澄み切った青空の広がる国立競技場に、四日市中央工業高校の小倉隆史の絶叫が響いた。
「まだだ! まだまだだ!」
全国3973校の頂点を決める、第70回全国高校サッカー決勝戦は、東京A代表の帝京高校がリードする展開で進んでいく。
前半39分、2年生エース松波正信が先制のヘッドを突き刺す。
同点で迎えた後半29分にも再び松波がゴールをあげる。
当時、45分ハーフではなく、40分ハーフで行われた試合は、2対1のまま終盤に突入していた。
「よんちゅうこう(四中工)」の愛称で親しまれる三重県代表の名門は、追い詰められていた。
だが、小倉は諦めていなかった。
後半36分、四中工は右コーナー付近でフリーキックを得る。
キッカーの中田が、ゴール前へ低くて速いボールを入れる。
フリーキックのポイントに一番遠い位置から、白いユニフォームが猛烈な勢いで飛び込んできた。小倉だった。
身体ごとゴールへ飛び込むようなヘディングシュートが決まる。
チームメイトにもみくちゃにされながら、小倉は声のかぎりに叫んだ。
「まだだ! まだまだだ!」
帝京は5回の優勝を経験しているのに対して、四中工は全国制覇の経験がない。
勝ち越し点を奪って日本一になるんだという思いが、後半残り4分となった時点でもなお、
ゴールを渇望する絶叫として表れたのだ。
延長戦にもつれた試合は2対2のまま終了。
四中工と帝京は優勝を分け合った。