小説と音楽のコラボレーション

平野啓一郎さん(小説家)×福田進一さん(クラシックギタリスト)

2017

01.29





Twitterで再会



平野
初めて福田さんにお目にかかったのは、10年前くらいでしたね。

福田
そうですね。もう少し前になりますよ。13、4年前だよね。

平野
ストックホルムで日本の文学や音楽などをテーマにしたフェスティバルが開催されて、そのパーティーでたまたま隣の席になって、福田さんがショパンの演奏をされたアルバムをCDショップで買った直後だったので、”福田さんだ!”と思って。

福田
そのCDとは、「ショパニアーナ」ですね。

平野
緊張しましたけど、気さくにお話してくださって、でも、その後、ちょっと・・・

福田
そうですね。お互い名刺を持っていなくて、コースターの裏にメールアドレスを書いてそのままどっかいってしまった。”なんか、おれストックホルムで芥川賞作家の若いヤツと知り合ったのに惜しいことしたなぁ”って言っているうちに時間が経ってしまって。

平野
そうですね。

福田
その当時、パリに住んでいたんでしょ?

平野
そうですね。パリに住んでいまして、気軽にヨーロッパのいろんなところに講演に行っていました。

福田
それから、2人をもう一度、合わせてくれたのはTwitterですから。

平野
勝手にYoutubeにアップされている福田さんの昔の演奏を紹介していたんですよ。これすばらしい!とか言って、そうしたら御本人の目に止まったんです。

福田
誰かが平野さんがあなたの演奏のことを書いているよと教えてくれて、それで、交際が再開したんです

平野
それからちょくちょくお会いしていますよね。




夢のような企画の実現



昨年、平野さんが発表された小説『マチネの終わりに』。この小説の主人公は、福田さんと同じクラシックギタリストです。平野さんは、福田さんの演奏から、インスパイアを受けて、福田さんに取材をし、主人公像を描いていきました。主人公の蒔野聡史は18歳の時にパリ国際ギター・コンクールで優勝し、鳴り物入りでデビューを飾ります。その後、世界中で数々のコンサートをこなし、38歳の時に海外の通信社に勤務する女性、小峰洋子を紹介されます。彼らの出会いから、はじまるのが、『マチネの終わりに』です。読んでいて、ドキドキする彼らの恋愛模様をさらに彩るのは幾度となく登場する音楽。クラシックの名曲からポップスまで、さまざまな楽曲が登場し、物語と一緒に楽しむことができます。

福田
本が出来上がった後に、小説の中に登場する楽曲をCD化できるのではないかと急に思い浮かんで、それで、やりましょう!みたいな話になったんですけど。

平野
僕にとっては夢のような企画なんですけど、自分からは、ちょっと言い出せないことだったので福田さんに提案していただいて、びっくりして、是非是非ということで。

福田
アルバムの半分くらいのバッハの作品は録音しておいたんだけど、ちょうど5年が経って、このストーリーにそって構築して、このCD1枚に僕の25年くらいのレコーディングの歴史が詰まっているんです。それは、自分の歴史でもあってアルバム全体を通して聞くと、あの頃はこんなことを考えていたんだとか蒔野の悩みにも戻れるんです。だから音楽っておもしろいなと思って。

平野
クラシックギターはレパートリーが幅広くて、バッハからビートルズまでいろんな曲を演奏しても違和感がない珍しい楽器だと思うんですけど、福田さんもクラシックからポップスまで音楽の魅力をすごく巧みに演奏し分けているんです。

福田
ビートルズの「イエスタデイ」は、武満徹さんがギター用にアレンジしてくれなければ、ポピュラーの人のようにはならないんです。彼らは、カバーアルバム的な感じで弾くんだろうけど、クラシックギタリストが弾くと全部がばれてしまう。そういう意味でも怖かったですね。アレンジも普通では弾けないくらい難しいですし。武満さんの現代音楽の複雑な部分も使われているので、それをどういう風にやるのか、それをすべてこの1枚にしました。今まで録音したものは聞かなかったけど、今回は選曲にもこだわったのでかなり聞きましたよね。

平野
実際に読者が聞きたい、CD化して欲しいという声も聞こえたので、クラシックギターは、すごくバリエーションに富んでいますし、名曲も入っているので、いままで馴染みがなかった人も楽しめると思います。

福田
アンソロジーとして聞いてもらうとありがたいですね。




平野啓一郎さんの小説『マチネの終わりに』は、毎日新聞出版より発売中です。

小説全編にわたって登場する多数のギター曲を福田進一さんの演奏で収録したタイアップCD『マチネの終わりに』から日本コロムビアから発売中です。


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