澤穂希(さわ ほまれ)さんは、1978年生まれ。
サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」のキャプテンとして、2011年の女子ワールドカップ優勝と共に、大会の得点王とMVPも獲得。
2012年のロンドンオリンピックでは、日本女子代表の史上初のメダルとなる銀メダル獲得に大きく貢献され、競技生活からは2015年に引退されていらっしゃいます。
──まずは、澤さん、お越しいただきありがとうございます!
10周年記念、おめでとうございます!
──10年といえば我々も大きく変わりましたけれども、澤さんにとっても非常に大きな変化があった10年だったんじゃないですか?
そうですね。もうすぐ現役を引退してから10年経ちますし、その間に結婚もして、出産したりと、本当にあっという間の10年でしたね。
──お子さんはサッカーをされているんですか?
サッカーはやってないんですが、でもやっぱり何かボールを与えたら、普通にこなしてやってくれます。
──澤さんがサッカーですごい選手だったということはもう認識されているんですか?
最近は(母親が)サッカーをやっていたことには気づいていますし、テレビでだったり、お友達に言われたりして、認識はしていますね。
──では、いつか「サッカーをやりたい」と言うかもしれませんね。
そうですね。でもまあ、私が教えることは多分ないと思います。やっぱり自分の子供だと厳しくなりますし、向こうも甘えが出ちゃうと思うので、もしやるとしたら違う指導者にお願いすると思います。
──この番組では、澤さんにまつわるゲストの方々にもご出演いただきました。澤さんにまつわるエピソードをお聞きしたんですけれども、ここ最近だけでも松木安太郎さん(2023年6月10日、17日)、宮間あやさん2023年7月15日、22日)、丸山桂里奈さん(2024年2月24日)等々。松木安太郎さんは、澤さんが中学生の頃所属していた読売サッカークラブの先輩として一緒に“ボール回し”をしていらしたとか?
もう大先輩です!その当時、松木さんとか、ラモス(瑠偉)さんとか、北澤(豪)さんとかもいらっしゃって。中学生である私相手に、普通にボール回しもしてくださったし、そこで厳しさも教えてもらいました。
向こうも手を抜くというか、遊び感覚ではやっていましたけれども、ラモスさんがガチでスライディングしてきたり(笑)、松木さんも体を張ってきたり、プロの厳しさというものを間近で教えてもらいました。
その中で、もちろん上手なので、テクニックを見せてくださったり、サッカーの楽しさもラモスさんや松木さんに教えていただきましたね。
──読売サッカークラブといえば、日本代表の選手がたくさんいる、相当レベルの高いところですから、中学生の頃にそういうレベルの高いところで一緒に練習できたということは、財産になったんじゃないですか?
財産になりましたし、本当に良い環境にいたなと思います。
その世代のプロの選手たちもいましたし、ジュニアユースなど女子の下部組織もあったり、本当に男女問わずサッカーができる良い環境でした。よく練習試合を見たり、たまにミニゲームとかに入らせてもらったり…本当に刺激になった中学生、高校生時代でしたね。
──松木安太郎さんといえば、今や熱すぎる解説でおなじみですけれども、どんな方なんですか?
変わらないです。その時の情熱は今もそのまま持っているという感じです。プレー中も、やっぱり“ファイター”というか。ガチガチ、ガツガツのディフェンダーだったので、闘志あふれるプレーを現役中から見せていたのが、今はトークの方で闘志を燃やしていますね(笑)。
──宮間あやさんは、2011年のワールドカップ優勝の時のメンバーですけれども、ドイツに入ったその日、澤さんが「あや、私、この大会、優勝する気がする」と予言してビックリしたとおっしゃっていました。覚えていらっしゃいますか?
はい。あやと一緒に散歩行った時にそう言った記憶もありますし、あやから後に言われて、「そういえば言ったね」という話をしましたね。
──そういう予言めいたことというのは、よく言われるんですか?それとも、その時にたまたま降りてきた?
今はそこまでではないんですが、昔から第六感が働くことがあるんです。“こういうことが起きると、今日はこういう人が点を取る!”とか。雰囲気(から感じるの)と、夢とかでもイメージができるというか。
そういうところがあったので、その時、なぜかはわからないですけれども、チームの雰囲気とか、みんなの調子、コンディションの良さ、チームワーク、団結とか、何か流れに沿っていくと、“このチームだったら優勝できるし、今しかない!”と思ったんです。
──アスリートは活躍できる年齢も限られてますし、もし叶えられるんだったら、今度の大会がチャンスだと思っていらっしゃった?
思いましたし、このメンバーで絶対に優勝したいと思いました。本当に苦楽共にずっと一緒に戦ってきたメンバーですし、家族以上に一緒にいた時間が長かったので。
このチームのために自分は全部出し切れる、全力でできると思えたメンバーでしたね。
──それだけ思い入れのあるチームで、実際にワールドカップで優勝することができて、その感激、喜びは相当なものだったんじゃないですか?
その当時の自分の人生の中で一番嬉しかったですね。ワールドカップ優勝が本当に夢だったし、目標であったので、世界一というのは本当に夢の時間でした。
だから、表彰式とかが終わって、打ち上げとかをして、30分だけ寝れる時間があったんですけど、起きた時にメダルが横にあって、「やっぱりこれは夢じゃなかったんだ」って(笑)。そのくらいアドレナリンも出ていましたし、大興奮でした。
──決勝の相手が最強のアメリカだったじゃないですか。澤さんはアメリカでもプレーをされていて、よく知ってる選手もたくさんいるわけですよね。そのアメリカにあの場で勝てたというのは?
もう本当に考えられないですよね。日本は弱小チームからあそこまで上り詰めた。しかも相手が決勝がアメリカだった。自分がアメリカでプレーをして、心も体も成長させてもらった、ある意味“第2の故郷”だったので、その相手に勝って優勝できたというのは本当に感慨深かったですね。
──アメリカ戦での宮間さんからのコーナリングからのシュート。映像で何回見てもどうやって打っているのかわからないんですが、どうやって決めたんですか?
私が言われがちなんですけれど、あれは宮間がスーパー(プレー)なんですよ。最後の最後まで(状況を)見ていて、自分が走るコースに蹴っているんです。あれは本当に難しくて、もう“点で合わせる”というか…。
私は、高さがあるアメリカにそのままヘディングとかをしても絶対に勝てないと思ったので、ああいう速いボールで、ニアサイドで、俊敏性…日本のアジリティなものを効かせてやったら、まあどこかに当たって、コースを変えて(そのボールを)誰かが入れてくれたらいいな、と思って蹴ったんです。
──じゃあ、ご自身で決めるというよりは、ゴール前に流し込めればいいかな、ぐらいの?
そうです。コースを変えて…と思っていたら、入っていて(笑)、“うわ~!”みたいな。最後、ワンバック(選手)に当たってコースが変わったんですけど、でも、あれこそ、最初で最後の、アスリートでいう“ゾーン”に入った瞬間でした。物事が全部スローに見えました。言葉で言うのが難しいですけど(笑)。
──そのゾーンに入る体験というのは、そうそうないんじゃないですか?
それが最初で最後です。でもそれで良かったです。その最初で最後が、その大会の決勝のあのゴールだったので。
本当に、サッカーの神様からの贈り物でしたね。でもあれは、本当にみんなの気持ちが入った得点でした。私だけではなく、女子サッカーに携わってきてくれた全ての人たちの想いがあって、あのゴールだったと思っています。
──今年の2月には丸山桂里奈さんにもご出演いただきました。なでしこのメンバーの方とは今も定期的にお会いしたりしているんですか?
会っています。2日前にも、桂里奈と宮間にも会いましたし、プライベートでも、引退した選手とはご飯に行ったり、仕事を一緒にしたり、そういう機会は増えましたね。
──先ほど第六感があるとおっしゃっていましたけども、丸山桂里奈さんも準々決勝の延長で素晴らしいゴールを決めました。あの日も“桂里奈が決める”という予感があったんですか?
あの時は、桂里奈に対してはなかったですね(笑)。
でも、桂里奈は途中から出てくることが多かったんですが、やっぱり流れを変えてくれる選手なので、期待はすごく込めていました。
本当にあの時の1点は大きかったんですけど、でも、私がアシストしたのに、何か「岩渕(真奈)からのアシスト」と言っていて(笑)。
──(笑)。今、桂里奈さんはバラエティーで大活躍。当時からやっぱり“桂里奈節”というか、ああいうキャラクターだったんですか?
本当にそれをいろんな人に言われるんですよ。「キャラクターを作ってるんじゃないの?」とか言われるんですが、全くそんなことはなくて、本当に現役の時からあのままなので、「うちらにとっては全然変わらないよね」って(笑)。「逆にもっとパワーアップしてるよね」と言うぐらい、そのままですね。
でもそれが素晴らしいと思いますね。やっぱり、みんなと一緒より、自分を持っていて個性的な人はすごく魅力的だから。
ワールドカップのメンバーはみんな個性的過ぎて、よくまとまったなと思うぐらいです。
──それをまとめたのは澤さんでは?
いやいや、宮間中心です。私も多分、ちょっとぶっ飛んでいるとことがありますし(笑)。
でも本当にみんなに個性があって、それが逆に(良い方向に作用して)まとまったのかもしれないです。
──今、コンプライアンスじゃないですけれども、やっぱり良い子でいることも求められたりするじゃないですか。それがプレーにも影響することもあるのかなと思ってしまうところもありますが。
私もそれはすごく感じています。
ただただ監督とかに言われたことをするイエスマンでは、多分、力は発揮できない。自分の個性だったり、自分の思ったことを伝える、出すということは決して悪いことじゃないし、逆にチームにとって良いことなんじゃないかなと私は思うので。
よく佐々木(則夫)監督もまとめてくれたなという思いもありますね。
──この番組では、ゲストの方にCheer Up Songを伺っています。澤さんの心の支えになっている曲を教えてください。
ナオト・インティライミの「Brave」です。
──10年前もナオト・インティライミさんの「 The World is ours! 」でしたが、やっぱり、ナオトさんですか?
そうですね。元気になるんですよね。
ライブに行ってもそうですし、自分がこの曲を選んだのは、2011年のワールドカップでずっと聴いていて、歌詞も今(当時)の自分たちにすごく当てはまるというか…やっぱり元気(を出したい時)とか、“自分が頑張るぞ!”という時にこの曲を聴くとモチベーションも上がりますし、あの時(2011年のワールドカップ)のことが思い出されてグッとくるものもあります。
アスリートにとって音楽というのは支えられるものの1つであるので、自分にとってこの曲は励まされたり応援されている曲なので、今でも変わらず大好きです。
──さあ、澤さんの後輩たち、なでしこジャパンは、パリオリンピック出場権を獲得しています。今のなでしこジャパンはどんなチームですか?
一緒に現役でプレーしていた選手が少なくなったので、なかなか深く交流というのはないんですが、会ったり話したりすると、本当にみんなすごく真面目なんです。私たちが真面目じゃなかったというわけじゃないんですけど(笑)。
もっと自分たちの個性とか自分を表現してもいいんじゃないかなという期待はあるんですよね。何か遠慮してるな、というか…この子達のポテンシャルとか技術はすごく高いから、もっともっと力を発揮できるんじゃないかと、外から見ていて思いますね。
──海外でプレーする(女性)選手は澤さんが“走り”のようなものだと思うんですけれども、今の選手たちは、海外で、特にビッグクラブでプレーしている選手がたくさんいますよね。
いますね。だからその経験をなでしこに戻った時に出してほしい、伝えていってほしいなと思います。
海外で、体格、フィジカルも強いチームの中で毎日プレーしていますし、言語だったり、生活の面でも大変なことも多いですし、寂しいとか苦しいとか(経験して)精神的なものも強くなってると思うので、そういうところをチームに還元するというか、もっともっと伝えていってほしいなと思います。
──まだちょっと足りないぞ、と?
期待を込めている部分もあります。外から見てると、もっともっとガツガツできるし、いけるし、やれるなという思いはありますね。
──なでしこジャパンの池田太監督は「日本の最大の武器は一体感」とおっしゃっていますけれども、澤さんから見た日本の武器というと?
ずっと先輩たちから繋いできた、なでしこの本当に良いところは、“ひたむきさ”。
みんな真面目で、サッカーに対する取り組み方とか、すごく一生懸命やっているなということは感じますね。
──技術というのも相当上がってきたんじゃないですか?
佐々木監督も、「お前らより全然技術うまいぞ」って、普通に言いますよ(笑)。実際に見ていて、足元の技術とか本当に上手だなとすごく思うんですけれども、それプラス、チームとしての戦術…チームコンセプトももっとハッキリできますし、戦術の部分とか、連携、連動の部分をもっともっと凝縮しないと、世界と戦う上ではまだ(足りないところがある)かな、ということは少し感じたりはします。
──パリオリンピック、期待しても?
そうですね。やっぱり日本国民はオリンピックにすごく注目していますし、期待もしているので。またメダルを獲れれば女子サッカーの環境も変わると思いますし、頑張ってほしいなと思います。
でも本当に、一試合勝つとか、メダルを獲るって、そう簡単じゃないんです。世界もレベルアップしてるので、簡単ではないですけど、もう欲は言わず、何色でもいいので、メダルを獲る。もちろん目標は金であってほしいですけれども、でも本当に何色でもいいので、メダルを獲得してほしいなという期待は持っています。
──パリオリンピックは、いよいよ今月開幕。なでしこジャパンはグループC。7月25日に去年のワールドカップを制したスペインと、そして28日にブラジル、31日にナイジェリアとそれぞれ対戦することが決まっています。簡単じゃない予選リーグですね。
そうですね。初戦がスペインという、前回ワールドカップの優勝国でもありますし、どの試合も大切なんですけれども、初戦って本当に一番大事なんですよ。そこで勝つか負けるか引き分けかで2試合目以降の試合の流れとかが全く変わりますし、気持ちの面でも全然違うので、1試合目は最低でも引き分け(にもっていけるよう)頑張ってほしいなと思います。
今回お話を伺った澤穂希さんのサイン入り色紙を抽選で1名の方にプレゼントします。ご希望の方は、番組公式X(旧ツイッター)をフォローして指定の投稿をリポストしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。そして今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。放送できなかったトークが盛りだくさん! ぜひお聴きください!