暮らしに役立つ情報や気になるトピックを深掘りしていく番組「青木源太・足立梨花 Sunday Collection」。
番組パーソナリティの青木源太と足立梨花が、毎回、専門家をゲストに招きトークを繰り広げ、
印象に残った“推し”をコレクションしていきます。
暮らしに役立つ情報や気になるトピックを深掘りしていく番組「青木源太・足立梨花 Sunday Collection」。番組パーソナリティの青木源太と足立梨花が、毎回、専門家をゲストに招きトークを繰り広げ、印象に残った“推し”をコレクションしていきます。
自宅などに荷物を届けてくれたり、新鮮な野菜や果物、魚が食べられるのはトラックドライバーさんたちがいてのこと。しかし、今後は、そうもいかないかもしれません。そうなる前に、今私たちができることがあります。今回は、「みんなで解決しよう! 物流2024年問題」というテーマで深掘りしました。
(青木)
今日は、岐阜県48歳の男性、きのっちさんのメールからご紹介します。「トラックドライバーをしています。リアルタイムでは聴けないので毎週翌日にradikoタイムフリーにて聴いています。さて、私達トラックドライバーにとって2024問題が話題になっています。しかしこの問題、一般的には認知度はどうなのでしょうか?働き方改革の名の元に残業が減ることは良いですが、トラックドライバーにとっては歩合制が多く残業が減ればそれだけ収入が減ります。今やネット通販で買うことも増え、皆さん「送料無料」を優先して店や商品を選んでいると思いますが、送料無料のしわ寄せは運送会社、ドライバーに来ます。是非、番組で取り上げていただいて2024問題をもっと全国民に知ってもらいたいと思います。」
(青木)
このメールは昨年の6月にいただいておりました。きのっちさん、お待たせしました!やっと、この話題を取り上げることができました。
(足立)
「一般的に認知度はどうなのでしょうか?」とありますが、私は、きのっちさんのメールを読んで「あ!そうなんだ」と思うことのほうが多かったので、もしかしたら、詳しいことを分かっている人は少ないかもしれないですよね。
(青木)
そうですよね。では、早速スペシャリストをお迎えしましょう。「持続可能な物流の実現に向けた検討会」に第1回から参加されている、流通経済大学流通情報学部教授兼物流科学研究所長の矢野裕児さんです。
(足立)
矢野さん。まずは「物流2024年問題」とは、どういうものなのか教えていただけますか?
(矢野)
今の日本の物流は、トラックドライバーの長時間労働で支えられているんです。働き方改革を推進する法律が2019年から施行されていましたが、ドライバーの働き方は特殊なため、これまで猶予されていたんです。その猶予がいよいよ外されるのが2024年4月となります。これによって、トラックドライバーの年間の時間外労働の上限規制が適用されるようになり、年間960時間に設定されることになります。
(青木)
週に5日働くとして、960時間を単純に割ると、1日の残業時間は3時間半程度ということになります。
(足立)
それでも、けっこう残業時間があるなと思ったのですが、ちなみに、これまでの上限は何時間だったんですか?
(青木)
実は、これまでは、ドライバーの時間外労働の上限は法律で定められていなかったんです。ですから、長時間労働をするドライバーは多く、トラックドライバーの年間労働時間を全産業と比較すると、およそ2割も長かったんです。
(足立)
じゃあ、この法律のお陰で、これまで働き詰めだったドライバーさんたちが助かることになる、ということでいいですか?矢野さん。
(矢野)
この法律により、ドライバーの労働環境が改善されるのは良いことですが、残念ながら、輸送力が低下してしまうのでないか、それによって、物流が停滞してしまうのではないかといったことが心配されています。これが、いわゆる「物流2024年問題」なんです。
(青木)
このまま、何も対策をしないと、2024年は14パーセント、2030年には34パーセントも輸送力が低下すると推計されています。
(足立)
そんなに低下していくんですね。それって、これまで翌日配達されていたものが3日後になるイメージですか?
(矢野)
そうですね。例えば、全国の卸売市場に出荷される農作物や魚介類などは、遠くから運ばれてくることが多いですから、これがなかなか難しくなることがあります。そうなると、今までのように市場に届かなくなり、スーパーに新鮮な野菜や魚が並びにくくなるかもしれません。つまり「物流2024年問題」は、私たちの生活レベルにも、深刻な影響を及ぼす可能性がある。そういったことが想定されます。
(足立)
単純に、ドライバーさんを増やしたら、何とかなるんじゃないかな?と考えるところもあるんですけど。
(矢野)
おっしゃるとおりなんですよね。ただ、なかなかドライバーが増えてくれない。残念ながら、長時間労働、賃金が高くないなどの問題もあり、特に若い人がなかなか入ってこないというのが現状です。
(青木)
実際、年間所得額を全産業と比較すると、およそ1割低いそうです。
(足立)
それで長時間労働を行って、収入を増やしたいドライバーさんもいるわけですね。でも、これからは、その労働時間が制限されてしまうと、ドライバーさんにとっては、ちょっと複雑なんじゃないかなと思うんですが。
(青木)
メールをくださった、きのっちさんも困惑している感じがありますよね。そこで政府では、先ほど矢野さんからもお話があったように、物流産業を魅力ある職場とするため、トラックドライバーへの働き方改革関連法の適用を前に、「物流の革新に向けた政策パッケージ」を策定したんです。
(足立)
「物流の革新に向けた政策パッケージ」。ちょっと聞いただけでは分からないのですが、矢野さん、これは、どういうものですか?
(矢野)
今、問題になっている「2024年問題」と「担い手不足」の課題に加えて、環境問題「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルへの対応」など、こういったことに対応していこうと、物流が抱えている様々な課題に対応した政策ということで、いろいろと検討していこうと制定されたものです。実際、物流には関係者が多く、「物流事業者に物流業務を依頼する依頼者」、これを「荷主」と言いますが、この「荷主」と、「物流事業者」、そして「一般消費者」の三者で協力して行っていくための「物流の革新に向けた政策パッケージ」です。
(足立)
「物流の革新に向けた政策パッケージ」では、荷主、物流事業者、そして、私たち一般消費者に向けて、どのような行動が求められているんですか?
(矢野)
まず、荷主企業、物流事業者の双方に対して、非効率な商慣行、つまり、古くからある習わしを見直すように示されています。
(足立)
古くからある習わしとは、具体的にはどういったものがあるんですか?
(矢野)
いろいろありますが、代表的なものは「荷待ち時間」と「荷役作業」です。実は現状、ドライバーが荷物を受け取るために、荷主先に時間どおりに到着しても、3、4時間待たされること、これを「荷待ち時間」と言いますが、こういった無駄が非常に多いんです。それから、ドライバーは自分が運んだ荷物を受け渡す際に、相手の倉庫の指定の場所に収めるための荷下ろし作業など、これを「荷役作業」と言い、結構な時間が掛かります。こういった作業をドライバー自らが行っている場合が非常に多いんです。
(足立)
ドライバーさんがそこまでしているんですか?運転するだけでなく、ドライバーさんが荷下ろし作業をするんですか?それって、荷物を受け取る側の仕事じゃないのかなと思っちゃいますが。
(矢野)
普通はそう考えますよね。ただ、日本では、昔からドライバーが無償でやることが多いんです。この作業が非常に時間が掛かることが多いんです。
(青木)
そのため「物流革新に向けた政策パッケージ」では、「荷待ち・荷役時間を2時間以内に収めること」や「荷主は物流事業者に対して、運送契約にない荷役作業をさせないこと」を求めているんです。ドライバーに荷役作業をしてもらうには、輸送とは別に契約をしたり、お金を払ったりするということですよね。矢野さん。こうしたガイドラインを守らないと、「トラックGメン」が黙ってないんですよね!
(足立)
トラックGメン!?何ですか、それは!初めて聞きました!
(矢野)
トラックGメンは、国土交通省の職員で構成されていて、トラック運送における不適正な取引の監視を強化するために、昨年7月から発足したものです。荷主や物流事業者を監視し、貨物自動車運送事業法に基づき、違反行為を行っている疑いのある荷主や物流事業者に対して働きかけ、改善されない場合は勧告や公表を行います。
(足立)
物流事業者やドライバーさんが不当な扱いを受けないように、しっかりと目を光らせてくれているんですね。
(青木)
矢野さん、「物流の革新に向けた政策パッケージ」では、物流の効率化も示していますよね。
(矢野)
はい。物流を効率化するために、例えば自動運転や、ドローン物流、自動配送ロボットなど、デジタルを活用することはもちろんですが、モーダルシフトの推進も示されています。
(足立)
モーダルシフト?初めて聞きました。
(矢野)
モーダルシフトとは、トラックによる貨物輸送を、鉄道や船舶を利用した輸送へシフトする、つまり代えることです。そうすることで、環境負荷的にも、また人手も要らないなどがありますが、ただ、どうしても時間が掛かってしまうことがあります。例えば、「明日までに届けて」などの要望があった場合、トラックだと簡単ですが、なかなか鉄道や船では難しいといった面があります。そういう意味では、どういう形で鉄道や船に合わせた輸送にするのか、というのが非常に重要になります。
(青木)
でも、物流が抱える課題を解決していくためには、モーダルシフトも必要なことですよね。
(矢野)
そうですね。輸送力が限界を迎えつつある今は、社会全体で、「荷物がすぐに届くのは当たり前」という意識を変えていく必要もあるのだと思います。
(足立)
そういう意識改革は私たちにもできそうだなと思うのですが、私たち一般の消費者に求められていることには、どんなことがありますか?
(矢野)
消費者にとっては、すぐに思い付くのは、宅配便が身近ですが、その際、特に求められているのは、荷物を1回で受け取ることです。
(足立)
再配達を無くす!というところですよね。
(青木)
先ほど、ドライバーさんが、荷物を受け取るために3、4時間「荷待ち」していると言ったとき、多くのリスナーさんは「時間の無駄だな」と思ったと思うんです。でも、私たちがドライバーさんの荷物を1回で受け取らないと、ドライバーさんは再配達しなければなりません。それこそ、時間を無駄に使わせてしまっているんです。実際、宅配貨物の再配達率はおよそ12パーセント。これを労働力に換算すると、年間約6万人のドライバーの労働力に相当するんです。
(足立)
そんなに!再配達は、大変な労力なんですね。つまり、言い方を変えると、私たちが年間6万人のドライバーさんを、無償で働かせているってことになっているってことですよね、矢野さん。
(矢野)
そういうことになりますね。ですから、是非、一般の消費者の方々は、「日時指定などにより1回で確実に荷物を受け取ること」を心掛けてほしいですね。今は「配達状況の通知アプリ」もありますし、「宅配ボックスやコンビニ受け取り」など、様々な受け取り方法がありますからね。
(青木)
受け取り方で言えば、最近は、通常よりも数日遅い配達を選べるサービスもありますよね。私たちも急ぎでないときは、そうしたものを積極的に選ぶようにするなど、意識を変えていきたいですね。最後になりますが、矢野さんは、物流業界の持続的成長に向けて、今後、どのようなことを期待していますか?
(矢野)
物流2024年問題は、いろんな所で扱われています。実はドライバーが減っていくのは、これからが本番で、今は、入口に立っている状態です。経済、産業、そして私たちの生活を支えている物流の重要性を皆さんに認識していただくのと同時に、私たちのちょっとした行動変容が物流の効率を良くすることがあります。さらに適正な対価を払うといったことを通じて、物流がより良い姿に変革していくことを期待しています。
(足立)
こんなことが起こっていたことを知らなかったのが恥ずかしいくらい、今日の話にあった「物流2024年問題」は皆さんに知ってほしい問題だなと思いました。その中でも「一般消費者」と言われる私たちができることは、やっぱり宅配便ですね!荷物を1回で受け取ること、これを心掛けてほしいですね。再配達をお願いすることで、ドライバーさんたちに負荷がかなり掛かりますからね。まずは、私たちができることをやっていきたいなと思いました。
(青木)
私が今日の話の中で印象に残ったのは、「物流の革新に向けた政策パッケージ」をご紹介した中で、荷主企業、物流事業者の双方に対して、非効率な商慣行を見直すように示されているところです。無駄だなと思うような時間が発生している、それがドライバーさんたちの労働時間を圧迫している点がありますから、この辺りが見直されてほしいなと思いました。
【 関連リンク 】
・持続可能な物流の実現に向けた検討会 / 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000023.html
・物流革新に向けた政策パッケージ / 内閣官房
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/pdf/20231226_1.pdf