室屋義秀(むろや・よしひで)選手は1973年生まれ。
大学に入学後、航空部に所属しグライダーで飛行訓練を開始し、20歳で飛行機操縦免許をアメリカで取得。
22歳の時に見たエアロバティックス(曲技飛行)に衝撃を受け、目標を「操縦技術世界一」パイロットに定め、国内でグライダー教官として飛行技術を磨きながら、24歳から競技会に参加。
国内外で活動を続け、36歳で日本人初のレッドブル・エアレースに初参戦し、2017年にはワールドチャンピオンタイトルを獲得。
また、2023年から始まった「AIR RACE X」の発起人で、初代チャンピオンでもあります!
──エアレースに出るようになられた経緯は?
大学の在学中ぐらいに景気が悪くなって、僕らの世代から一気に就職氷河期で就職先が全くなくなって、就職しなくていいかと思ってフリーターになって、そのままアルバイトで1年間でお金を貯めてアメリカに行って、2ヶ月ぐらいトレーニングしてお金が尽きたら帰ってくる…という生活を始めたんです。
──バイトで大金を貯めて、それを技術向上のために使う、まさに自分に投資していたわけですよね。そこからそのパイロットになる道が開けたきっかけは何だったんですか?
日本でアクロバット(飛行)の世界大会みたいなものがあって、それを観た時に衝撃を受けたんです。
僕もグライダーとかで教官として学生に教えたり、結構腕に自信はあったんです。でも、アクロバットのプロの大会を観た時に、あまりにもレベルが違って、本当にパイロットとして目指すならこの世界だなと思って、「これをやろう!」とそこで決めて、それから訓練も続けながら日本で飛ぼうと思ったんですが、日本には飛行機もないし、教官もいないし、素地が全くないので、じゃあ飛行機は買うしかないと思って、中古で3000万ぐらいするんですが、買ったんですよ(笑)。
──すごいですね(笑)。僕は「エリア88」という漫画がすごく好きなんですが、Gがすごすぎてブラックアウトとかいろいろあるじゃないですか。実際にそういう世界なんですか?
そうですね。多分、簡単にブラックアウトするような世界で、6Gぐらいの力がかかると、内臓も血液も、体中全部が重たくなるんです。
飛行機に乗っていると必ず旋回の時に傾くので、必ず上から下に(Gが)かかるんですよ。横にはかからないんです。
──車の場合は平面を曲がっていくから横に持っていかれるけれど、飛行機は必ず底の方にGがかかる。
はい。だから、下に向かって押し潰されるんです。血液って全身に回っているじゃないですか。心臓より上に頭があって、そこに向かって心臓のポンプの力で血液を送っているんですよね。これを血圧と言いますけれども、この圧とGがどこかで釣り合うんですが、6Gぐらいで釣り合ってくるので、(そのぐらいのGがかかると)普通にしているともう血液が(頭のほうに)上がらなくなるんです。
──血液がいかなかったら危ないですよね。
そうなんです。脳って酸素がないとあっという間にやられるらしく、3秒ぐらいで酸欠になって目が見えなくなってきたりするので。
──それは鍛えようがあるんですか?
ちょっといきみ動作とかをして、トイレで踏ん張るような感じでいきむと顔がうっ血する感じになるんですが、あの状態を作っておいて、脳の血圧を上げるんです。それでGがかかっている間は力を抜かないようにして、でも息が続かないので一瞬だけ“シュッ!”と息を吸って、力を緩めないように息継ぎをしながら飛んでいくんです。
──全く想像できないというか、僕らは経験しない世界です。でも、とにかく体への負担がすごいんだなということが改めてお話からわかりました。そして、本日のゲスト室屋選手が発起人の1人となり、現在参加されているAIR RACE X(エアレースX)というのは、資料によりますと、「世界最高の飛行技術を持つパイロットたちが、最高時速400キロ、最大重力加速度12Gの中、レース専用小型機の操縦の正確さとタイムをリモート形式で競い合う、最新技術を活用した空のモータースポーツ」とあります。先ほど6Gでも大変だと言っていたのに、12Gとなっていますけれども(笑)、12Gの時はどうなるんですか?
動作は一緒なんですけれども、その動作も、早く、先に準備しておかないと首も全く動かせなってしまうんです。一度倒れ出すと筋力では止められないので、本当に体中を固めておかないといけないぐらいの感じになります。なんというか、骨がきしむ感じです(笑)。
──本当に極限状態ですね。
そうですね。10Gを超える領域というのは戦闘機のパイロットでもあまり経験していないと思いますね。
──初戦は室屋選手が2位、2戦目は優勝。おめでとうございます!室屋選手が2017年に世界チャンピオンになったレッドブル・エアレースとはどういうところが違うんですか?
レッドブルレースは、世界を転戦して、ワールドチャンピオンシップシリーズで年間チャンピオンを決めていくシリーズなんですけれども、19年でシリーズが終了してしまったんです。コロナ禍に入って、新しいシリーズも立ち上がらずツアーもできないという中で、何か自分たちでも新しいシリーズ、レースができるんじゃないか、こういう移動ができない環境下でも何かできないかということで、「リモートレースをやってみようか」と。
我々レースチームとしてもいろんなシステムや計測技術などいろんなものを持っているので、それらを駆使してずっと開発をしていて、いよいよレースとして可能になったので、昨年から開始して、世界各地で飛んだデータを集めてきて、競い合うことができるようになったんです。
──みなさんが同時に飛んでリアルタイムでレースをするというわけではないんですか?
時差もあるので同時には飛べないので、約1週間ぐらいの期間があってその間に飛ぶんですけれども、飛ぶ前には「これから決勝フライトをする」ということを登録しなければいけないんです。
そうしたら一発勝負になってくるので、レースと同じようなコンディションでレースが行われて、それらのデータが全てオフィシャルに集められた中で、予選と決勝に分けられて、最終的に組み合って番組として放映されてくるので、我々としても、飛んだものの、勝ったか負けたかは、実はその決勝日までわからないんです。
──(飛んでから結果が出るまでの)時差がかなりあるんですね。(選手側は)今回は良いタイムで飛んだと思っても、実際のレースとされている日の結果を見てみないとわからない。
そうですね。
──僕たち観客が観るのは、飛行機が実際に合成されたものを観て楽しむということですね。
はい。リモートレースだとYouTube上で映像で全部まとまっているので、普通のテレビ中継を観ている感じで楽しんでもらえます。
第3戦は10月19日に渋谷で行われる予定で、ミヤシタパークのところなど渋谷全域で観られるんですが、ARで、対戦する飛行機が実際に街を飛んでいくところが観られるんです。
レース結果はYouTube上で映像として流れている中で、それと同期したAR(の飛行機)が飛んでいくので、スマホやタブレットを持って行ってもらえば、(YouTubeの)映像を観ながら、(ARで)実際に飛行機が飛んでいるところが観られると。特に、ミヤシタパークは音響などもあって、飛行機の動きに合わせて音も流れるので、かなりリアルに観られると思います。
──本当にそこでレースが繰り広げられているような臨場感で体験できる。
そうですね。僕らも結果は知らないですけれども。
──しかも、飛行場所と気象情報を自動的に(集計して)ハンディキャップタイムとしてプラスマイナスされると。
はい。気象条件、空気の密度によって…飛行機は空気を使って飛ぶので、トップスピードも変わればエンジンのパワーも変わってくるので、空気密度を自動取得してハンディキャップが自動計測されるようになっていて、フェアになるように調整されています。
──これは絶対に観に行ってみたいですね。(アプリをダウンロードして)スマホをかざせば渋谷の上空を飛行機がとんでもないスピードで飛んでいくわけですよね。
そうですね。できれば2台あると、YouTubeを片方で観ながらARも観てもらえると(笑)。
──2台持ちで行くと(笑)。
2台持ちで行くといいと思いますね(笑)。
──複数で、グループで行ったりしたら、それぞれ楽しめるわけですから。夢が広がりますね。
そうですね。SDGsも色々言われていますけれども、我々は移動もなくこういうレースもできるし、新しい形が提案できているかなと思います。
──今お話がありました、室屋選手が参戦しているAIR RACE X(エアレースX)は、公式YouTubeチャンネルで配信されるレース番組を無料で観戦できます。また、改めて、渋谷デジタルラウンドの決勝トーナメントは10月19日土曜日、YouTubeの他、渋谷の宮下公園などでは、スマートフォンやタブレットなどで渋谷の空をレース機が飛ぶ様子を体感できます。さあ、そしてこの番組では毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。室屋選手の心の支えになってる曲を教えてください。
BOφWYの「Dreamin'」です。
僕らはまだテープで聴いていましたけれども、テープが擦り切れるほど聴いたと思います。
小学生ぐらいの頃から(BOφWYが)好きでした。
──何がきっかけでBOφWYが好きになったんですか?
僕の1個上の小6の人が、「すごいのがあるから聴きな」みたいな感じでテープを持ってきてくれて、ラジカセでずっと聴いていたんです。
──中でも、なぜこの「Dreamin'」を選ばれたんでしょうか?
まだ学生で、アメリカに行って夢も叶わず貧乏もしていたので、そういう頃に、「やっぱり俺はまだやれる!」とまだ頑張っている頃によく聴いていました。
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