ワールドカップ50勝、オリンピックで獲得した金メダルは3つ。
豪快な滑りや、勝負所で爆発的な力を発揮したことから「爆弾男」と呼ばれた男、アルベルト・トンバ。
スキーアルペン競技史上、この男ほど脚光を浴びた選手はいない。
イタリア北部の富も名誉もある家に生まれ、ビッグマウスで無類の派手好き。
大舞台にめっぽう強く、ここぞという時に必ず勝つトンバは、多くの人を魅了した。
1996年、スペインで行われた、アルペンスキー世界選手権。
この大会の焦点はただひとつ、“果たしてトンバは勝てるのか”に集約されていた。
なぜなら、トンバは世界選手権と相性が悪かった。
初めて出場した、1987年のモンタナ大会での3位が最高位で、それ以降、世界選手権では一度も表彰台に立ったことがなかった。
ワールドカップとオリンピックでは、無類の強さを発揮する彼自身、世界選手権では勝てないというジンクスから、必死に逃れようとしていた。
しかし、1996年の世界選手権のシーズン、トンバは中々調子が上がらなかった。
大回転、回転ともにスキーが走らず、滑りのリズムを失っているのは、誰の目にも明らかだった。
しかし、この世界選手権でトンバは人々を魅了することになる。
大回転では、1本目でトップに立つと、2本目はミスを犯しながらも逃げ切り優勝。
続く回転では、波に乗った時のトンバがどれだけ強いかを改めて世に知らしめることになった。
1本目の順位は6位。
トップに対して1秒弱のビハインドを背負っての2本目、トンバは素晴らしいアタックを成功させた。
上体を低く構え、絶妙なタイミングでスキーを送り出す。
そのスキーは、アイスバーンの上をこれでもかと加速するが、限界ギリギリのところでコントロールした。
合計タイムで、2位を0秒31差に抑えて逆転優勝。
世界選手権では勝てないというアルベルト・トンバのジンクスは、こうしてピリオドを打った。