中西哲生さんは、1969年生まれ。
大学卒業後の1992年にJ-Leagueの名古屋グランパスエイトに入団。
アーセン・ベンゲル監督のもと天皇杯優勝し、1997年に当時JFLだった川崎フロンターレへ移籍。
1999年には主将としてJ2初優勝、J1昇格に貢献。
2000年末をもって現役を引退されました。
引退後は、スポーツジャーナリストとして、様々なメディアでのご活躍はご存知の通り。
現在は、久保建英選手、また、レアル・マドリードの下部組織に所属している「ピピ」こと中井卓大選手などを、パーソナルコーチとして見ていらっしゃいます。
──どの国が決勝トーナメントに進出するか混戦を極めましたけれども、昨日(日本時間12月2日)の結果によって、日本のいるグループEは、1位は2勝1敗の日本、2位は1勝1敗1分のスペイン、そして、スペインと同じく1勝1敗1分のドイツは得失点差で3位。4位は1勝2敗のコスタリカとなりました。
ドイツはかなり用意周到にやってきていたんですよ。フリック監督は、準備がしっかり出来る監督。かなり現代的なチームの組織作りやコミュニケーションをしてきた、準備もいいと言われていた監督が、まさか、グループリーグで敗退!? 僕らも想像していなかったし、(日本が)こんなにうまくいくなんて想像しづらいじゃないですか。
──初戦の入り方って、強豪チームでも難しいものなんですか?
難しいと思います。でも、(ドイツは日本に)先制して1-0で折り返してるわけですから。ドイツとスペインに同一大会で先制されて逆転したチームって、今だかつてないんですよね。
──だってそもそも、日本代表が逆転勝ちってなかったわけですもんね。
はい。ドイツも、逆転負けってほとんどなかった。しかも前半に先制して逆転負けって、何十年もさかのぼらないと、ワールドカップではなかったんですよ。だからもう、我々がこの1週間で目にしたのは、何十年に1回のものを偶然見ている、感じている、今、途中にいる。
──いや、良い時代に生きていて良かった。
本当にそう思います。
──日本代表の選手のみなさんの相当な覚悟が、インタビューからもひしひしと伝わってきますもんね。
これは本当に日本人の良いところだと思うんですけど、チームとして、どう機能させるか。自分が輝くというよりかは、どうやったらチームを輝かせることが出来るか。いろんな外国人の選手や監督がみんな「(日本人の)メンタリティーが素晴らしい」と言ってますからね。
──日本特有のメンタリティ。
自分が輝くというより、誰かを輝かせるために自分はどうあるべきか。
ベンゲル監督が、「ヨーロッパの人たちが失った美徳だ」とハッキリ言ってました。
──改めて振り返っていきたいと思いますが、まず、コスタリカ戦。選手を5人入れ替えて、話題になっていましたが。
僕は、ターンオーバーしたことについては、それもリスクを負っているわけですから…どっちに転んでもわからなかったですし。
ただ、日本が「やっぱり引き分けでいいんじゃないか?」という空気が漂った時にああいう失点になってしまったんですけど、何をやるべきか明確になっている時はけっこう覚悟が決まっているので。背水の陣になった瞬間の日本って、すごい力を発揮してますよね。
──そうですね。
コスタリカ戦はそこがなんとなく中途半端になった感覚は見えましたけど、前に行くしかない、やるしかないってなった時の日本代表はもう…。
だって、ドイツとスペインに先制されて、逆転しているんですよ。僕は93年にJリーガーになりましたけど、その頃から考えたらもう、とんでもないことで。Jリーグが始まって30年目なんですけど、30年かかってここまで来たということは、日本は、過去にあったことを反省して、受け止めて、一歩ずつ進化してきた証。それが今回だと思うんですね。でなきゃ、ドイツ・スペインに逆転勝ちできないです。
──コスタリカがどう戦ってくるかわからないと先週話しましたが、“5-4-1で、あんなに弾いてくる? 勝たなきゃいけないんじゃないの?”って。
完全に肩透かしですよね。前半は(コスタリカが)「勝つ気ないの?」ってくらいのテンションで。
──そうなると、その布陣に対する起用が、結果としてターンオーバーになったんじゃないか、ということですか?
守備に対応できる選手よりは、ボールを持った時に回せるか、どういうボールをデリバリーできるか、ということに関して言うと、ちょっと見誤ったところは(あるかもしれない)。でも、それは予測できないですよね。
──コスタリカは攻めていないから、ペナルティエリアのタッチが2タッチだけで勝ったのは、史上初だったそうです。枠内シュートがわずか1なのに、それを決められてしまったという。
それもワールドカップです。
──そこで勝ち点3のままで、次はスペイン戦で、どうなってしまうんだろうと。
もちろん僕もそうですけど、日本全国の方は、さすがにもう難しいんじゃないかという空気が漂いましたよね?
でも、そこで、選手たちは諦めていなかった。どうやってスペインに勝つかって考えてましたよね。
──スペイン戦が始まって、スタメンを発表した時に、“最初から3バックで行くんだ?”とびっくりしたんですけど。これはいわゆる5バックで、守備的にいこう、ということだったんですか?
5バックととらえるか3バックととらえるかは見方によって変わってくるんですけど、結局スペインの選手が3トップ気味で、インサイドハーフの選手が出てくるところを、センターバックの右と左の板倉(滉)と谷口(彰悟)が前に行ってつかみに行っていたんですけど、その時は、ハマっていたんですよね。
だから、システム的には噛み合っていたし、やっていることは悪くなかったんですけど…もう、いきなりでしたね。
──ただ、いきなりクリアボールを拾われてって苦しい感じもありましたよね?
押し込まれたんですよね。返ってきたクロスのボールが非常に高かったので、上から降ってくるようなボールだったんですよね。だから、バックステップを踏みながら、板倉選手が対応しなきゃならなかった。
──ノーマークになってましたよね?
ちょっとあれは、ディフェンスにとっては視界から消えるパターンで難しい処理の場面だったので。しかも、モラタ選手は高さもありますから、あれは相手が悪かったかなという感じですよね。
──ある程度守備的にいきたいところに、あの時間帯に先制されて、ちょっとスペイン対コスタリカ戦が頭に過ぎってしまって。
7-0(スペイン対コスタリカ戦)ですね。でも僕は、日本が失点した瞬間のシーンをよく覚えているんですけど、あまり下を向いてないんですよ。失点して、「もうやられちゃった」というのはあると思うんですけど、「いや、まだ0-1だから! 1点はいい!」みたいな。これはもう、ドイツを戦ひっくり返したという自信ももちろん根底にあると思います。
それで、0-1のまま後半に入って。うまく耐えましたよ。スペインも1点取ってホッとしたところもあって、ガッと来なかった。しっかり押さえこんで、よく0-1のままで後半入りましたよね。
──後半で攻撃的に行くということで、堂安(律)選手と三笘(薫)選手を後半から入れましたけど、その采配がみごと的中しましたね。
ここも素晴らしい采配でしたね。
──堂安選手のシュートが見事過ぎて。あのスピード、あのパワーで。
まず、あの場面になった理由というのは、偶然じゃなくて必然だったんです。なぜ必然だったかというと、吉田(麻也)選手が語っていますけど、ハーフタイムに、「難しい状況だけど、もう頭から、プレスいくぞ!」って話したんですよね。
前半は、伊東(純也)選手と長友(佑都)選手、両サイドの選手が、最終ラインのところまで引いていたんです。後半からは、三笘選手が前に行ったんですよね。それに圧迫されて、(スペイン側が)ゴールキーパーにボールを下げたんです。そこに、前田(大然)選手がグッて行ったんですね。スペインも、「お! いきなり来た!」ってなった。
その時、前田選手がキーパーにちょっと接触してるんですよ。キーパーがその後にボールをつなぐんですけど、左キックをする時に前田選手と交錯して、ちょっと足が痛かった。で、その瞬間に出たボールが高いボールだったので、伊東選手がヘディング。
ヘディングした瞬間は、堂安選手は前向き。後ろから来たボールだったんです。それを、ファーストタッチで完璧な位置に置いたんですよ。で、キーパーは足が痛くて、良いポジションに立てていなかったと思う。堂安選手から見ると右側が空いていて、で、トラップ完璧、左のアウトの持ち出し完璧。
シュートは、キーパーは、堂安選手から見たら左側に打つというイメージの持ち出しをしたんですよ。だからちょっと誘って、で、右にズドーン!って行ったんですよね。キーパーも立ち方が良くなかったんでしょうね。だから、手に当たっても弾かれて持っていかれたという。いろんな要素が重なって決まったと思っています。
──堂安選手も素晴らしかったけど、チームとして奪い取った?
背水の陣で行っていたんですよね。で、後半3分で決まって、次は6分(三笘選手がゴールライン際から折り返したボールを田中碧選手が押し込みゴール)。
──あの、(ゴール)ラインを割っているかどうか、という。
もう、すごかったですね。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)。
──(判定時間が)長かったから、“(ゴールが)取り消されるんじゃない?”って諦めもあったんですけど。嬉しかった!
三笘選手、あのギリギリで、よく触って、折り返したじゃないですか。Twitterに出てましたけど、ラインに(ボールが)かかっているの、1.88ミリ。
──うわ~!
けっこうギリギリで、あの時、ボールが浮いて、前田選手を超えて、田中選手が決めたじゃないですか。“これ、まさか浮かしたのかな?”って。
──あの状況で!
で、三笘選手に聞いたんですよ。そうしたら、「浮かしてない」って。「そんな余裕はない。とにかく精一杯やったら、ああなっただけです」と。
──でも田中選手は、“絶対に返ってくる”って信じて飛び込んでるんですよね。
終わった後に、田中選手、三笘選手、板倉選手ともやりとりしていたんですけど、「これからです!」「ここからです!」と。要するに、まだ何も満足してないんですよ。まだまだ行きます、みたいな。
──頼もしいな。
そんなメッセージをもらった時に、こっちは武者震い。今の選手たちは、スペインでも、ドイツでも、臆してもいないし、勝つための方法を探している。
──普段、海外のリーグで戦っている選手たちということも大きいですよね。
そう! これは、本当にそうですね。
──次はクロアチア戦ですね。
板倉選手が出られないんですよね。
──(イエロー)カードが累積して。
そこをどうするかというところと、怪我人が戻っているところ。遠藤(航)選手はスペイン戦の途中から出ましたけど、どういうメンバーで組むか、悩みどころでしょうね。
──当然監督はチーム内のコンディションも見ながらなので、僕らには予想しても当てられないですよね(笑)。
まあ、システムを当てるとか点数を当てるということよりは、どういう風になるかなというのを楽しんでもらいたいなと思います。
──クロアチアというのは、どういう戦い方をするチームなんですか?
本当に熟練の選手が揃っている。前回準優勝。強いことは間違いない。
──ワールドカップではまだ勝ったことがない。
そんなことを言ったら、ドイツにもスペインにもですから。とんでもないことをやってのけてるメンバーなので。
僕は、モロッコよりクロアチアの方が良かったと思います。
──モロッコは勢いがありますからね。
日本が背水の陣で行けるタイプのチームだと思うので、クロアチアの方が、日本らしく戦えるかなと。そういう面が出やすいかなと。
──2018年にバロンドールをとったモドリッチ選手がいる。
モドリッチは、とんでもない選手です。
──37歳で、あれだけ献身的にプレイできるという。
素晴らしいですよね。
──ただ、ベテランも多い中、予選3試合でスタメン変更したのが1人のみということで、ターンオーバーを使っていない。これは日本にとっては若干有利な情報ではないんですか?
まあ、ポジティブにとらえてもいい情報ですけど、それよりも日本がどうするかということにフォーカスした方がいいと思いますね。
──ある程度、ドイツ、スペインと、相手に(ボールを)持たれっぱなしだったじゃないですか。スペイン戦は80%くらい持たれていましたけれども、クロアチア戦は、こういう風にはならない?
そこまでにはならないかもしれませんけど、ある程度は持たれることは予想されますね。
──じゃあ、ある程度は、しのぎながら?
ある程度は持たれてもいいんですけど、どこで行くのかというところを、ちゃんとフォーカスしておかないと。
前半0-1でもいいとは言ってるけど、0-0の方がいいに決まっている。だから、なるべく失点は少なく、そして、三笘選手や堂安選手が、勝負どころのブーストをどうかけられるか、という。
──やっぱり、グループリーグの時と同じような、前半は守りながら、後半にメンバー入れ替えて、攻撃的にシフトしていく?
それも考えられるでしょうし、しかも、(決勝トーナメントでは)延長戦もありますから、それも視野に入れなきゃいけないんですよね。早めに選手交代しても、90分ならハーフタイムがありますけど。
そこの見極めが難しいんです。でも、あまりに遅すぎて、後半に入って先に失点すると、そこから盛り返すのは難しいじゃないですか。ハーフタイムなら、言葉を交わして、「こうするぞ!」って全員、コンセンサスが取れたところで行けるんですけど、それを考えると、どこでブーストをかけるか、どこまで我慢できるかのせめぎ合いだと思います。
──じゃあ、前半は様子見?
それはもちろんあるでしょうね。でも、高いところに行くという方法もあるし、高くから行けるメンバーも揃ってますしね。あのプレスがうまくハマったから、スペインから2点取れたわけだし、ドイツから2点も取れたわけですから。
どこで行くか、どういうメンバーにするか、いつ誰を投入するか。このバランス!
──クロアチアに勝ったら、ブラジルか韓国と対戦ですよね。
そこの話、しちゃいますか!
──いや、今日の朝はびっくりした。韓国がポルトガルに0-1で先制されていて、まさかまさかの!
アディショナルタイムの、逆転ゴール! 何が起こるかわからないんですよね。
──だから、決勝トーナメントに残った16チームのうち、オーストラリアも含めて、アジアが3チーム残った。グループリーグは、久保(健英)選手は前半の出場だったじゃないですか。
ちょっと、守備でのタスクが多すぎて。特にスペイン戦は後半も出たかったというのがあったと思うんですけど。
──攻撃的に行っている時の久保選手を見てみたい。
そこはクロアチア戦であるかな?と思っています。クロアチア戦で攻撃的な久保選手が使われれば、また違う味が出せると思うし、相手もそこまで見ていない可能性があるので。もちろん、久保選手がすごい選手だということはわかっているんですけど、今回はまだそんなに…と考えると、彼がクロアチア戦で、ゴール決める。その可能性を持っているので。
──試合後のインタビューでも、「今、体調が絶好調だ」と。
良いと思いますよ。とにかく10月はタイトスケジュールで試合ばかりだったんですけど、今大会は2試合の前半しか出ていないので、コンディションは絶対に良いはずです。
──では最後に、中西哲生さんが決勝トーナメントで注目してほしい!という日本人選手を1人、教えてください。
三笘選手ですね。まだ三笘選手は本気の本気になってないというか、まだ“キュンキュン”な三笘を出していないので。
──キュンキュン!?
「キレキレ」ってサッカーの言葉なんですね。今、みんな使ってますけど、もともとサッカーの言葉なんですよ。
で、「キレキレ」の最上級は、「キュンキュン」なんです。
──本当ですか?(笑)
サッカー界の人間なので。「アイツ今日、キュンキュンだな」みたいな時は、“手がつけられない”みたいな。
──じゃあ、キュンキュンな三笘を…。
それが見られれば、クロアチア戦に勝てる! 「キュンキュン」の三笘選手と「キュンキュン」の久保選手を見たいじゃないですか!
──見たいですね! 僕たちに出来ることは、応援です!
もうそれです! みなさん、ほんとお願いします! みなさんの応援が、力になりますから!
中西さんには、来週もスタジオにお越しいただきます!
今回お話を伺った、スポーツジャーナリスト・中西哲生さんの最新刊「サッカー 世界標準のキックスキル~日本では誰も教えてこなかったシュートが決まるフォーム~」にサインを入れて、抽選で1名の方にプレゼントします。ご希望の方は、番組公式ツイッターをフォローして指定のツイートをリツイートしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。