上重聡さんは、1980年生まれ、大阪府のご出身。
高校時代は野球の名門、PL学園のエースとして、甲子園には1998年に春夏連続出場。とくに夏の準々決勝で対戦した松坂大輔さん擁する横浜高校との延長17回に渡る熱戦は、大きな話題となりました。
進学した立教大学では、東京六大学リーグで史上2人目となる完全試合を達成。
その後、日本テレビでアナウンサーとして活躍され、この春、フリーアナウンサーへと転身なさっています。
──フリーアナウンサーとなられて1ヶ月半ぐらいですが、生活は変わりましたか?
変わりましたね。事務所にも所属せず、マネージャーもおかず、全部1人でやっているんです。ですから大変な毎日なんですけれども、スケジュール帳がすっからかんの不安と、埋まっていく嬉しさみたいなものを初めて体験していますね。
──ご自身が窓口になっているんですね。生々しいギャラ交渉もしなければいけない?
そうですね。ギャラ交渉もして。その苦労も楽しむじゃないですけれども、また新たな世界なので、その辺のしんどさも楽しみながらやろうかなと思っています。
──上重さんといえば、野球で培ってきたスポーツマインドを活かし、オリンピックや駅伝中継など、スポーツ実況でもご活躍なさっています。最近ですと、2022年の北京オリンピックで、髙木美帆選手がスピードスケート女子1000mで金メダルを獲得した際に、「1500mでパシュートで流した銀色の涙は、この1000mに金色の笑顔に変わりました」という実況にグッときた方も多かったのではないでしょうか。
ありがとうございます。わざわざ紹介していただいて。
──野球に打ち込んでいらっしゃって、いつからアナウンサーを目指されたんですか?
もともと小さい頃は人前で話すのが本当に苦手というか、どちらかというと嫌いだったんですよ。すぐに顔が赤面してモジモジしちゃう。“友達の前ではよく喋るのに…”みたいな感じだったんですが、甲子園に出て、色々な取材を受けたりする中で、自分の気持ちを相手に伝える、言葉で伝えるというところの難しさと面白さ、それに対する反響みたいなところを感じながら、アナウンサー、こちら(話を聞く)側の仕事にも興味があるなと。選手側ではあったんですけれども、聞く側も楽しそうだなということは、その頃から思っていたんです。
プロ野球選手になりたくて大学に行ったんですが、3年生の時に肘を故障しまして、プロ野球では難しいと思った時に、真っ先に思い浮かんだのがアナウンサーという仕事だったんです。
──ずっと野球をやっていらっしゃったから、スポーツ実況というのはやりたいことの1つではあったんですか?
そうですね。やっぱり野球というところでは少しアドバンテージがあるのかなと、そういうところを活かせればと思っていましたね。
──実際にアナウンサーになられて、アナウンサーの大変さというものも感じられたんじゃないですか?
一番最初は、それこそ野球の実況だったんですが、(その前から)野球の中継は観ていましたし、野球もしていましたし、正直なところちょっと舐めていた部分があったんです。でも、(実際に実況をしてみたら)言葉が全然出てこなくて。横にいる先輩に「困ったら天気を言え」と言われたので、「雨が降ってきました」と言ったんですけど、雨、降ってないんですよ(笑)。自分の冷や汗が目の前を通っていって、それが雨に見えて。雲ひとつない晴天だったんですけど(笑)。そのくらい、最初は全くダメでしたね。
実際、スポーツは何が起こるかわからないので、そこにいかに対応できるか。この状況をどう説明したらいいのか、というところが全くできなかったですね。
──自分が得意な野球だけじゃなく、いろんなジャンル、いろんなスポーツを実況しなければいけないじゃないですか。これもまた大変ですよね。
先ほどお話ししていただいた冬季北京オリンピックではスピードスケートとカーリングの実況をしたんですが、(スピードスケートもカーリングも)オリンピックの舞台が初実況だったんです。半年前に「オリンピックに行くから」と言われてから勉強をして、オリンピックの舞台が初実況。
でも、「金メダル!!!」と言える機会はオリンピック以外では中々ないので、髙木美帆選手が(金メダルを)獲ってくれて、それを実況できたということは嬉しかったですね。
──あらかじめ言葉は用意するものなんですか?
ある程度想定はしていたんですけれども、髙木美帆選手は、先ほどもありましたが、1500mパシュートで惜しくも銀メダルだったというストーリーがあったんです。それで、1000mが始まる前のウォーミングアップの時の髙木美帆選手の目を見た時に“あ、金メダルを獲る!”と思ったんですよ。
なので、その時にもう金メダルの実況に向けての言葉を考えていたんです。それをそのまま伝えることができたという感じですね。
──スポーツって、筋書きのないドラマじゃないですか。悔しい場面、惨敗の場合もありますよね。
ありますし、そのパシュートでは残り100mで転倒して金メダルを逃したんですが、その想定を私はできていなかったので、「ああ~~!」しか言葉が出てこなかったんですよね。やっぱりそれは今でも悔いが残ります。
“何かもっと言葉を付けられなかったのか”というのは、アナウンサーとしての永遠のテーマですよね。
──いろんなスポーツがあったと思いますけれども、これは難しかったなと思うスポーツはありますか?
日本テレビ特有で言うと、やっぱり箱根駅伝。中継車もバイクも乗らせていただいたんですが、そもそもスタートしてからフィニッシュするまで一度も(中継車から)下りられないので…。トイレも行けないですし、7時間、8時間ぐらいずっと乗りながら喋っているという感じなんです。
──皆さん、おむつをしながら、という?
する方もいらっしゃったり。
1週間ぐらい前から水分を調節して、なるべくトイレに行かないように、アスリートじゃないですれども、ある意味、登板に向けて調整する、みたいなイメージですよね。
──しかも、あれだけ大勢の選手が出て。さらに今、エントリーが当日になって変わるわけじゃないですか。
日本テレビも、昔からの伝統で、400人ぐらいの選手1人1人に会って、全員にアンケートを取って、それをまとめて乗り込んでいるんです。まとめるのに大体1ヶ月かかります。12月ぐらいからその作業をずっとやっています。
──12月は年末の特別編成になっていて、年末年始の特番の収録も忙しいわけじゃないですか。それでいて、その時点で誰に来るかわからないですよね。せっかく用意していて、今目の前でドラマが起きているのに、もっと違うドラマがあると、そちらが優先されたりするわけですよね。
その資料の、言っても1割ぐらいしか本番では出せないんですよね。でもこれは不思議なもので、自分が会いに行った選手の横に着く…みたいな、そういうストーリーがけっこう起きるんです。
ですから、実際に喋っているからアンケートに載っていないことまで話せたりするということもあるので、やっぱり取材って大事だなと改めて思いますね。
──オリンピックになると、民放各局が、局の垣根を越えた体制になるんですか?
そうですね。各局1人か2人、アナウンサー代表として出して、いわゆるオールジャパンみたいなチームを作って、オリンピックにアナウンサーとして行って、競技を手分けして実況するんですけれども、面白いのは、競技によって中継する局が決まっているんです。ですから、私が実況するんですけれども、放送はNHKさんとか、放送はテレビ朝日さんとか、私の声で違う局の放送に乗るということがあるんですよね。
面白くて、“今日はNHKの放送です”となると、ちょっと声が低くなってNHK仕様になる、みたいな自分が(笑)。寄せちゃうというところもあったり。
その時の方が、「今日、いい実況だったね!」とか言われるんですよ。自分のイメージの局のカラーになっちゃう。テレ朝さんだと「元気にいこうかな」とか(笑)。そういうことがありましたね。
──フリーになってやりたいこと、夢みたいなものはありますか?
まさに文字通りフリーになったので、今日もラジオは(フリーになって)初めてですし、そういう“初”というか、今まで出会わなかった仕事にもチャレンジできる。その点で言うと、藤木さんの前で言うのも何なんですが、“演じる”みたいなことも、もしオファーがあればやってみたいなとも思います。
制限を決めないというところがフリーの面白さなのかなと思うので、アナウンサーらしい仕事と、アナウンサーなのにこんなこともやるんだ、できるんだという二刀流ができたらいいなと思っています。
──この番組では、ゲストの方にCheer Up Songを伺っています。上重聡さんの心の支えになっている曲を教えてください。
ディズニーアニメの『アラジン』で使われている「ホール・ニュー・ワールド」の日本語バージョンです。
カラオケに行く機会などもあって、やっぱりアナウンサーだと「上手いんでしょ? いい声なんでしょ?」みたいな振りがあるじゃないですか。その時に、自分の一番良い声の出せる曲を見つけたんですよ。比較的、音の高さとかが、アナウンサー発声で良い声が出しやすいので、「歌ってください」と言われたらまずこれを入れますね(笑)。
来週も上重聡さんをゲストにお迎えします!今回お話を伺った、上重聡さんのサイン入り色紙を抽選で1名の方にプレゼントします。ご希望の方は、番組公式X(旧ツイッター)をフォローして指定の投稿をリポストしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。そして今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。放送できなかったトークが盛りだくさん! ぜひお聴きください!