学ぶ喜び

杉山明日香さん(理論物理学博士・ソムリエ)×福岡伸一さん(生物学者)

2016

10.09



分子生物学者の福岡伸一さんと、理論物理学博士で、ソムリエの杉山明日香さん。
ワインの世界を知り尽くした杉山さんは、毎年、リトルモアより『受験のプロに教わるソムリエ試験対策講座』を出版。合格のカギとなる年ごとに変わる数値や制度をアップデートし、学習ポイントを掲載。ワイン地図帳もついていて、まるで、参考書のような1冊になっています。あくなき探究心を持って、好きなものどんどんと極めていく、おふたりに、読書の秋、芸術の秋、勉強の秋にちなんで、大人になってから勉強することのメリットや喜びを伺いました。

UMAMIの誕生





旬を知る

杉山
よく、学生の時に勉強しておけばよかったと言いますが、わたしは思い立ったが吉日だと思っていて、私の父はワインを長く飲んでいたのですが、本格的に勉強してソムリエ試験のワインエキスパートに70歳で合格したんです。父もきっかけがあったらやりたいと思ってはいたけど、とうとう娘である私が本まで出したら、やるしかないみたいな感じではじめて、そうしたら死ぬまでのワイン人生が楽しくなったそうなので、親孝行できたなと思います。

福岡
すばらしい。学びはいつからでもできるし、遅すぎることもないし果てもないので、ぜひ、みなさんも始めましょう。

杉山
何でもいいから始めるといいと思います。筋肉と同じで筋トレ、脳トレ、アルコール飲むことは肝トレといっているのですが、全部使ったほうが衰えないです。

福岡
 味覚嗅覚もトレーニングによってわかるニオイや味はありますから。旨みって日本人はダシの旨みとか、こんぶとか鰹に旨みがあるっていうのを昔から和食の分野では知っていたのに西欧世界では旨みは最近まで、気がつかなかったんです。2000年になって分子生物学のわれわれの分野の人たちが味覚を研究するようになって4つの基本味覚のレセプターの他にちゃんとグルタミン酸さんに反応する「ウマミレセプター」があるというのを解明できたんです。それで、UMAMIっていう英語が5番目の味として認知され、ヨーロッパでもアメリカでもわかるようになりました。急に言葉ができ、それで今世界中でUMAMIはうまいっていう風になっているんです。

杉山
加速して和食ブームになっていますよね。

福岡
言葉、知識によってはじめてみえてくるものがあるんです。逆に名付けてしまうと見えなくなってしまうものもあるけど、言葉によって見つけ出してくるのがこれまでの人間の文化の営みでした。ワインも新しいおもしろさがみつかってくるのはいいこと。

杉山
うれしいです ありがとうございます。


大人になってからの勉強





福岡
大人になってから勉強することの良さは、自由に学べるということでしょう。

杉山
タイムリミットがないとか。

福岡
時間もあるし、お金もある。受験勉強だったら端から端まで勉強しないといけないいし、嫌いなのもやらないといけないけど、ワインならシャルドネだけ勉強すればいいんですから。そんな自由が享受出来る分野はないですし、新しいことを体験し、おいしさに出会うのは学びであって、学びは本来楽しいことなんです。苦痛なんて微塵もありません。

杉山
先生は、うらやましい生活をされていると思うのですが、今後、学問的、文化的にしたいとはあるんですか?

福岡
オタク的追求として、全てのフェルメールを見ること、そして、今やっているのは全てのフェルメール作品をデジタル的に描いた当時の色に戻すこと。それを本物そっくりに再現してフレームも本物と同じものをつけてフェルメールが描いた順番に並べるというのをやっています。フェルメールは、37枚以上描いているはずですが、50枚くらい描いてるんです。未発見のものを探すか、推測してコンプリーテッドを作りたいです。 杉山さんの夢は?

杉山
ワインの輸入業やワインの先生をやっていて、ワインのおいしさや楽しさをみなさんに伝えていきたいと思っているんですけど、今度は、それの逆バージョンをやりたくて。フランスに行って生産者の方に会うときは、自分の好きな日本酒を持っていって、彼らのワインを飲んだ後に一緒に日本酒を飲むんですけど、やはり作り手さんは、作り方や味わいが気になるんですよ。だから今後はフランスを中心としたヨーロッパから逆に日本酒のおいしさというのを伝えていきたいですね。また、おせっかい心がでてしまって。ワインと同じくらい日本酒も飲んでいるので両方できるようにしたいです。

福岡
文化大使として夢を実現してください

杉山
酒飲み大使しとしてがんばりたいです。


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