップCD『マチネの終わりに』から日本コロムビアから発売中です。