2008年8月21日、長年の願いがかなった瞬間、選手たちはマウンドに駆け寄り、喜びを爆発させた。
その中心にいたのは、日本が世界に誇るエース・上野由岐子。
「勝つためには何回でも登板する」
北京オリンピック開幕前、そう語っていた彼女。
その言葉は現実のものとなった。
準決勝のアメリカ戦、3位決定戦のオーストラリア戦ともに先発完投。
投球数は21イニングで318球を数えた。
そのおよそ23時間後、エースは決勝のマウンドに立った。
相手は、オリンピック3連覇中で無敵を誇っていたアメリカ。
気迫の投球で、最強打線を封じ込めた上野。
そして最終回、ツーアウト一塁。
最後の打者を、サードゴロに打ち取る。
ボールが一塁・佐藤のグラブに収まった瞬間、歯を食いしばっていた上野の顔が、夢を叶えた少女の笑顔に変わった。
ピッチャーズサークルにチームメイトが駆け寄り肩車された上野は、空に向けて何度も人差し指を突き上げた。
やっと手にしたオリンピック金メダル。
銅メダルに終わり「ただ悔しさだけが残った」というアテネオリンピックから4年、「絶対、金を獲る」という強い覚悟を胸に、2日間で413球を投げ抜いた夏…。
悲願の金メダルへと導いた上野由岐子。
その魂の投球は、スポーツ史に残る伝説となった。