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2022.12.31

アーバンスポーツ複合施設「ikuto」を通して描く未来

今週の「SPORTS BEAT」は、フリースタイルスキー男子モーグルでオリンピックに3大会連続で出場した、遠藤尚さんにお話を伺っていきました。

遠藤尚さんは、福島県出身。
2010年のオリンピック・バンクーバー大会から2018年のソチ大会まで、3大会連続でフリースタイルスキー男子モーグルの日本代表選手として出場。
引退後の現在は、日本代表のコーチや、スポーツ施設の運営などに携わっています。

今回は、高見さんによるインタビューをお届けしていきました。


──遠藤さんは日本代表コーチの他にも、スポーツの力で持続可能な健康な社会を目指す「ikuto(いくと)」という施設を今年の9月に宮城県で設立されましたよね。こちらはどういった施設になるんでしょうか。

これは、海外によくある“アフタースクール”が出来る、いわゆる複合施設ですね。ヨーロッパとか海外へ行くと、1つの施設にいろんな人がいるんですよ。日本だと、例えばスキーの練習場へ行ったら、スキーの選手しかいない。トランポリンのところへ行ったらトランポリンの選手しかいない。
海外は、パルクールのトレーサーもいれば陸上選手もいる、そしてスキー選手もいるという感じで、いろんな人がいて、トップ選手もこれから始める人もみんな一緒にいて、同じ環境下でいろんなことをする。そういう複合的な施設が多かったんですよ。
日本でいう「部活動」というのは海外にはあまりなくて、アフタースクールで大きい施設にみんなが会費を払って行って、その日に好きなものを好きなだけ遊ぶとか、練習する。そうすると競技数が勝手にどんどん増えていく…という環境で育っているのが、僕には衝撃的でしたね。
海外にベースを置いた時に、「スキー選手だからこれはしない」みたいなことを最初にコーチに言ったら、「何故? だからダメなんじゃない」と。スキーが終わったら“スキー以外”の練習しかさせてもらえない時期が多かった。その時に、“(いろんなスポーツを)総合的にやるのは伸びる”と。僕が海外のスポーツシーンで印象に残ったのはそこですね。

──遠藤さんが海外で実際にご覧になった施設でのその経験があって、今回、アーバンスポーツ複合施設「ikuto」を設立されたと。

そうです。今、学校で、「(自転車は)危ないから立ち漕ぎ禁止」とかいう時代なんですよ。あと、「飛び降りちゃダメ」とか。プールも「飛び込んじゃダメ」とか。
でも、飛び込んだらどうなるのかもわからなければ、その危険性もわからない状態でストップするということは、逆に今、“何を恐れてやらないのかわからない”という子がどんどん増えてきている。
うちの施設に来てくださるお客さんの中にも、「立ち漕ぎはしたことがないけど自転車に乗れる」という人がいて、“どうやって(自転車スポーツを)始めたんだろう”とかちょっと思うところがあるんですけど(笑)、こういう施設があってトップアスリートやプロが教えることによって、危険性も含めていろんなことが出来る。この施設だったら6種目が出来るので、総合的にやることが、子供たちにとっては、経験を増やす、いろんな感性を高めるという意味でも(良いこと)。“(日本では)勉強は5教科とかやっていくのに、スポーツは1つしかしない”というところに、僕は違和感があって。
だから、この施設を始めるにあたって、“学校”なのだし、授業みたいにいろんなものが出来るといいなと思いました。

──今回、このインタビューは「ikuto」で収録をさせていただいていますが、こちらにはマウンテンバイク、パルクール、トランポリン、スケートボード、ボルダリング、スラックラインなどがあります。こちらをラインナップした理由というのは?

僕らがなぜこの種目を選んだかというと、まず、身体1つでスタート出来る「パルクール」。例えばですけど、「お水を飲むのに失敗したことありますか」という質問自体に違和感を覚えると思うんです。多分、ないんですよ。的確に距離さえわかって慣れていれば、失敗がほぼ起きない。これが“自由に動かす”ということなんです。「体にしみこませる」とよく言いますが、経験上、反復練習をするということはそういうことなんです。そういうことを経験させたい。それを、道具を使わずに、身体1つで状況に対してアプローチする。そうやって安全に体を自由に動かしましょう、というのが、パルクール。
次に、下から外力が来る「トランポリン」。地上では経験出来ない空中での滞空時間に、空中感覚で自由に動かせる身体を培った上で、今度は空中で(身体の動きを)コントロールしましょう、ということ。
その次に来るのが、「スケートボード」や「自転車」。今度は“プラス道具”になるんです。自由に動ける身体プラス道具を自由に使うという行為に入ってくる。
「スラックライン」や「ボルダリング」もそうで、ボルダリングは、自分の手の長さ、リーチや疲れ具合でコースを選択するとか、そういう“考える力をつける”という意味があります。
考えて自由に動いて、しかも怪我をせずに、というのが大事で、このアーバンスポーツが今流行りだした理由の中にそれがあると思います。僕が現役中に出会ったものの中に、これらはほとんど入ってくるんです。

──そうなんですね。実際に、現役のアスリートの方もいらっしゃったりするんですか?

あります。今、代表合宿をしてもらったりしていますし、クラブチームだったり、野球のシニアリーグチームだったり、ボーイズに来てもらったりしていますので、アスリートの誘致はこれから強めたいです。

──ほぼ毎日、イベントが行われてますよね。

「アカデミー」というものがあって、プロが教える、いわゆる“教室”になるんですが、これには2つの意味があって、1つは最新の技術をプロが教えてくれるというもの。もう1つは、競技をしていた人のセカンドキャリアを作るために始めたんです。
今、トランポリンを担当している子は、元々モーグルの選手です。引退してコーチを経て、今、同じく代表のコーチをしているんですが、彼はスキーから一切離れて仕事をするのではなく、スキーに関わりながら、自分が培ってきたものが仕事になる。
どうしてもアスリートは辞めた後、急に違う仕事をした時に、「そんなことも出来ないの?」と言われることが多いんです。僕もそうでした。最初は「Excelって?」ってなりましたし(笑)。でも、そういうところで戦えないんですよ。今まで10年も20年もギリギリになるまで追い込んでやってきて、オリンピックも辛い思いをしてやってきたのに、それが活きないのは良くないなと。
セカンドキャリアとして、人に教えたりスポーツの素晴らしさを伝えることって、多分、アスリートは誰よりも出来ると思うんです。だから、それを仕事に出来たらいいなと思って、アカデミーを作りました。

──人が色々な意味で育っていく場所ですね。遠藤さんは「ikuto」でどんな未来を想像していらっしゃいますでしょうか。

ここからまた新たなアスリートだったり、優秀な教育者、指導者が生まれてくれること。あとはここをスポーツの何かのハブ、拠点にしたいと思っています。ここに来てぶつかれば、違う角度でまた飛び出して行ける。その結果、“この川崎町からオリンピック選手が出る”なんてことがあれば、それってすごくいいことだなと。それが、更にいえば、モーグルじゃない種目だったらまた面白いなと思います。全然関係ないところに派生するというのは、そこが育っている証拠になると思うので。
でも、「オリンピックに出ろ」とは言わないです。オリンピック選手を出したいとも思っていないです。ただ、結果的に出るのであれば、それはすごく素敵なことだし、そうなる未来があればいいなとは思っています。

──最後に、番組ではゲストの方にcheer up songを伺っています。遠藤さんの心の支えになっている曲を教えてください。

ONE OK ROCKの「欲望に満ちた青年団」が好きで、ずっと根底にあって、支えになった曲です。
それこそオリンピックに出始めた頃とかに聴いていて、この曲が入っているアルバムが「ゼイタクビョウ」という名前なんですが、そういう、ボーカルのTakaのギラギラしているところもすごく好きだったし、彼自身が苦しんだ葛藤みたいなものが(歌詞から感じられた)。
どうしたっていいから這い上がりたかったし、“大人になりたくなかった”というか、どこかで欲望を絶対に絶やしたくなかったし、“勝ちたい”という気持ちが、よくこの曲を聴いていて(沸いてきた)。
今でもそうです。こうやって新しいことを始めて、いろんな人に「それって綺麗事じゃない?」「収支合わないでしょ」「苦しいでしょ」とか言われたりしますが、でも、どうせやるならちゃんとやりたいし、“今に見とけ”みたいな気持ちはあるので、こういう曲は好きですね。


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