暮らしに役立つ情報や気になるトピックを深掘りしていく番組「青木源太・足立梨花 Sunday Collection」。
番組パーソナリティの青木源太と足立梨花が、毎回、専門家をゲストに招きトークを繰り広げ、
印象に残った“推し”をコレクションしていきます。
暮らしに役立つ情報や気になるトピックを深掘りしていく番組「青木源太・足立梨花 Sunday Collection」。番組パーソナリティの青木源太と足立梨花が、毎回、専門家をゲストに招きトークを繰り広げ、印象に残った“推し”をコレクションしていきます。
世界に誇る日本の伝統芸能。家元や世襲制のイメージを持っているかたも少なくないと思いますが、中には、一般から募集しているものもあるんです。
今回は、「あの舞台で輝こう! 文楽伝承者への道」というテーマで深掘りしました。
(青木)
以前も、日本の伝統芸能を伝承する人を養成する事業を深掘りしました。
(足立)
歌舞伎俳優の中村時蔵(ときぞう)さんにご出演いただいてお話を伺いましたが、今回は、またちょっと違うんですよね?
(青木)
今回は、人形浄瑠璃文楽(にんぎょうじょうるりぶんらく)を深掘りしつつ、養成事業をご紹介していきます。後ほど、来年度の研修生募集の情報もお知らせしますが、まずは、人形浄瑠璃文楽とは?というところからです。「文楽」って、足立さんは見たことありますか?
(足立)
正直、見たことないです。どこで見ることができるのか、どのタイミングでやっているのかも知らないですね。
(青木)
人形浄瑠璃文楽は歌舞伎同様、日本の伝統芸能の一つで、ユネスコの無形文化遺産に登録されていますが、歌舞伎ほどメジャーでないイメージがありますよね。ですから今日は、スペシャリストに人形浄瑠璃文楽の基本から伺ってまいります!人形浄瑠璃文楽座太夫(たゆう)であり、養成事業の文楽研修講師もされています豊竹 呂勢太夫(ろせたゆう)さんです。呂勢太夫さんは来年、入門から40年となるベテランの太夫さんです。
(呂勢太夫)
世間では、十分おじさんなんですが、入門から40年でも、私たちの業界での扱いは、まだまだ若手なんです。ベテランのかたは80代で、大活躍しているスターの皆さんは70代なんです。非常に修行に時間が掛かるので、花開く頃には、そういう年齢になるんです。
(足立)
さっそく呂勢太夫さんに伺いたいんですけど、そもそも「文楽」とはどういった伝統芸能なんですか?
(呂勢太夫)
演劇のジャンルが人形浄瑠璃で、その中の一つが我々がやっている文楽です。これは、浄瑠璃と人形が結び付いた演劇でして、文楽で演奏している浄瑠璃は、「義太夫節(ぎだゆうぶし)」というものでして、1684年に竹本義太夫が大阪で竹本座を旗揚げし、そのときに、義太夫さんが始めた浄瑠璃の一派が義太夫節です。文楽は、大阪で始まったことと、竹本義太夫さんが始めた浄瑠璃を使っているのが特徴です。人形は、世界でも珍しく、一体の人形を3人で使う「三人遣(づか)い」というものと「義太夫節」が一つになって演劇される舞台です。
(青木)
一体の人形を3人で動かすということは、手や足に分かれて?
(呂勢太夫)
そうですね。分担する役割は、「主(おも)遣い」といって顔と右手を遣う人。「左遣い」といって左手を遣う人。そして、足を遣う「足遣い」と呼ばれている3人が一体の人形を遣う、非常に珍しいスタイルです。
(足立)
普通の人形劇とは違いますよね。
(呂勢太夫)
そうですね。普通の人形劇はお子様向けなんですが、文楽の場合は大人向けの内容が多く、私は小学生くらいから見ています。
(青木)
人形遣いのほかにはどんな役割のかたがいるんですか?
(呂勢太夫)
義太夫が語る「太夫」、三味線を弾く「三味線弾き」、そして「人形遣い」。「三業(さんぎょう)」と言いますが、この3つから文楽は成立しています。
(青木)
呂勢太夫さんは、語り手の「太夫」ということで、ちょっとどんな感じか、一節(ひとふし)ここでお願いしてもいいでしょうか?
(呂勢太夫)
はい。とにかく、オーバーに表現するので、今から突然聞くと驚かれるかたもいるかもしれません。(※義太夫節を一節披露)
(足立)
すごーい!!
(青木)
すごいですね!
(呂勢太夫)
とにかくパワフルなんです。これが義太夫節の特徴です。
(青木)
パワフルだからこそ、一気に世界観に引き込まれますね!
(足立)
皆さんに、生の声の迫力が伝わってほしいです!
(呂勢太夫)
是非、劇場に来ていただけたら分かるかと思います。
(足立)
呂勢太夫さんは「太夫」ということで、人形は扱ったりしないんですか?
(呂勢太夫)
我々はそれぞれ専業なんです。語る人は語るだけで、分業制になっていますので、ほかのことをやることはないです。
(足立)
なぜ、その中でも呂勢太夫さんは「太夫」になろうと思ったんですか?
(呂勢太夫)
昔、NHKで連続人形劇「新八犬伝」がやっていました。それは私だけが見ていたわけではなく、当時のこどもはみんな見ていました。「人形劇」が好きだったんですが、私の親が「人形劇が好きなら文楽がある」と小学生のときに、国立劇場に連れて行ってくれたんです。退屈するだろうと思っていたら、めちゃくちゃハマっちゃったんです。
(足立)
難しくなかったんですか?
(呂勢太夫)
内容はあまり分からなかったんですが、とにかく視覚的な人形ということ、義太夫節の三味線にすごく惹かれまして、「また行きたい!」となりました。親はびっくりしたらしいんですがね。元々、音楽も好きで、文楽に通っているうちに、義太夫が良いなと思い、公演を見に行った帰りに、新宿のレコード屋さんに行って、義太夫のレコードを買ったんです。そのレコードを聞いているうちに、最初は人形が好きだったんですけれども、義太夫節にハマっちゃいまして、自分でやってみたいと思うようになり、稽古を始めて、気が付いたら今はプロという感じです。
(青木)
実際にやってみると、修行の期間も長いですし、難しさもあると思うんですが、太夫をしている呂勢太夫さんが感じる文楽の魅力って、どんなところですか?
(呂勢太夫)
文楽は、特に義太夫節は、見るよりやる方が楽しいんです。昔から、明治、大正、戦前くらいまで今のカラオケのように、義太夫は流行していたんです。それほど、人気があったんです。アマチュアもいっぱいいたんです。普通、声を使った音楽というのは、声がきれいじゃないとできないんですが、義太夫は、声がきれいじゃなくても良いんです。それは、お芝居に出てくる登場人物の気持ちをお客様にお伝えするからで、我々は「情(じょう)を語る」と言うんですが、登場人物の気持ちを語るのがメインなので、声がきれいでなくてもできますし、どんな声の人でもできるので、誰でもできるんです。また、演劇的な部分と音楽的な部分、両方あってどっちもやれるんです。カラオケは歌しかできませんが、お芝居もできてしまうので、両方やりたい人にとっては、義太夫節はとても魅力的なんです。
(青木)
そういった文楽の魅力を多くのかた、特に若いかたに知ってほしいと思います。文楽の伝承者を目指す若者が、徐々に少なくなってきているということで、ここで、国立劇場養成所が1970年から行っている、伝統芸能伝承者養成事業をご紹介します。
(足立)
呂勢太夫さん、文楽研修の志願者が少なくなっているということですが、現役で活躍されているかたは何名ほどいらっしゃるんですか?
(呂勢太夫)
語り手の「太夫」が22名、三味線を弾く「三味線弾き」も22名、人形を遣う「人形遣い」が42名で、合計86名です。世界中に86名しかいないということです。
(足立)
86名しかいないって、少なくないですか?
(呂勢太夫)
志望して入っていただけたら、太夫の場合であれば世界で23人目となるわけです。ライバルは世界中にいないわけですから、素晴らしいことですよ。
(足立)
確かに、文楽はユネスコの無形文化遺産に選ばれているので、これが消えていってしまうのは寂しいですよね。
(青木)
そうならないように、国立劇場養成所では、一般の若者から研修生を募集して研修を行い、文楽の担い手を送り出しているんです。今、活躍されている86名のうち、およそ6割は養成所の出身者なんです。呂勢太夫さんも、そうなんですよね?
(呂勢太夫)
そうなんです。ただ、私は先に13歳の時から義太夫の先生に付いてお稽古をしていて、そのままスカウトされて研修生となり、文楽の8期の研修生を経てプロになったわけです。
(青木)
文楽の8期の研修生として入ったのは何歳の時ですか?
(呂勢太夫)
ちょうど17歳の時でした。
(青木)
お師匠さんに付いてから3、4年経ってから入ったんですね。ちょうど現在、文楽の第33期の研修生と、29期の歌舞伎俳優の研修生を募集しています。研修期間は来年4月から2年間。応募資格は中学校卒業、卒業見込み以上の男子で、原則として23歳以下のかた。経験は問いません。
(足立)
経験は問わないということは、先にお師匠さんに付いていなくても入っても良いということですか?
(呂勢太夫)
そうなんです。文楽は、世襲制度ではないんです。日本の古典芸能のほとんどは、世襲制度や家元制度がありますが、義太夫は、家元制度もないし、文楽は、世襲制度でもないんです。昔から誰でもやれるので、志せば、誰でもプロになれる、とても門戸が広いんです。
(足立)
それはすごいですね。ちなみに、この養成所ではどういったことを教えてくれるんですか?
(呂勢太夫)
文楽の太夫や三味線弾き、人形遣いといった、我々、舞台に立つ者たちのことをまとめて「技芸員」というんですが、技芸員になるための基礎訓練を、舞台に立っている一流の講師が手取り足取り教えてくれます。
(青木)
太夫を目指していても、三味線弾きを目指していても、人形遣いを目指していたとしても、最初に学ぶ基本は同じなんですね?
(呂勢太夫)
はい。最初は、何に向いているか分からないということもありますので、知識として8か月ほどは、「人形」、「三味線」、「語り」全て勉強していきます。その後、適性審査を行います。学んでいくうちに、自分が何に向いているのかが分かっていくので、専門分野に分かれて、より実践に近い技芸を習得していきます。研修修了後は幹部の師匠に入門し、公益財団法人文楽協会と契約し、舞台に出演するプロになります。
(足立)
呂勢太夫さんは講師をされているそうですが、教えていて「向いている」と思うかたに共通点などはありますか?
(呂勢太夫)
我々は、楽譜などを見て学ぶわけではないんです。人形もそうですが、先生から直接教えてもらう、いわゆる「まね」をするんです。「まね」をするために適性な能力として、まず素直であること。好きになること。やはり、好きにならないと続きませんから。それから、我慢強いこと。「我慢」というと語弊があるかもしれませんが、我々は、修行にすごい時間が掛かるんです。先ほど、私は入門から40年やっていても若手と言いましたように、芸に花開くときは60歳・70歳くらいなんです。修行するのにも、仕込みの期間が長いんです。その長い期間、我慢強く焦らずに地道に続けられる能力は、非常に大事だと思います。そういう能力を持っている人は上達します。ただ、この中で一番大事なのは「好きになること」ですかね。
(青木)
今日のお話を聴いて、文楽に興味を持ったかたは、まずは国立劇場養成所の公式ホームページをご覧ください。文楽や歌舞伎のこと、来年度の研修生募集要項など、詳しく確認することができます。
(足立)
確か、この研修事業は2年間の受講料が無料なんですよね。これはすごいことですよね。それだけ日本の伝統芸能の担い手に期待をしているということですよね。
(青木)
研修場所は、文楽は大阪の国立文楽劇場で、歌舞伎俳優は、国立劇場が閉場中のため、東京渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターになります。遠方からの研修生は、有料の宿舎があります。宿舎に空室がない場合は、住宅費補助金給付制度も利用できます。詳しくはホームページで確認してください。
(呂勢太夫)
今、いろいろとご紹介いただきましたが、身分的なものや金銭面なども含めて恵まれていると思うんです。ただ、修行に時間が掛かってしまう。技術だけでは足りず、キャリアも必要となりますので、そこはやはり大変です。でも、実力主義ですし、家柄も関係ない、頑張れば上に行ける魅力的な職業です。是非、お芝居をやりたい、歌を歌いたい、自分で何か表現したいというかたは、文楽の研修生になって、先人が伝えてきたものを受け継ぐ人として挑戦していただきたいと思います。
(足立)
今日、初めて文楽に触れたんですが、ユネスコの無形文化遺産に登録されていることを知らなかった自分がちょっと恥ずかしいと思いました。大切に残していかないといけない文化だし、たくさんのかたに、文楽の担い手になって欲しいなと思いました。
(青木)
私が印象に残ったのは、今、文楽をやっている86名のうち、およそ6割は養成所の出身者であることです。
(足立)
意外と多くて驚きましたよね。
(青木)
ユネスコの無形文化遺産にもなっている日本の伝統芸能を守るために、こういった伝統芸能伝承者養成事業があることを皆さんに覚えてほしいと思いました。
【 関連リンク 】
・養成事業 / 独立行政法人日本芸術文化振興会
https://www.ntj.jac.go.jp/training.html
・文楽とは / 公益財団法人文楽協会
https://www.bunraku.or.jp/about/