キャリアを重ねたからこそ表現できる世界
大貫妙子さん(シンガーソングライター)×小松亮太さん(バンドネオン奏者)
2016
06.12
シンガーソングライターの大貫妙子さんとバンドネオン奏者の小松亮太さん。ともに長い音楽キャリアを誇るおふたりは、いままで、壁にぶつかることはあったのでしょうか。
音楽を続けていく秘訣
- 大貫
- 私は若い時、3度くらい音楽をやめてしまいたいと思ったことがあったんですよ。その理由は音楽そのものではなくて、こんな環境の中で音楽を作りたくない!みたいな。「売れるアルバムを作ってくださいよ」と言われ、それがわかったら苦労しないよ!と。そういうのが若い時に2度はあったかな。
- 小松
- 僕は、やめなきゃいけない時はいつかくるのかなと不安になった時はありますね。楽器を弾いている人は、職業病をもっているんですよね。
- 大貫
- そうよね〜。肘とか指とか手首とか痛いんじゃない?
- 小松
- すごく痛い時ありますよ。その痛いのをなんとかケアしないといけない。その痛みをとるためにマッサージをすると、もっと痛い。地獄の拷問のようなマッサージ。
- 大貫
- スポーツ選手でもあるよね。痛そう。
- 小松
- でもその痛みを乗り越えると次、弾けることがあるから。時には注射をして一発で治ったり、医学が発達していることで本当にありがたいんですけど。あと、楽器を運んでいるので膝が・・・(笑)。もちろん歌手の方も喉に気をつけていたりで大変でしょうけど。
- 大貫
- 音楽をやめてしまいたいというのは、そういう肉体的な限界の話でなくて、精神的なことなんでしょうけどね。
- 小松
- 精神的にはやめてしまいたいと思うことはないですね。
- 大貫
- でしょうね(笑)。
年齢を重ねたからこそわかる音楽との向き合い方
- 大貫
- 私の場合は先が見えてる。例えば、80歳という年を考えると20年はないけど、だからと言って、年齢と肉体はそんなに関係なくて、きちんとケアしていれば意外と伸びるんです。昔は5年、10年先のことを考えていたけど、今は3年ごとに区切っているんですよね。あと3年は全然大丈夫だと思っているの。3年したらまた考えてみようかなみたいな。若い時は大海の中で、不安とともにやってきたけど、若さゆえなんとかなるだろうと。だけど、今の年齢の方が歌えるようになっているんで。
- 小松
- 失礼ながら、大貫さんが、ある時期を境に急に変わったんですよ。
- 大貫
- 努力したんですけどね。この壁を越えないとこの先はないなって。
- 小松
- 僕だけではなくて周りで聞いていた人みんな思ったことで、2年くらい前ですかね。あれ?何が変わったんだろうなと思って。あれだけキャリアを積み重ねた人がまた新しく変わろうとしてる。しかも、偶然、肉体的や精神的に変わったからというのではなくて実際に自分を変えようと思われたんですよね。
- 大貫
- もともとすばらしい声帯を持っていたりとか、声量があるのは、歌手にとっては圧倒的なポイントだと思うんですけど、私にはそれがないので、続けていくならどうしようか、すごく悩みましたし、努力してきたし、肉体改造もした。最後の羽ばたきみたいな感じ(笑)。気を抜くとすぐ落下する感じがする。
- 小松
- でもお声を聞いていると、余裕があるように聞こえるんですよね。
- 大貫
- そうなんですよね。わかったんですけど、人間はきちんと管理をしていれば60歳を過ぎてから。感情とか自分の中の表現が育ってきた時にそれを歌うための楽器が壊れていてはダメ。感情表現が乗ってきた時に声という楽器を出せるようにメンテナンスをするのが大変。でも、あんまり言わないようにしよう。そんなこと言っているけどたいしたことないじゃんとか言われたりして(笑)。