Legend Story
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16.04.09
有森裕子

オリンピック・スタジアムに、3番目に帰ってきた有森裕子はゴールインし、天を仰いだ。

1996年のアトランタオリンピック、女子マラソン。
スタート時は小雨と気温21度の肌寒さ。
有森の「暑ければ暑いほど楽しみ」という期待はアトランタの気候に裏切られ、ともにメダルを狙った、浅利純子は、序盤から後方へ消えていった。

変化が起きたのは19キロ付近。
5人の先頭集団から、無名のランナー、エチオピアのロバが一気に抜け出した。
有森は、はやる気持ちを抑えながら集団の中で並走。
そして30キロすぎの下り坂に差しかかった時、満を持して飛び出し、単独2位に上がった。
   
しかし、33キロすぎ、後方から来たロシアのエゴロワに並ばれる。
バルセロナオリンピックの終盤、すさまじいデッドヒートを演じたライバルだ。

有森は脱水症状も現れ、アップダウンの激しい難コースに足がしびれた。
もはや、エゴロワと競り合う力は、残っていなかった。
エゴロワが簡単に交わしていく。
何度も「もうつぶれる」と思いながら、ただ、ゴールだけを頭に描いて走った。

競技場に入るとスタンドが妙にざわついている。
背後にはドイツのドーレが迫っていた。
マラソン人生初というぐらいの激しいラストスパート。
2時間28分39秒。
自己ベストに次ぐ好タイムで銅メダル。
「初めて自分で自分をほめたいと思います」。
ゴールの瞬間の有森裕子は、泣きながら笑っていた。