レスリング130キロ級で無敵の強さを誇り、人類最強と呼ばれたロシアのアレクサンドル・カレリン。
世界選手権、9連覇。
オリンピックは、初出場の1988年ソウルから1996年アトランタまで3連覇。
国際大会では76連勝、13年間無敗を誇った。
そんなカレリンの連勝記録がストップしたのは、2000年のシドニーオリンピック。
130キロ級ではレスリング史上初の4連覇がかかっていた。
決勝の相手は、33歳のカレリンより4歳若いアメリカのルーロン・ガードナー。
誰もが13年間無敗のカレリンの勝利を疑わなかった。
しかし・・・。
この日のカレリンが人類最強の男とは別人だったことは、ポイント0―0で3分間の第1ピリオドを終えた、ハーフタイムで明らかになった。
無敵のカレリンがヒザに両手をおき、肩で息をしていたのだ。
無尽蔵だったはずスタミナは、第1ピリオドの攻防で切れていた。
第2ピリオドは、胸と胸を合わせ、互いが両手を相手の背中で組むコンタクトポジションでスタート。
ここでカレリンに痛恨のミス。
組んでいた手を離す反則を犯したのだ。
このペナルティで相手に1ポイントのリードを許したカレリン、相手にリードを許したのは、ソウルオリンピックの決勝以来だった。
試合は、規定の3ポイント差がつかず、延長戦に突入。
必殺技の「カレリンズ・リフト」に挑むも、オリンピック前の合宿で首を痛め、さらにろっ骨痛が慢性化したカレリンに、もはや逆転の一発を決める余力はなかった。
延長戦残り5秒。
精根尽き果てたカレリンは、ガードナーから両手を離すとマット上でがっくりとうなだれた。
0―1の判定負け。
信じられない光景に観衆は言葉を失った。
カレリンのオリンピック4連覇の夢はここでついえ、国際大会のデビュー以来の連勝記録は「76」でストップした。
大会後には、カレリンは引退。
「カレリンを倒すにはゴリラに格闘技を教えるしかない」とまで言われたアレクサンドル・カレリンは、今も霊長類最強の男として語り継がれている。