樋口黎(ひぐち・れい)選手は、1996年、大阪府のご出身。
4歳でレスリングを始め、全国少年少女選手権5度優勝、中学の全国大会で3年連続3位のあと、高校では2年生で出場したインターハイから卒業するまで、インターハイ2連覇、国体2連覇を含めて負け知らずで過ごし、高校3年生では、主要6タイトルすべて獲得。
日本体育大学に進学後、国民体育大会、全日本選手権と優勝を重ね、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックに20歳で出場し、2位、銀メダルを獲得、そして今年のパリオリンピックでは悲願の金メダルを獲得されています。
──まずは、パリオリンピック金メダル獲得おめでとうございます!
ありがとうございます。
──樋口選手は2016年のリオデジャネイロオリンピックで銀メダル。しかし前回の東京オリンピックには出場することが叶わず。今大会、2大会ぶりのオリンピックで金メダル。樋口選手、金メダル獲得直後におっしゃった言葉を覚えてらっしゃいますか?
ちょっとうる覚えですね(笑)。
──興奮してらっしゃったでしょうしね。樋口選手は、金メダル獲得直後のインタビューでこんなことをおっしゃっていました。「たくさん負けて、計量失格もして、たくさんの挫折と絶望を味わってきたんですけど、絶対に金メダルを獲れると思って信じてここまでやってきて、それを支えてくれるコーチであったり仲間であったり、本当にたくさんの人がいたおかげで獲れた金メダルなので、僕1人で獲れた金メダルだとは思ってないですし、これを見て応援してくださってた方々も、スポーツだけじゃなくて、たくさん挫折や絶望があると思うんですけど、この大会を通して、希望や感動や一歩踏み出す勇気というものを、くじけた時にそこから踏み出せるようなパワーを与えられたんだとしたら、スポーツの力として伝わってると思いますし、アスリートとしても本懐で、これ以上ない重畳であると僕は思います。」──この「重畳」という言葉を調べましたけれども、「大変喜ばしいこと・この上もなく満足なこと」とありました。
ちょっと古い言葉で、時代劇とかでは「重畳」という言葉は使われたりするんですけれども、山の天辺の方の「頂上」ではなく、スポーツを通して挫折や絶望からどうやって立ち上がるか。そこから、スポーツの力を通じて、応援してくれている人たちに感動や勇気を届けることがアスリートとして一番良いことであると思ったので、こちらの「重畳」という言い方をさせていただきました。
──樋口選手にとって「挫折や絶望」というのは、前回の東京オリンピックへの出場がかなわなかったことなどを指してらっしゃるんですか?
そうですね。僕だからこそ伝えられることは何だろうと考えた時に、リオデジャネイロオリンピックの決勝で負けてしまったり、東京オリンピックで計量失格してしまったり、いろんな失敗をしてきたんですが、それでも、周りのサポートしてくださっている先生方やライバル、仲間…いろんな人たちが応援してくれてパリオリンピックの舞台に立てたので、僕は1人で戦っているのではないですし、応援してくれている人たちに、僕が失敗から立ち上がる姿を通して勇気を届けることができたらいいなと思っていました。
──東京オリンピックの時は、計量で失敗してしまったと仰っていましたが、何gオーバーしていたんですか?
本当に卵1個分ぐらいなんですけど、50gぐらいですね。周りから見ると“それぐらい何とかすれば落ちるんじゃないか”と思われるんですが、全力でやり切った後の50gだったので、悔いのない50gというか…。自分としては全力でやり切って体重を落としきっていたんですが、もう落ちなかったので、“仕方ない、申し訳ない”という気持ちはありました。
──いつも試合に向けて、だいたい何キロぐらい落とされているんですか?
普段は65から66kg位あるので、そこから57kg級まで落とすので、8kgから9kgの間ぐらいですね。レスリングの場合、2日間開催なので、2日とも当日の朝に計量して、57kgに落としてすぐ試合をしなければならないんです。
──2日目も57kgをキープしなければならないということですか?
2日目の朝にもう一度57kgの体重で計量しないといけないんです。
今回のパリオリンピックでも、レスリングはエッフェル塔の近くの会場だったんですけれども、初日の試合が全て終わって決勝進出となった後に、ベンチコートとサウナスーツを着て、エッフェル塔を見ながら真夏の中をひたすら1時間半走って、2kgぐらい落としました。
──食事とかはどうされているんですか?
東京オリンピックで計量失格した時までは、みなさんが漫画で見たことがあるような、“飲まず食わずで走って落とす”という知識しかなかったんですけれども、僕がオリンピックでチャンピオンになるためには、もっと減量についての知識をしっかり学んで、“どうすれば自分のパフォーマンスをもう1つ上げれるか”ということを勉強しなければいけないと思ったので、そこから、YouTubeやSNSなど、ネットを使って勉強するようになりました。
──その中で参考になったこと、「ここだ!」というものは何かありましたか?
やっぱり飲まず食わずでやるということが一番良くなくて、これは本当に最終手段なんです。
例えば、ボディービルやフィジークの選手たちは、大体2週間に1kgぐらいのペースで、1ヶ月に2kg、3kgの体脂肪を削っていくんですが、これも勉強するとすごく面白くて、人間は大体7200kcal削ると体脂肪が1kg落ちるんです。つまり2週間に1kgなので、“食事と運動で合わせて1日に500kcal削る”というイメージを持って取り組むことですね。
あとダイエットで一番大事なのは、「頑張りすぎないこと」ですね。
”落とそう”と思って頑張りすぎちゃうと、“甘いものが食べたい”とか衝動が抑えれなくなってしまうので、ジョギングみたいな軽い運動と、少しずつ食事制限をしながら、“今日は食べちゃったので明日はもうちょっと減らして頑張ろう!”という緩急を大事にしながらダイエットに取り組むと良いと思います。
一般の方でダイエットを頑張りたいという人は、「頑張りすぎない」ということを精いっぱい頑張ってほしいと思います。
──哲学みたいですね。「頑張りすぎないことを頑張る」。それならできる気がしてきますよね。東京オリンピックなど挫折や絶望もありましたが、そこから救ってくれたのは、やはりご家族の存在ですか?
そうですね。もちろん友人であったり先生方の存在も大きいですが、妻が一番心の支えとなってくれて、普段から減量の食事などにも付き合ってくれていたので、ありがたいですね。
──また奥様がチャーミングな方ですよね。インタビューの時に後ろからピョコピョコ近づいていらっしゃいましたよね。
そうですね(笑)。現地に来るまで、願掛けで金髪にしてくれていたことを知らなかったので、もう効果覿面でしたね。
──あのインタビューの時まで会う機会はなかったんですか?
レスリング競技はバタバタしていて、パリに入って中2日しかなかったので、すぐに体重を落として、そのまま試合をして、ようやくインタビューの場所で会えた感じでした。
“(日本を)出発するまでは黒髪だったはずなのに”と思いながら、でもその分応援してくれてたんだなということが心に沁みました。
──この番組では、毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。樋口黎選手の心の支えになってる曲を教えてください。
僕はヨルシカの「盗作」という曲です。
サビの部分で作品を盗んだ人の心情を描いているんですが、ずっと「満たされない」「何かが足りない」と言っているんです。
僕も、“餓え”というか“乾き”というか、“満たされない心”というものを大事にし続けて、学び続ける姿勢を持ち続けていたいなと思いました。
──でも、レスリングの世界は、“お互いの技を見て盗む”というのは当たり前にあることなんじゃないですか?
そうですね。最初はみんな、上手な人を真似したり、何かしら相手の技術を盗んだり、そういったところから自分のオリジナリティが生まれてくると思うので、僕は、スポーツに関しては、そういった「盗む」という行為はむしろどんどんやっていって良いと思います。
──レスリング以外のスポーツからヒントやアイディアをもらうこともありますか?
ありますね。
僕は柔道とかもよく見ていて、阿部一二三選手などが背負い投げや一本背負いなどでどういう風に(技へ)入っているのか、体をどういう風に動かしたら相手がどう投げられるのか、というところを見たりしています。レスリングなので相手をつかむことはできないんですが、そういったところを上手くレスリングに落とし込んで自分の形に変えていったりしますね。
例えば、レスリングでは襟はつかめないので手首や自分の肘などを引っ掛けて投げる形になるんですけれども、それでも体の入り方やタイミング、相手がどのような形になれば投げれるのかという本質が同じような形になっているので、よく参考にさせてもらっています。
今回お話を伺った樋口黎選手のサイン入り色紙を抽選で1名の方にプレゼントします。ご希望の方は、番組公式X(旧ツイッター)をフォローして指定の投稿をリポストしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。そして今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。放送できなかったトークが盛りだくさん! ぜひお聴きください!