2008年の北京オリンピック、レスリング女子63キロ級決勝。
優勝の瞬間、伊調馨は、マットにひざまずき、両手で顔を覆い号泣。
姉・千春のぶんまで泣いた。
前日の48キロ級で千春は、あと一歩およばず2大会連続で涙の銀メダルに終わった。
翌日、迎えた試合当日朝、馨の体調に異変があった。
「金」を至上命題に課された緊張と、姉の敗戦のショックで食べた食事を戻した。
試合が進むにつれて、体力が消耗し苦戦を強いられる。
最大のヤマ場は準決勝、カナダのマーティン・ダグレニアー戦。
「レスリング人生で今までなかったくらい苦しかった」
というその戦いは、第3ピリオドだけで5度も右足を取られたが、カウンターから何とか決勝点を奪って辛勝。
決勝もヨーロッパ選手権覇者のロシア、アレーナ・カルタショワに苦戦を強いられた。
頭をつけて、腕の取り合いからスタート。
カルタショワは前にでながら、圧力をかけてくるが、伊調は下がりながら、対応していく。
第1ピリオド、第2ピリオドとも両者攻めてに欠きクリンチまでもつれこむ紙一重の展開。
そして、第2ピリオド、伊調は、抽選で攻撃権を得ると、渾身の右足タックル。
全体重を前に傾けて相手の腰を崩した。
2ー0で優勝。
観客席には、満面の笑みを浮かべて万歳を繰り返す姉の千春。
馨は、「この金メダルは2人で取ったものだと思う」と語り、
姉妹で力を合わせて勝ち取った「金メダル」に、何度も口づけをした。