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2023.09.02

世界水泳を総括!パリ五輪に向けて、今、日本チームに必要なこと

今週の「SPORTS BEAT」は、競泳のオリンピック・メダリスト 萩野公介さんをゲストにお迎えし、お話を伺っていきました。
萩野公介さんは、1994年、栃木県出身。
小学校低学年から日本学童新記録を更新し、中学以降も各年代の新記録を樹立。
17歳で初出場となったロンドン・オリンピックでは、400m個人メドレーで銅メダルを獲得。
2016年リオデジャネイロ・オリンピックでは、400m個人メドレーで日本人初の金メダルを獲得。また、200m個人メドレーで銀メダル、4×200mフリーリレーで銅メダルを獲得されました。
世界水泳選手権でも、2013年のバルセロナ大会では、400mと200mの個人メドレーで銀メダルを獲得。
2017年のブダペスト大会でも、200m個人メドレーで銀メダルを獲得なさっています。




──2001年大会以来、22年ぶりに福岡で開催された世界水泳選手権大会。10個の世界新記録が誕生し、素晴らしい大会になったんじゃないでしょうか。

世界的に見たら、連日、世界中の水泳界がざわついて、ざわついて。大変な日々でしたね。

──中でも、男子400m個人メドレーで、あのフェルプス選手の記録を破った、フランスのレオン・マルシャン選手。ついにあの記録が破られるんだと、衝撃だったんじゃないですか?

本当に、“時代はこうやって動いていくんだな”と思いましたね。
僕自身、フェルプスさんに憧れて水泳をやっていて、“この世界記録をどうやって切ったらいいんだろう”と(考えながら)練習にも取り組んでいたし、レースにも出ていたんです。
実際に(フェルプス選手の記録が)破られる姿を福岡で観ることが出来て、なおかつ、フェルプスさんが、放送席で(このレースを)直接観ていたんです。しかも、僕が解説していた目の前の席だったんです! そこで、フェルプスさんが手を叩いて「おめでとう!」とやりながら、ワールドレコードが切られる瞬間…“僕の人生でこんなに幸せなことがあるのかな!?”と思うぐらい、素晴らしい光景を目にしました。
そして、“こうやって時代って動いていくんだな”ということを思いましたね。

──歴史的瞬間に立ち合っている萩野さんを、さらに後ろか見たかったですね(笑)。

ただただ叫んで、ただただジャンプしていただけという(笑)。実況していない、というね。
でも、それぐらい、「この記録は永遠に破られないんじゃないか」と言われていた記録だったんですよ。それも1秒以上更新したので…いや、すごかったですね。

──レオン・マルシャン選手、まだ21歳という若さで。

そして、フランス出身ということで。来年、パリ・オリンピックに出てくるんですよね。本当に“申し子”ですよ。
去年の記録もすごかったですけれど、それを1秒以上、自己ベストからは2秒ぐらい更新して世界記録を出したんですけれども、この世界記録の内容がまたすごくて。去年の(世界水泳の)記録もすごく速かったんです(4分4秒28)。そこであと(世界記録まで)残り0.4秒ぐらいまでになって、「もしかして、世界記録、来年は切れちゃう?」みたいなところで、そして実際、今年、4分2秒50で勝ったんですが、2秒近く速くなっているわけですよね。
この2秒がどこで速くなったのかというと、事前に僕は取材をさせてもらっていたんですが、取材で、アンダーウォーターキック…つまり、水中キック。ターンした後に潜って15mまで泳いで、そこから泳いで、またターンして潜って、15m…。この15mのところを頑張って練習していますと本人も言っていて、それを取材で取り上げていたんです。
で、実際、自分の自己ベストから2秒速くなった。世界記録からは1秒くらい速くなったんですけれど、去年の記録と今年の記録を比較してどこが速くなったんだということになったら、そのターン部分の15mのところでしか速くなっていなかったんです。泳ぎの部分では0.02秒しか変わっていない。
逆に言えば、2秒を、ターンの部分だけで縮めたんです。

──それは、ターンの上手さか、それともキックして水中での泳ぎが速くなったのか、どちらなんですか?

両方速くなったと思いますが、どちらかというと後者ですね。

──これは(潜水が)15mを超えると違反になるんですよね。

失格になっちゃいます。なので、ギリギリまで攻めて潜る。
マイケル・フェルプスとレオン・マルシャンは、同じコーチが教えているんですよ。ボブ・ボウマンというコーチなんですが、ボブ・ボウマンさんは、(大会前に)レオン・マルシャンについて「まだ全然仕上げてない」と言っているんです。
で、大会後に、世界記録が出ました、実際に詳しく比べてみました、ターンでしか速くなっていません、ボブ・ボウマンは「まだ仕上げてません」と言っていました…つまり、まだ泳ぎには1ミリも手を付けてないんだ、と。パリ・オリンピックまで残り1年ありますから、そこで(泳ぎの方でさらにタイムを)縮めるんだなと思ったら、鳥肌が止まらなくなってしまって。

──まだまだ荒削りというか、速くなる余地、伸びしろがある?

まだまだありますね。本当に、まだまだある。だから、“どこまで行っちゃうんだ?”と思いますね。

──400m個人メドレーは全力で泳ぎきるんですか? ある程度の配分をするんですか?

もちろん、ある程度の配分はするものだと思います。
ただ、最初にバタフライが来るので、バタフライが得意な選手は、ある程度そこで(攻めて)行かないと、そこでリードが奪えないと後々に響いてきてしまうので、ある程度覚悟を決めていく選手もいますね。

──それぞれ得意な泳ぎがありますから、個人メドレーはやはり面白いですね。

面白いですけど、選手はめちゃくちゃしんどいです(笑)。
このレオン・マルシャン選手も、350m(時点で)ターンして、15m潜るんです。普通、そんなに潜れないんですよ。身体がキツ過ぎて。
最後のターンの前に呼吸して回って、そこから15mなんですが、まず、回るのに大体0.7秒かかると言われているんですけど、0.7秒かかって潜って、そこ(15m)まで7~8秒かかるんです。要は、ハアハアしている段階から、7秒我慢しなきゃならない。その間、息をするのを我慢しているだけじゃなく、身体を全力で動かしていますから。で、浮き上がってきて、グワーッと息を吸う。

──それが出来る体力というか、バケモノというか?(笑)

バケモノなんです(笑)。ただ、取材で聞いたら、(マルシャン選手も)「ありえないくらいしんどい」と言っていました(笑)。“あ、レオンも一緒だったんだな”と思って。

──クロールって、泳ぎ方としては一番速いじゃないですか。それよりも水中で進む方が速いということなんですね。

選手によりますね。レオン・マルシャン選手は水中のスピードに長けているのでそれ(潜水)を選択しますけど、選手によっては、泳いだ方が速い選手は泳ぎます。
それぐらい、レオン・マルシャン選手は水中が得意ということです。



──日本勢は銅メダルが2個と、結果としてはちょっと寂しい?

そうですね。寂しかったですね。
今回、日本記録はゼロだったんですよね。日本記録が出なくても、自己ベストが出たのが今回は4人だけ。全体で見ても10%ぐらいの選手しか自己ベストを出すことが出来なかったというのは、我々ももう1回考え直さなくちゃいけないところなんじゃないかなと思いましたね。

──日本チームとしての世代交代があまりうまくいっていないということもあるんでしょうか?

あるでしょうね。うまくいってないという部分が大きくあると思います。
そして、今まではどちらかというと、(日本チームには)たとえば北島康介さんとか、強烈な“個”がいたんですよね。「この人に任せていたら絶対に安心だ」みたいな人がいたんですが、今大会というか、最近の日本は、そういう選手があまりいないじゃないですか。
北島さんは、どちらかというと、何も言わずに背中で引っ張っていく。ミーティングではあまり話さないけれど、レースに出てしっかりと金メダル獲って帰ってくる。それで、「康介さんがやったんだったら、俺たちも続こう!」と後輩たちが頑張る、みたいな。
逆に、松田丈志さんとかは、ミーティングもしっかりやって、話でしっかりとまとめていって、チームを作っていって、みんなで1つのチーム、チーム一丸となって戦っていく、というところがあって。
そういう風に、ある意味、強烈な“個”みたいなものが今回はなかったんじゃないのかなと、周りから見ていて思いました。

──でも、強烈な“個”は、作り出せるものではないですよね?

そうなんですよ。逆に言えば、今大会、中国勢がものすごく活躍した。大活躍だった。男子の平泳ぎ(50m、100m、200m)で金メダルを3つ獲って、なおかつ、200mで世界記録を出した覃海洋(タン・カイヨウ)選手。彼みたいなスーパースターが、今までは中国にはあまりいなかったんですね。
我々は、中国を今まであまり意識していなかった。日本チームが良い結果だったから。けれど、日本が苦しい結果になったら、「中国チームすげぇ!」となる。
逆に言えば、僕たちが活躍していた時って、中国のチームは我々のことをそうやって見ていたんだろうなと思うんですよね。“なぜあんなに良いチームなんだろう、なぜあんなに良い結果を出しているんだろう”って、多分、思われていたんですよね。
時代は移り変わるもので、巡り巡るものなので、日本は今、ある意味、“過渡期”みたいに、苦しい時期なのかなと思うんです。
他の国もそういう時期を経験して強いチームになっていっているので、そうやって、今経験したことをしっかりと次につなげていけば、中国であったり、今大会絶好調だったオーストラリアみたいなチームになれるんじゃないかなと思っています。

──生まれ変わるチャンスに出来るかどうか、ということでしょうか。

その通りですね。ぜひ、生まれ変わるチャンスにしてほしいですね。

──来年、オリンピックが来てしまうんですが、パリ・オリンピックに向けての展望、まず日本の水泳界がしなければならないことというと?

まずは、チーム一丸の目標みたいなものを決めるべきなのかなと思います。
(現在は)選手とコーチとチーム全体の意見と、バラバラになってしまっていたんじゃないかなと思うんですよね。それをまず、城で言う、石垣みたいな土台をしっかり作る。その土台は何かというと、みんなの共通目標、共通認識だと思うんです。
それを上辺だけで言うのではなく、心の底からみんなそれに向かって頑張っていけるように、土台、目標を決めてほしいなと思いますね。
それがないと、何も始まらないと思うので。

──その土台は選手それぞれが作れるわけではないので、そこはある程度組織として作ってあげないといけないということですね。

そうだと思います。
僕は部外者なので外からワーワー言うだけなんですが、何か自分が力になれるところがあれば力になりたいと思っています。

──この番組では、ゲストの方にCheer Up Songを伺っています。萩野公介さんの、心の支えになっている曲を教えてください。

デヴィッド・ゲッタで、「This One's For You (Feat.Zara Larsson)」です。
この番組に出演するにあたり、もちろん僕が好きな曲でもありますが、今の日本代表に頑張ってほしいなという気持ちも込めて、この曲を選びました。

──最後に、この番組を聴いてくれている未来ある子ども達に、どんなことを大切にスポーツをやってほしいか、メッセージをお願いします。

今回、日本チームが苦しい結果になったりと色々あるかとは思うんですが、スポーツって、色々な時期があると思うんですよね。たとえば、子供たちなら、受験勉強だったり、「お兄ちゃんはやっていたけれど、自分はどうしようかな」とか、色々な場面があると思うんです。
ただ、スポーツって、どんな時でも、いつ始めようと思っても始められるし、いつ辞めようと思っても辞められるものだと思うんです。
だけど、そういったところから“何を学び取るか”ということが大事で。親御さんとかは、「頑張れ頑張れ」と言うんじゃなくて、そのスポーツを通じて何を学び取ってほしいのかということを考えながら、ぜひ子供たちに接してほしいなと思うんです。
子供たちも、目の前にある結果だけじゃなく、その先にある、スポーツから何を経験として獲得するのかということを大切にプレーしてほしいなと思います。

──やっぱり、勝ち負けとか記録だけを押し付けられると苦しくなってしまうかもしれない。なので、“その中から何を学べるか”となると、見方が変わったり、より楽しめるようになるかもしれませんね。

そうだと思います。1つの側面だけでスポーツを見るんじゃなくて、色々な見方で見る、といういうことがとても大事なことじゃないかなと思います。


今回お話を伺った萩野公介さんのサイン入り色紙を、抽選で1名の方にプレゼントします。 ご希望の方は、番組公式X(旧ツイッター)をフォローして指定の投稿をリポストしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。

そして今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。
放送できなかったトークが盛りだくさん! ぜひお聴きください!

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