武藤弘樹(むとう・ひろき)選手は、愛知県出身、トヨタ自動車所属の25歳。
中学1年生でアーチェリーと出会い、翌年中学2年生で全国大会出場。
そして、高校1年生で世界ユース選手権に出場し、初の世界大会を経験。
その後、2018年ワールドカップ第1戦、第2戦で、男子団体で銀メダルを獲得。
2019年、5年連続でナショナルチーム入りを果たし、昨年の東京オリンピックでは男子団体で銅メダルを獲得されました。
今回はリモートでお話を伺っていきました。
──武藤選手は来月10月21日から夢の島公園で開催される全日本ターゲットアーチェリー選手権大会に出場されるそうですが、これはどのような大会ですか?
いわゆる「全日本選手権」にあたる大会です。オリンピックなどで観ていただいた、屋外で70メートル射つ「ターゲット」(アウトドアターゲットラウンド)と呼ばれる競技で、日本で最高峰の試合になります。
──いわゆる「全日本選手権」のようなな扱いということですね。パリオリンピックの選考にも関わってくるんですか?
まだ正式発表はないんですが、おそらくは(選考の)一番最初の入り口になるんじゃないかと言われてはいますね。
──まだ東京オリンピックの話を色々訊かれている時に、もうパリへの最初の第一歩が始まるわけですね。今、武藤選手の調子はいかがですか?
オリンピックが終わって今年も何度か海外の試合に行ったんですけれども、“次のパリ(オリンピック)で勝つためにはこのままではダメだな”と思う部分があって、夏ぐらいから課題修正に取り組んでいて、今は段々と仕上がってきた段階なので、「ボチボチかな」という言葉が一番正しいと思います。
──その課題にされている点をお伺いしても良いでしょうか?
ちょっとマニアックな話になるんですが、シューティングフォームの改善に取り組んでいます。やはり、僕らはバランスだったり再現性がすごく大事なポイントになるんです。
(僕の場合)弓を引いている時に、体重が左足の方に乗りやすかったんですが、それをちゃんと左右均等にできるように、今練習しています。
──ちょっとした重心の位置の置き方で、再現性が変わってくるんですか?
はい。緊張したり勝ちたい場面って、どうしてもすごく力が入ってしまうんですよね。そのバランスが崩れた状態で無理に射とうとすると、もっと大きく崩れてしまってうまくパフォーマンスが発揮できない。もう一度同じことをするということを考えると難しくなるんですよね。
──射つ瞬間に、ご自身のチェックポイントみたいなものがあるんですか?
日によってや年によって違うんですけれども、“当たった”“当たらない”という、感覚的なセンサーみたいなものはあると思いますね。
──ご自身の射っている時の感覚との“ズレ”みたいなのものが、試合によってあったりするんでしょうか。
やっぱりありますね。もちろん大きな試合では調整しきっている状態なので基本的に大丈夫なんですが、その時期から(試合の日程が)大きく離れているとズレが起きやすくて、それを合わせるのがやっぱり一番難しいですね。
──何かのインタビューで、「今までは不安と緊張を取り除こうと思っていたけれど、取り除き切れない。なので、“それを感じた中でどういうことをするか”というふうに思いが変わっていった」というようなことを仰っていたのを読んだのですが。
僕らは平然と射っているように見られるんですけども、誰しもが不安だし、誰しもが緊張しているんです。やっぱり自分が結果を出したい試合…例えばオリンピックだったり全日本選手権だったり、その試合に向けて頑張ってきたからこそ、“自分はできるかな”という不安があったり、“勝たなきゃいけないな”と思うようになっていくと思うんです。だから、その緊張や不安をなくすのは無理なんですよね。だからこそ、それを“上手く受け入れる”というか。僕は、試合前に不安になったら、“それだけこの試合に気持ちが入っているんだ”とか“戦う準備ができたんだ”と思うようにして、(不安や緊張を)受け入れていますね。
──ジャンルは全然違うんですが、僕の仕事もシーンと静まり返った中で何かをしなきゃいけない“静”のものだなと思っているので、そういうプレッシャーの克服方法があったら教えていただきたいです。
僕が(アーチェリーの)競技が他のスポーツに比べて違うなと思うところは、動きが自分主導なんですね。例えば野球だったら「投げられた球を打ち返す」とか「飛んできた球をキャッチする」とか、相手が何かをしてから自分が行動することが多いんです。
でも、アーチェリーとか、ゴルフやダーツなどもそうですけど、これらのスポーツって、“自分が絶対スタート”なんです。自分が“よしやるぞ!”と決めてスタートすると思うので、そこが一番“静のスポーツ”の難しいところだと思うし、それが一番緊張するんです。
でも、僕がすごく思うのは、緊張したり中途半端なプレー…例えば70%ぐらいの力しか出してなくて負けたら、すごく悔しいじゃないですか。だから、“ミスしても良いから今できる全部のことをやろう!”と思うようにはしています。
──全日本ターゲットアーチェリー選手権大会における目標と意気込みをお聞かせください。
僕はまだ全日本ターゲットアーチェリー選手権大会に優勝したことがないので、まずは優勝したいと思っています。自分自身、トーナメントを勝ち進むのがそんなに得意ではない部分があって、それを克服しないと結局はパリでは勝てないなと思っているので、“何が何でも勝つ”というよりも、まず“勝つべくして勝ちたい”。それまでに「こういうことをやってきたから勝った」とか「そういう考え方をしたから勝った」という、何か勝つためのポイントをつかみたいなと思っています。
──この全日本ターゲットアーチェリー選手権大会が、パリへの第一歩になるかもしれないと仰っていました。そのパリオリンピックですが、2024年。もう再来年にはやってきますね。そのパリオリンピックに向けて、何か取り組まれていることはありますか?
今、色々なところに行くようにしていまして。いつもだったら、僕は東京に住んでいるので、東京の試合に出たり、近場の神奈川の試合に出たり、地元の愛知の試合に出る、この3つくらいなんですよね。でも海外の試合って、いきなり知らない射場に行って、知らない風を読んでいきなり当てなきゃいけないんです。いわゆる“アウェー”ですよね。そういう環境に慣れる、そういう環境の中でも最初から自分の力を出す、出せるようにならないといけないと思っているので、あえて今まで行ったことがなかった射場だったり、県だったり、知っている人がいないところに行くようにしましたね。
──まさに武者修行ですね。今度のパリオリンピックはアウェーですから。
そうですね。東京の時は、ボランティアの方も含めて日本の方ですから、(話す言葉は)日本語ですし、僕らを応援してくださるんですよね。それがすごく力にもなりましたし、“ホームだなぁ”という感じを作ってくれたんですけど、パリに行けばフランスの方のボランティアがいて、フランス語や英語を話してくる方ばかりなので、もちろん言語という意味でもそうですし、その方が誰を応援されているのかもそうですけど、“どれだけ自分の身の回りに知ってる人がいるのか”と言われたら、東京オリンピックに比べたら少なくなると思うので、そういう(アウェーで戦う)準備は今のうちにやっておかなければなと思っています。
──それでは、パリオリンピックに向けての目標を教えてください。
東京(オリンピック)では男子団体で銅メダルを獲ることができましたが、パリではしっかり、個人も団体も混合団体も3つともメダルを獲りたいなと思っています。
──複数のメダル目指してらっしゃる。やっぱりオリンピックは全国民が注目する大会なので、アーチェリーを広く知ってもらう為には恰好の場所ですもんね。
そうですね。まずは僕らが勝たないことには広まりもしないし、観てももらえないと思っているので。僕らが勝つことがすごく大事になってくる部分だと思うので、まずはしっかりと勝ちたいなと思います。
今回は(メダルが)1個しか獲れなかったんですけど、3つ獲ってきたらなかなかすごいですよね。3位決定戦で勝ちはしましたけども、銅メダルの時って、1回負けているんですよね。やっぱり最後まで勝ち抜いて、1回も負けずに帰って来たいなと。なので、金メダルを獲って帰ってきたいなと思っています。
──ぜひ頑張って欲しいなと思います。そして、この番組ではゲストの方にcheer up songを伺っています。武藤選手の心の支えになっている曲を教えてください。
僕の心の支えになっている曲は、LiSAさんの「マコトシヤカ」という曲です。
──去年もこの曲を選ばれました?
だったと思います。やっぱりみんなに聴いてほしいので。
──LiSAさんがお好きなんでしたよね?
そうです。大学時代からよく聴くようになって、それこそアニメ『鬼滅の刃』ですごく人気が上がったとは思うんですけれども、その前から僕は聴いていたので、どっちかというと古参寄りかもしれないですね(笑)。
──この曲の歌詞に武藤選手は背中を押されるんですよね?
そうですね。僕らの練習って同じことの繰り返しなので、“もう良いか”って飽きちゃう部分がある人も多いんですよね。そんな中でも、“まだ頑張れるんじゃない?”って思わせてくれる曲です。
──最後に、夢を持って頑張ってアーチェリーに取り組んでいる人たちにメッセージをお願いします。
アーチェリーって、同じ競技でも、飽きがくる人もいれば、なかなか難しいし教えてくれる人が周りにいない部分もあるので、辛くなる時もたくさんあると思うんですけれども、どんなスポーツにもこれは言えるのかもしれないですが、きっと、悩んだり難しい課題を繰り返しやっていったその先には答えや出口があると思いますし、(たどり着いた)その時、すごく成長していると思うので、ぜひその時まで諦めずに頑張ってください。
今回お話を伺った武藤弘樹選手のサイン入り色紙を、抽選で1名の方にプレゼントします。
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そして今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。
放送できなかったトークが盛りだくさん! ぜひ聴いてください!
さらに、『トヨタイムズ放送部』では、武藤弘樹選手の特集回のアーカイブ動画もお届けしています。こちらもぜひご覧ください!