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2023.08.05

レジェンドも注目!世界陸上で期待の日本人選手とは!?

今週の「SPORTS BEAT」は、先週に引き続き、陸上の短距離種目でオリンピックに3大会連続で出場、世界選手権では2回銅メダルを獲得している、為末大さんをゲストにお迎えし、お話を伺っていきました。
為末大(ためすえ だい)さんは、1978年、広島県出身。
陸上の400メートルハードルの、現在も残る日本記録保持者でもあり、オリンピックには2000年のシドニー大会から2008年の北京大会まで、3大会連続で出場。
世界選手権では、2001年のエドモントン大会で日本人初の短距離種目でのメダルとなる銅メダルを獲得され、2005年のヘルシンキ大会でも銅メダルを獲得。
2012年の日本選手権をもって競技生活から退き、現在は指導者、コメンテーター、そして会社経営者など多方面で活躍なさっています。



──8月19日からハンガリーのブダペストで陸上競技の世界選手権が開幕。先月出版された為末さんの著書『熟達論:人はいつまでも学び、成長できる』にも、為末さんが日本人として初めて短距離種目でメダルを獲得した2001年のエドモントン大会の時の心境が詳しく書かれています。為末さんは、28歳で迎えたヘルシンキ大会で2度目のメダルを獲得していますが、1回目と心境の変化など違いはありましたか?

1回目は絶好調で、2回目はそんなに最高の状態じゃないという気分で(大会に)入ったんです。だから2回目の方は、何というか…“狙って獲った”という感じですね。“チャンスをものにした”というか。
1回目は、“流れに乗った”という感じでしたね。1回目の時は、(大会に)入る時には世界ランキングがすでに3番ぐらいで、準決勝でも2~3番で通過して銅メダル、という流れだったんですが、2回目の時は、入る時には世界ランキングが7~8番で、本番もなんとか準決勝をクリアしたので7番か8番だったんですけれど、(決勝の)当日にすごい雨が降ったりして、環境が荒れて、若い選手も心境が揺れていたんです。
象徴的だったのは、みんなウォーミングアップをすぐ始めたんですが、雨でスタートの時間がズレたりしたんです。ウォーミングアップをやっている選手が、「スタート時間が延びる」と聞いてウォーミングアップをやめて、それから「やる」と言われてウォーミングアップして…ということを2~3回繰り返していたら、若い選手たちが疲れてきてしまって。それで、“あれ? 俺、いけるんじゃないか?”って急に思ってきて(笑)。ちょっとシチュエーションが荒れていたので、スルスルっと滑り込んで、3番だったという。

──1回メダルを獲っていた上に、年齢的な経験値もあって、落ち着いて状況を判断できたということもある?

はい。(経験値は)大きいと思いますね。実際に、(決勝では)初めて世界選手権の決勝に残るという選手が3~4人いたので、やっぱり経験があったことが大きかったですね。

──1回目、2回目のメダルの意味合いは大きく違うんですね。

そうですね。選手にとって、“再現性があるんだ”と思えているのは、すごく大きいんです。“もう1回出来る”ということは、なんとなくどうやれば良いのかわかっているということなので、2回出来るというのは、選手にとって大きいですね。もう1つは、“変われた”ということも大きいです。1回目と2回目は、違うやり方をして(メダルを)獲らないと。人間の身体も変わっていきますし。
具体的には、2回目は筋肉量が2~3キロは減った状態で獲っているんですが、そういう意味でも、“自分は変化してでもまた適用出来たんだ”ということがあるので、2回獲れると自信になりますね。

──著書に「勝敗は人生を分ける大事なことで、応援してくれる人もいるし、失敗したくない。そういう価値観からも解き放たれた世界が“空”(※前回のインタビュー参照)である」とありますが、世界選手権は2年に1度の大きな大会ですから、一番、そういう状態になり辛いですよね。 (「空」に)なれている人たちが決勝に残っている、ということなんですか?

もちろん、そもそもの実力差があるので、仮にゾーンに入っても、奇跡が起きるとか、いろんなものがひっくり返せるほどにはいかないと思うんです。
だから、ゾーンに入った選手は、普通に(自分より速く)走る選手に、迫ることはできるけれど、(結果は)負けちゃう、ということも十分にあると思うんです。
ただ大きいのは、とにかく大会前の順位は本番ではひっくり返ることがある、ということなんですよね。要するに、“速く走る”ということと、“その時に力が出る”ということはズレていて、その時に力を出すのに必要なのは、明確に“心”だと思いますね。どうやって自分の“心”を扱うかが、その時の力の出方になります。
我々は「発揮率」という言葉を使うんですが、本番までのタイムに対して、本番のタイムがどのくらい(力を)発揮できているか。
例えば、10秒00が本番までのタイムだったとしたら、必ず(本番では)10秒00以上(10秒00より遅いタイム)が出る選手がいて、つまり、本番で力が出ないタイプの選手。
でも、逆もいるんですね。本番では必ず9秒台が出る選手もいて、どうやって本番で力が出るようにするかは、もう“心”と向き合うしかないんです。それで、一番力が出る状態が“「空」ゾーン”状態だと言われています。

──最近では、男子の4×100mリレーをはじめ、競歩や投擲などで世界のトップを伺う日本人アスリートが活躍していますが、為末さんのやってきた「ハードル」も熱いんですよね。

ハードルがね、大変なことになっているんですよ!(笑)1人は、順天堂大学卒の泉谷駿介選手。
僕らは、オリンピックや世界陸上以外にいろんな試合が各地で行われていて、賞金レースにも出るんです。その賞金レースにランクがあるんですけど、その世界最高峰が「ダイヤモンドリーグ」なんですが、泉谷選手、優勝しちゃってるんです! しかも、初めての出場で。
感じとしては、今、金メダルから銀メダルぐらいの位置なんです。110mハードルって、泉谷君の世代の前は、まだ決勝にも日本人は残ったことがないので、すごいんですよ。そんなことになったら大変なことですね。

──泉谷駿介選手、どこがすごいんですか?

足が速くて、100mをやっていても、多分、結構なレベルまでいきそうなぐらい。幅跳びも、三段跳びも跳べるんです。だから、身長はそんなに高くないんですけれど、“すごいジャンプが跳べて足が速い人”がハードルを跳んでいる。これまでは、ハードルを跳んでいるジャンプの瞬間のバネが日本人の選手は弱くて、そこで(世界に)置いていかれていたんです。ハードルって、やっぱりジャンプなので。でも、(泉谷選手は)置いていかれないどころか、ちょっと詰めちゃう、みたいな感じなんですよ。それがすごいですね。幅跳びのすごい選手と100mが速い選手を掛け合わせてハードルをやらせるとこうなるんだという、そんなイメージですね。
400mハードルより110mハードルの方が、正直ちょっと難しいんです。競技人口も多いですし、400mハードルの方が特殊性があって、110mはいろんなところから選手が(転向して)やってくる種目なので、なおのことすごいんですよ。


──これは、世界陸上でメダルが獲得できるのか、さらには来年のパリオリンピックもどうなるのか、大注目の選手ですね。

大注目ですね。もしメダルを獲って上位みたいなことになると、ビックリするのは日本人だけじゃないですよ。アジアの選手は、かつて中国の劉翔選手が(オリンピックで)金メダルを獲って、その時の驚きも半端じゃなかったですけど、その時の驚きに近い感じで受け取められると思います。

──他に、注目選手はいらっしゃいますか?

あとは、同じ110mハードルの高山峻野選手。
それから、3000m障害の三浦龍司選手。箱根駅伝にも出て、東京オリンピックでも素晴らしい走りを見せてくれましたが、さらにそこから実力を伸ばしていって、今回、世界陸上に出るんです。この種目も、メダルを獲ったらすごいんですよ。でも、もしかしたら獲れちゃうかも、みたいなポジションに来ているので。もう長らく、1500m以上の距離(競技)はケニアとエチオピアに独占されて、日本人の選手は周回遅れになってしまう、みたいな世界だったんです。それが勝負出来ているので、楽しみな選手ですね。

──こんなにトップで活躍する選手が増えてきたというのは、どういうところに要因が?

泉谷選手のコーチをやっていらっしゃる山崎(一彦)さんという方がいて、私の前に日本記録を持っていらっしゃったハードルの選手なんですが、実は、その人たちが最初にヨーロッパに挑んでいたんです。
だから、野球で言う野茂さんとか、サッカーでいう中田さんの世代が、コーチになって育てた世代なんです。世界を経験した人たちが帰ってきて、“これを若い時にやっておけば良かった”ということを(指導を受けて)やっていくと、ちゃんとここまで来る。そういうところが大きいかなと思いますね。

──著書の中で、「1マイルレースを4分切るのは不可能だと言われていた時代に、1人が4分を切ったら、その後3年間で15人が4分を切った」という話が紹介されていましたが、為末さんご自身が、世界陸上で「日本人でもメダルが獲れるんだ」という世界を開いたと思うんですが…。

僕の貢献がどれくらいあるか…(笑)。100mは、(日本では)桐生(祥秀)選手が9秒台を出してからわずか2~3年で4人出ているので、あれは明らかにメンタルブロックですね。やっぱり、「世界でメダルを獲って当たり前」とか、「勝って当たり前」という世代なんでしょうね。我々の時は力んで世界に挑んでいった感じですけど、何かサラッといってしまう感じが、今の世代の選手たちのすごさだなと思います。

──今、ダルビッシュ選手が、さかんにSNSでトレーニング方法などを発信してますが、いろんな“型”を見てしまうのは逆に弊害になりかねないのかなと思うのですが…。どちらに転ぶんでしょう。

それは素晴らしいポイントで、我々の頃の悩みは“情報がない”なんですが、今の選手たちの悩みは“どの情報が正しいのかわからない”なんです。
我々が小さい時、「走る時に、積極的に地面を蹴るように足首を使え」と言われたんですね。でも、それが良くないということが 後ほどわかったんです。「足首は固定するのが良い」ということが科学的に証明されたんですね。だから、ケニアの選手などは、足首はほとんど動いていないんですよ。100度ぐらいの角度ですかね。でも、我々は動かしちゃっていたので、クセがついてしまっているんです。そういう“型”がついてしまったので、それを取り除くのが相当大変だった。ある意味、小さい時についたクセを、なんとか10年20年かけて取り除く、みたいな競技人生でした。
けれど、今の世代の選手たちの良いところは、最初から良い型を身につけている。もっと違うところに技術を向けているので、それも大きい気がします。だから、ダルビッシュ選手たちが発信しているように、「この型が良いんだ」という“良い型”が次の少年スポーツの人たちに伝わると、みんな活躍していくんじゃないかなと思いますね。
ただ、難しいのは、“どれが良い型か”なので、そこを、スポーツ科学、スポーツ界が情報を整理して、「これが良い型ですよ」ということを示していく必要があると思います。



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そして今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。
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