兵庫県・但馬(たじま)地区。
但馬地区とは、豊岡市、養父市などを含む日本海側の地域。
山に囲まれたこのエリア。今回は、大阪・伊丹空港からプロペラ機に乗って訪ねました。
初日は、兵庫県が誇るブランド牛、
「但馬牛(たじまうし)」に密着しました。
最初に訪れたのは、仔牛の“せり”が行われる場所、
「JAたじま 但馬家畜市場」。
防疫上の理由などから関係者以外の人は
見ることのできないとっても貴重な“せり”の現場です。
牛を繁殖させる農家さんが育てた仔牛は、9~10か月齢くらいになると“せり市”に出され、
“繁殖農家”から“肥育(ひいく)農家”と呼ばれる農家さんの手に渡って、
立派な肉牛になるよう育てられていきます。
つまり“せり市”は、繁殖農家さんがそれまで手塩にかけて育ててきた牛を、
肥育農家さんへとバトンタッチする場なんですね。
まず番号のついた牛が一頭ずつ入場。
その牛に目をつけた買い手が、
手に握ったボタンを押すことで、
せりがスタートします。
電光掲示板に表示される金額がどんどん上がっていき、
最終的に入札者が一人になったら終了。
落札された牛はそのまま落札者の手に渡り、
トラックへと運ばれていきます。
牛一頭育てるということは、大変な労力が必要です。
売り手は、自分が手塩にかけた牛が
できるだけ高く売れてほしい、
買い手は、自分が求めている牛をいくらで買うか、
売り手にとっても買い手にとっても大事な「せり市」。
大きなお金が動くこのせり市。
ピリピリとした緊張感が場内じゅうに満ちていました。
次に向かったのは、“せり市”で牛を落札した肥育施設。
空気の澄んだ山間にある施設に、せり落としたばかりの
牛をはじめ、たくさんの牛がいました。
ここで牛たちはどんな風にして
過ごしていくのでしょうか?
240kgから270kgくらいの牛を、
ここで2年かけて700kgほどまでに
育てていくんだそうです。
「全農兵庫 但東畜産センター」、
神田さんに伺いました。
「牛は縦社会で生きる動物。
1グループ4頭で最後まで育てていきますが、
その中でも強い牛、弱い牛、、、
パワーバランスがあるんです。
牛はストレスにとても敏感な生き物なので、
少ないストレスで生きる強い牛は
良質の肉になります。」
ストレスを少しでも軽減するために、
牛舎に敷き詰める“オガ”や
水を換える作業などの衛生管理を徹底し、
清潔さを保つのも神田さんたちの大事な仕事。
きれいな場所を好むのは牛も人間も同じなんですね。
ところで、兵庫県といえば「神戸牛」が有名ですが、
「但馬牛」と「神戸牛」、どう違うんでしょうか?
「兵庫県内で生まれたものは全て“但馬牛”と呼びます。
で、その中でも特に等級の上のものだけが
“神戸ビーフ”の称号をもらえるんです。」
但馬牛の中でも、神戸ビーフと呼べるのはほんの一握り。
なるほど、神戸ビーフが高価な理由が分かりますね。
そんな但馬牛ですが、現在、繁殖農家さんの高齢化もあり、数が減少しているんだそうです。
「牛の発情期を逃すと、次の発情期まで3週間待たないとダメ。
やっと待ったのに、死産などの結果になると事態はさらに深刻です。
ですので、県行政や全農が一丸となって、繁殖農家を増やすために、
日々取り組んでいます。」
普段、私たちが当たり前のように頂いている牛肉ですが、
食卓にのぼるまでには本当にたくさんの人が関わっていて、
全てがその努力によって生み出されている「食」である、
ということを改めて実感しました。
いきものの「いのち」を頂くことで、
私たちは生かされています。
感謝の気持ちを忘れずに、毎日の食事を大事に頂きたい、
そう思い直した今回の取材でした。
最後にこんなことを伺いました。
神田さんのやりがいはどんなところですか?
「いい但馬牛、神戸ビーフに仕上げてあげること。
但馬牛、神戸ビーフは世界の宝です!」