1983年、夏の甲子園、準決勝。
徳島・池田高校 対 大阪・PL学園。
屈指の好カードとあって、5万8千人もの観衆が詰めかけた。
「やまびこ打線」と称された、打って打って打ちまくる圧倒的な打撃力と、エース水野を擁する池田高校は、最強との呼び声も高く、史上初の夏・春・夏の甲子園3連覇に期待がかかっていた。
一方のPL学園は、4番と先発投手が1年生。
圧倒的に池田有利、それが大方の予想だった。
その一年生の先発投手、PL学園の桑田は、1回表、ツーアウトからヒットを2本打たれるが、なんとか後続を断って無失点に抑えた。
池田高校、水野は、ストレートが走り、1人を三振、2人をピッチャーゴロと、3人で簡単に切って取る。
最高の立ち上がりを見せた。
しかし…、2回裏、水野の顔色が変わる。
ツーアウト二塁、バッターボックスには、8番・桑田。
真ん中高めのストレートを思い切り振りぬいた。
金属バット特有の”カキン”という快音が響く。
レフトスタンドへ2ランホームラン。
球場全体が呆気にとられたのもつかの間、続くラストバッターもレフトラッキーゾーンへホームラン。
水野は、マウンド上で手を腰にあて、首をかしげた。
その後もPL学園は水野を攻め立て、4回を終えて6対0と大量リード。
球場が異様な空気に包まれる。
調子の上がらない水野とは対称的に桑田のストレート、カーブは、面白いように決まっていく。
終わってみれば、9回を投げて桑田の球数は102球、強力・池田打線は、わずかヒット5本と沈黙した。
1時間25分、0対7、池田高校、夏・春・夏の甲子園三連覇の夢は、PL学園の猛打と1年生投手の力投によって阻まれた。