奥原希望選手は、1995年、長野県のご出身。
小学2年生のころ、家族の影響でバドミントンを始め、中学2年生で全日本ジュニア選手権新人の部で優勝。高校時代には、全日本総合選手権女子シングルスで、16歳8カ月の最年少優勝。
その後も、2012年の世界ジュニア選手権では日本人としては初の優勝、2015年のスーパーシリーズファイナルを日本人として初めて優勝、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックでは女子シングルスで日本勢初となる3位銅メダルを獲得するなど、日本バドミントン界の歴史を次々と塗り替えていらっしゃいます。
──奥原希望選手といえば、リオリンピックで銅メダル、そして、次の東京オリンピックでは準々決勝で惜しくも敗れてしまいました。東京で金メダルを手にするための取り組みを「バドミントン人生で最大の方程式」とおっしゃっていて、そして、「方程式を解けずに悔しい」と。なかなか独特な表現だと思いますが、これはどういう意味を込めているんですか?
私は数学が大好きで。特に、連立方程式とか、“いろんな解き方があっても最後は1つの答えにたどり着く”という方程式のシステムが大好きなんです。だから、自分で考えてそう表現しました。
──一緒です。僕も数学が得意なんですが、数学ってすごくフェアだなと思っていて。例えば、テストとかでその公式を知らなくても、自力で解ける可能性がある。暗記物は覚えていないと絶対に解けない。でも、数学の公式は“手段”というか近道だったりするけれども、遠回りして自分で解を導き出すことができるというところがすごくフェアだなと思っています。
私も、そうやっていろんな途中経過があっても最後に(1つの答えに)たどり着ける、いろんな解き方がある、というところが大好きで。だから、大人になった今も、暇があったらたまに、インスタライブをしながら中学校の数学のドリルを解くということをやっていました(笑)。
私も数学が大好きで、私の考え方や導き方で、中学生とかに伝えられたらいいかなと。
──理系になったきっかけはあるんですか?
もともと理系の家系で、父が物理の先生であったり、(家族や親戚の中から)何人も医師になりましたし、姉も化学の先生をしているので、本当にみんな理系ですね。
──バドミントンを始めた頃は、“理屈よりも根性”みたいなことはなかったんですか?
バドミントンを始めた時は、 “勝ちたい”とか“強くなりたい”という思いは全くなかったので、本当にシンプルにバドミントンが楽しくて、どんどんハマっていきました。
──東京オリンピックで金メダルを獲るための方程式というのは、例えばどのようなことをされていたんですか?
自分のプレースタイルをまず確立するところであったり、自分の強み、あとは弱点をどう補っていくか、自分の良さと相手の良さ、短所をどう組み合わせて勝ちに繋げていくかというところを模索していきながら、やはりスポーツというのは“勝負”なので絶対はないけれど、その中でも勝率を上げることはできると思っていたので、そのためにどうしていくかということをずっと考えていました。
──自分だけじゃなく相手ももちろん努力もしますし、その時の流れや運みたいなものもあるので、なかなか複雑な方程式になりそうですね。
そうなんです。タイミングとかいろいろあるので難しいとは思っていたんですが、それでもやはり“金メダルを獲る方程式を解きたい”と強く思っていました。
──台本に、「最近気になっている方程式はありますか」と書いてありますけれども(笑)。
それこそ、今は逆で、「答えは1つじゃない」というところを模索し始めていて、“余白って大事なんだな”ということに気づき始めました。
──新たな解釈というか、別の道を模索しつつある?
そうですね。みんなそれぞれ良さがあって、考えていることもいろいろある。今までは「こうだよね」と綺麗に白黒はっきりしているところにすっきりしていたんですけど、でも、曖昧なものもこの世の中にはたくさんあって、でも曖昧なものがないと生きづらいよね、というところに行き着いて。
なので、“ちょっと曖昧にしつつそのままにしておく”ということも大切なのかなと考え始めました。
──そして、先ほど物理の先生とおっしゃっていたお父様がバドミントンの指導もしてくれていたと。(バドミントンを始めた)きっかけがお父様だそうですね。
そうですね。父は元々スキーヤーで、私は長野県出身なんですが、小さい頃は、(父親の影響で)バドミントンもやっていましたし、週末は毎回山に行ってスキーをするという生活をしていました。
父は、夏はスキーの活動があまりないということで、バドミントン部の顧問もしていたので。
──お父様もバドミントンをやっていらっしゃったということですか?
いえ、経験はしていないです。
──未経験でも、誰かが顧問をやらなきゃいけないですからね。
そうですね。それで父はバドミントン部の顧問をしていたんですが、たまに子守として体育館に連れて行ってもらっていたので、スキーとバドミントンはすごく身近なスポーツでした。そこからバドミントンが好きになって、父は(バドミントンは)独学ですけど、父に教えてもらいながら、小学生時代は兄弟3人と父の4人で練習をしていました。
──本当に人生は何がきっかけになるかわからない。バドミントンをやっていなかったお父様がたまたまバドミントン部の顧問になったからバドミントン好きになって、そして日本代表となって、オリンピックでメダルを獲るという。不思議ですよね。
はい(笑)。
──お父様の指導というのは、今振り返ってみてどうでしたか?
理に適っていた部分もありますし、経験していないからこそ“それが理想だけどそれは無理だよ”という無謀な練習もありながら(笑)、でも、“ど根性”で食らいついていきました。
──厳しい指導だったんですか?
父の教えは私の中では本当に厳しくて、「迷ったら厳しい道を選べ」ということを常に言われていました。
──今、私たちはのけぞりましたね(笑)。
(笑)。でも、「厳しい」という言葉の解釈はいろいろあると思っていて。その時の若い私はそこを深掘りできなくて、とにかく、苦しい道を選ぶ…「厳しい=苦しい」みたいに思っていたんですけど、でも今はそうじゃないなと。自分が成長できる、いろいろ挑戦できる、そういった道を選ぶという言葉なのかなという解釈に至りましたけれども、その時は苦しい道ばかりでしたね。
──極論で言えば「自分に向き合え」ということですよね。でも、「やる気を見せろ」みたいなことを言われた時に、40分間縄跳びをしてみせたという。
というエピソードはありますね(笑)。
──二重跳びをずっと40分間飛び続けたんですか?
はい。元々すごい負けず嫌いなので、父にも負けたくないという気持ちがあって、ずっと家の中で跳んでいました。
──やっぱり、負けず嫌いがその後大きく成長させてくれた部分というのはありますよね。
そうですね。やっぱり「負けたくない」という想いってすごく大きなエネルギーだと思っていて、そこはずっと自分の背中を押してくれる1つのエネルギーだなと思います。
──この番組は毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。奥原希望選手の心の支えになってる曲を教えてください。
ないんです(笑)。
──この番組はもう10年、もうすぐ11年経つんですけれど、「ない」という方は初めてです(笑)。「ない」というのは、どういう意味ですか?
最近、とにかく耳を休ませる時間をできるだけ確保しているんです。競技で使う五感を研ぎ澄ませるために、プライベートでは、できるだけその五感(を休ませている)。
人間、生活していれば、常に五感で何かしらを感じていると思うんですけれども…。
──どうしてもいろんな刺激が入ってきますよね。
そうですよね。それをゼロにするのは難しいんですけれども、なるべく自分から聴くのではなく、音を遮断する。そうすると五感が少し研ぎ澄まされてくれるかな、という安易な考えではあるんですけど。
──それは、普段生活している時に音を遮断するということですか?
できるだけ。生活していると外の騒音であったり必ず音は入ってくるんですけれども、できるだけ、テレビなどのエンタメの刺激を受けないように。
──聴覚以外に何か遮断していることはありますか?
寝る前のスマートフォンであったり、電車の中でもできるだけ携帯を使わずに生活するということを最近心がけるようにしています。
──とはいえ、Cheer up songを、何とか1つ絞り出していただけませんか(笑)?
はい(笑)。終わってしまったんですけれども、「timeleszプロジェクト」にすごくはまっていまして。timeleszさんの「RUN」という曲に本当に心を打たれて、今はその「RUN」を、聴くタイミングがあれば聴いています。
(「timeleszプロジェクト」は)金曜日の夜10時に配信だったんですが、本当は夜の五感を研ぎ澄ませなきゃいけない時間なんです。でもどうしても見たくて、もう後半は(配信を見ながら)涙涙の日々でした。
努力してる姿って本当にかっこいいなと思っていて。頑張っている過程でもがくということは本当に苦しいと思うんですけれど、その中でもたくさんの気づきがあって、もがいてもがいてその先に、気づいたら、自分が一気に成長したり、何かを掴んでいる。それが“殻を破る瞬間”だと思うんです。それがアーティストさんだと目に見えてパフォーマンスが変わっていくというところにすごく感動します。
来週も奥原希望選手にお話を伺っていきます。お楽しみに!
今回お話を伺った奥原希望選手のサイン色紙を、抽選で1名の方にプレゼントします。ご希望の方は、番組公式X(旧ツイッター)をフォローして指定の投稿をリポストしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。そして今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。放送できなかったトークが盛りだくさん! ぜひお聴きください!