1997年11月22日、大阪城ホールには、満員の1万1000人が駆けつけた。
WBC世界バンタム級タイトルマッチ 王者・シリモンコン対、挑戦者・辰吉丈一郎。
網膜剥離を患い、薬師寺保栄との世紀の一戦に敗北、続くメキシコの古豪ダニエル・サラゴサとの世界戦で連敗。
下馬評は、「辰吉不利」。
ところが、いざゴングがなると、主導権を握ったのは辰吉だった。
ワンツーで顔面に意識させて、がら空きになったボディーを打つ。
辰吉陣営が用意していた作戦が見事にハマッた。
そして5ラウンド、観客の大歓声が会場に響き渡った。
辰吉は、鋭い左ボディーを連打してシリモンコンの動きを止め、続くワンツーヒットし、王者からダウンを奪ったのだ。
強い辰吉が帰ってきた…誰もがそう思った。
しかし、続く6ラウンド、ダウンを喫したことで開き直ったのか、シリモンコンは猛反撃に出る。
王者のパンチが次々と辰吉にヒット。
足が止まり、体がよろける。会場からは悲鳴が上がった。
それを振り払ったのは辰吉のベルトへの執念と意地だった。
7ラウンド、辰吉渾身のボディーが王者の腹に食い込む。
シリモンコンの体がくの字に折れる。
1分30秒、シリモンコンが2度目のダウン。
もはや王者は立ち上がるのがやっと。
試合が再開されると同時に、辰吉は猛ラッシュ。
シリモンコンはロープを背負って棒立ちになった。
観客が総立ちで大歓声を送る中、7ラウンド1分54秒、
レフリーがついに試合をストップ。辰吉は飛び上がって喜びを爆発、
そして、その場で泣き崩れた。
「何度負けても、最後に笑えればいい」
辰吉丈一郎は試合後の控室でそう口にした。