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21.05.08
10年に及ぶ取材の集大成。香川真司「心が震えるか、否か。」
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今週の「Athlete News」は、スポーツライターのミムラユウスケさんをゲストにお迎えしました。

ミムラユウスケさんは、2006年からライターとして活動をスタート。
2009年からはドイツへ渡り、ドルトムントやフランクフルトに住みながら、ヨーロッパで取材をされてきました。
2016年から、拠点を日本へ移し、『Number』などに記事を執筆するなど、ライター活動のかたわら、スポーツコメンテーターも務められています。
内田篤人さんとの共著に「淡々黙々。」、岡崎慎司選手の著書「鈍足バンザイ!」の構成も手がけられ、先月、執筆・構成を手がけられた香川真司「心が震えるか、否か。」が発売されました。



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──香川真司選手初の自叙伝、「心が震えるか、否か。」。上下2段組で380ページにおよぶ超大作ですね。

そうですね。香川選手が「どうせ本を出すのなら、生涯で1冊だけ出そう」と言っていたんです。アスリートの方でも(競技についての)ノウハウだったりトレーニング本などを出す人もいるんですけど、(香川選手は)「出すんだったらしっかりしたものを妥協なく作ろう」ということで、けっこうな年月と労力をかけて作っていたら、それぐらいの長さになってしまったという感じですね。

──いつ頃から香川選手の取材は始められたんですか?

定期的に取材を始めたのは、2010年の7月、彼がちょうどセレッソ大阪からボルシア・ドルトムントというドイツのチームに移籍したタイミングですね。僕ももともとドイツに住んでいて、ちょうどその年の9月にドルトムントに引っ越したので、そこから定期的に取材をさせてもらっています。

──では、本当に“タイミング”というか“巡り合わせ”があって…という感じですか?

そうですね。当時は南アフリカワールドカップの直後だったんですが、香川選手は(南アフリカW杯で日本代表)メンバーに入っていなかったので、「なぜ(W杯で日本代表ではなかった香川選手のいる)ドルトムントなの?」みたいなことをよく聞かれるんですけど、ドルトムントというのは、ドイツの中で“サッカーの中心の街”と言われているんです。2014年のワールドカップでもドイツ代表は優勝しましたけど、ドイツ代表のミュージアムがドルトムントにあるぐらい、熱狂的なサポーターも多いですし、ドイツのサッカーの中心地なので、そこに住んでみるというのは個人的に面白いと思いましたね。

──そして本の中には「FROM SHINJI」という本人の言葉で書いてある文章もありますね。これは香川選手ご自身が書かれたんですか?

本人が語ったことをまとめているんですけど、スポーツ選手の本というのは2パターンあって、喋っている口調のまま進むものと、第三者視点で「香川は○○した、そこに藤木がこう話して…」みたいなパターンがありますよね。どちらがいいかなというところを考えた時に、じゃあ両方載せるにはどうしたらいいだろう、という話になって。なぜその両方を載せるのかと言ったら、とにかくこの本に関しては、普通のアスリートの方の何十倍もの取材時間をもらったんですね。大体こういう本の場合、「これぐらいの時間で作りましょう」みたいな感じなんですが…。

──普通の取材時間というのは、どれくらいなんですか? 想像が全くつかないんですけれど(笑)。

極端な話ですけど、10時間もない中で1冊を作るというような形もけっこうあって(笑)、それだと本当に要約、エッセンスだけになってしまうんですけど、この本の場合は、本自体の制作期間が4年と1ヶ月、取材は僕が(ドルトムントに)行ってからなので、10年と7か月ぐらいになります。ですから一応、南極大陸以外の世界の主要大陸での彼の言動は入っています(笑)。

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──この本には当時ミムラさんが取材されて思ったことが書いてありますが、実際に香川さんに聞いてみたら、“実はちょっと違っていた”みたいな、“ズレ”みたいなものはなかったですか?

それはもちろんあります。「FROM SHINJI」というパートは、“当時はこういう風に捉えていた”ということが本人の語り口調で書いてあるんです。その前の、“一般的な読み物”というか“物語風”になっているパートは、当時起こったことが時系列でそのまま書いてあって、「FROM SHINJI」というのは、後から「その当時を振り返ってみると…」という、香川選手本人の言葉で書かれているんですね。そうすると、当時は香川選手はわからなかったこともその後で書くことができますし、あるいは香川選手の成長なども、本編の後に書いてある「FROM SHINJI」という彼の語り口調の言葉で読めるようになっています。

──本当に事細かにいろんなエピソードを拾っているので、読むと面白いですよね。“香川選手がどう感じてどう動いたのか”ということが手に取るようにわかる本ですよね。

そうですね。あとちょっと面白い話としては、香川選手に最初に取材した時に、「正直覚えていない」みたいなことを言っていたんです。なので、「周りの人に取材してきてほしい」と。それで色々な人に取材をして当時の状況を振り返ってもらったり、今度はその聞いたことをまた香川選手に「こういう風に話していたけど…」という感じでやっていたので、三浦知良さんとか日本代表の監督だった岡田武史さんとか、あるいは俳優の小栗旬さんとか、そういう方も出ていますが、それは本人の記憶だけじゃなくて周りの人の力も借りながら書いたという感じでしたね。

──香川選手ご自身も、みんながどんなことを思ってくれていたのかとかが知れて、楽しまれていたんじゃないですか?

香川選手は「恥ずかしいからちょっと読めない、引退した時にちゃんと読むわ」みたいなことを言っていましたね(笑)。
ただ、小栗さんとのエピソードなどは、香川選手が僕に話していた話と、取材させていただいた時に小栗さんが僕に話してくださった話が一緒だったりして、2人の関係の深さを感じさせるというか。そういう話はけっこうありましたね。

──香川選手と言うと、ドルトムントでも無双というか、“天才”というイメージがありますけれど、やっぱりそうだけではなくて、苦しんでいた時期もあるんだなというのがわかりますね。

彼は、今回の本の中でも「そういうところを隠さないでしっかり残そう」と。“武勇伝だけ”というか、かっこいい話だけを書く、まとめようというスタイルの方ももちろんいるし、それが良い悪いということではないと思うんですけど、自分が失敗したこととか、今おっしゃられたように苦悩したことも含めて、“香川でもこういう失敗をするんだな”ということがわかって、何か読んでいる人の参考になれば…という本人の想いもあって、そういうところも全て書かせてもらいましたね。

──そんな、香川選手をずっと見てきたミムラさんから見て、“香川選手のここはずっと変わらないな”というのはどういったところですか?

あまり出さないと思うんですけど、関西出身のちょっとおちゃらけたムードメーカー的な、そういう少年っぽいところは変わらないですね。この本の、日本での最後の取材の時に、ちょうど自主トレをしていたんですね。そうしたら、小さい子供たちがサッカーをやっていたんですけど、自主トレが終わったらそこに勝手に入っていって、コーチに許可を取って「ちょっと(子供と一緒にプレーを)やってあげよう」と言って、本当に子供たちと同じ目線で遊んでるんですね。10年以上取材をさせてもらっていますけど、そういうところはずっと変わらないなと思います。

──子供たちも大喜びだったんじゃないですか?

それが面白くて、子供たちより父兄のとかの方が喜んで、「ちょっと写真いいですか?」みたいな感じで(笑)。子供たちは小学校1、2年生ぐらいだったので、まだその選手がだれかというのがわからなかったりするので。だから周りの大人や、それからコーチとかが本当に恐縮していたという感じでしたね(笑)。

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──世界トップレベルなわけですから、本当に貴重な経験になりますよね。さて、この番組ではゲストの方のCheer up songを伺っています。ミムラさんの心の支えになってる曲を教えてください。

Mr.Childrenの9枚目のアルバムの、『Q』というアルバムの1曲目に入っている、「CENTER OF UNIVERSE」という曲です。

──ミスチルの桜井(和寿)さんはご自身もサッカーをされていたりと、サッカーと関わりが深いですけれども、それで選ばれた?

もともとミスチルが好きで、初めて行ったコンサートもミスチルだったということもあるんですけど、この曲には“イライラして過ごしてんなら愛を補充”という歌詞があって、ちょっとイライラしたりする時に聴くようにはしていたんですね(笑)。
“ミスチルとサッカー”というところで言うと、長谷部(誠)選手が、ちょうどコロナ禍にあった時に、何かの番組で「この曲を今の時代に贈りたい」という話をしていたんです。この曲の中に“どんな不幸からも 喜びを拾い上げ 笑って暮らす才能を誰もが持ってる”という歌詞があるんですね。それが、コロナ禍で“なんかうまくいかない、どうしよう”という時でも、明るく前向きに生きれるために、世の中に(この曲を)贈りたい…みたいなことを言っていて。
あと、長谷部選手はドイツに長くいたので、僕もけっこう長く取材させていただいていたんです。彼もミスチルが好きでいろんな曲が好きだいうことはずっと言ってたんですけど、以前は自分の心情とミスチルの曲を重ね合わせたりしていて、例えば「星になれたら」の“こっそり出てゆくよ”という歌詞を、自分が浦和レッズからドイツのヴォルフスブルクに行くところに重ねあわせたりとか。でも、この曲に関して彼がチョイスしたのは、“世の中のみんなのために”というか、彼の中での主語が「I」から「We」に変わったようなところがあって…という話があって、そのエピソードを聞いた時に、彼の人間としての成長も感じて、この曲にまたさらに意味ができて、自分の支えになるなと思いましたね。 


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