負ければ日本一を逃す第4戦。
1対1の同点で迎えた延長10回にオリックスのマウンドに上がったのは、プロ3年目の小林宏だった。
第3戦、わずか1球で降板した小林にとって雪辱のマウンドである。
延長11回、1アウト一、二塁とサヨナラの大ピンチで、このシリーズ5割3分8厘、
1ホームラン、3打点と絶好調のヤクルトの4番・オマリーを打席に迎えた時、監督の仰木彬が言った。
「速い球で攻めろ。強気でいけ!」
小林の覚悟は決まった。
「オマリーは初球から手を出してこない」。
スコアラーのデータを信じ大胆にストライクを取りに行く。
2球目もオマリーが見逃し、簡単に2ストライクと追い込んだ。ここから、我慢比べが始まった。
3球目は内角低めの際どいコースがボールとなり、4球目から3球連続でファウル。オマリーにタイミングを合わせられてはいたが、それでも小林は、ストレート勝負を挑んだ。
7球目。内角の140キロのボールをオマリーに捉えられる。飛距離は十分。
しかし打球は、ライトポールを避けるように右に切れていった。
たった1メートル。この1メートルが勝負の明暗を分けた。
8球目以降も小林は攻める。
ファウル、ボール、ファウル、ファウル。
ライトへの大飛球となるファウルを打たれた後の13球目にスライダーで様子を見る。
そして、フルカウントからの14球目。内角低め、137キロのストレートにオマリーのバットが空を切った。空振り三振。
小林は小さく拳を握り、力強く吠えた。
後続を断ち、絶体絶命のピンチを切り抜けた小林は、延長12回もヤクルト打線を無失点に抑え、勝利の立役者となった。
オリックスは第5戦で敗れ日本一を逃した。だが小林は、チームでただひとりの表彰選手となる敢闘賞を受賞した。
14球の熱投。誰もが、小林のピッチングを認めた証拠だった。