各地が誇る食材の生産現場を川瀬良子が訪ねる「あぐり紀行」。
今回目指したのは鹿児島。
日本の近代化を押し進めた英雄を次々と輩出したこの地には、
21世紀の今も、未来へ向けて食の世界を牽引するリーダーが活躍しています。
「鹿児島いいとこ鶏(どり)」は、
鹿児島の恵まれた自然環境と独自のエサで育てられた、
その名の通り、鹿児島のいい所がギュッと詰まったブランド鶏肉です。
まずはその「特別なエサ」が何なのかを知るために、
鹿児島市内にある鶏肉生産の会社
「鹿児島くみあいチキンフーズ株式会社」の
大久保藤夫さんをお訪ねして話を伺いました。
「鹿児島いいとこ鶏」に与えるエサには、
シナモンやローズマリーなど5種類のハーブをはじめ、
パーム油脂、ビタミンE、ウコン、ブドウポリフェノールなどが入っているそうです。
5種類のハーブは鶏肉特有の臭みを抑え、
パーム油脂は肉の脂の融点を下げることで口当たりを良くし、
ビタミンEはその抗酸化作用で鶏自体の健康を促進させる一方、
肉に含まれるビタミンEも増加させる…など、
美味しくて安心安全な鶏肉を生産するための様々なノウハウが
込められたエサであることを教えて下さいました。
さぁ、そんな「鹿児島いいとこ鶏」の
生産現場を取材するため、
鹿児島市内から車で約1時間半、
薩摩郡さつま町の山間部にある
「角農場株式会社」へ向かいました。
着いてまず驚いたのは、
出迎えて下さったスタッフの皆さんの“白T姿”!
キッチリ髪を整え、アーティストのように強い目ヂカラで話をして下さったのは、
代表取締役社長の角晋吉さん。
養鶏の現場にいることを忘れてしまうようなオシャレな建物
(古民家をリノベーションしたそうです!)の
テラス席でインタビューさせて頂きました。
私たちが今回お邪魔させて頂いた敷地には、
約1万羽を飼育している1棟200坪の施設が12棟
(別の場所にある施設も含めると25棟)あって、
なんと僅か3名のスタッフで管理しているそうです!
これを可能にするために、
エサや水の供給を機械化するなど先進技術をどんどん取り入れている角さんですが、
最も大切なのは「鶏たちへの愛情」だとキッパリ一言。
例えば、温度が高い夏場は、施設内の鶏の数を少なくして涼しく過ごさせるなど、
どうすれば鶏が最も快適に過ごせるかを常に考える…
その思考を回し続けるのは、愛情なくしてあり得ないということのようです。
ところで、
これまで「あぐり紀行」の取材を数々行ってきましたが、
この角農場では、私たちの取材の様子を、
生産者側の広報スタッフが取材する…
という初めての事態に!
施設の見学中も、インタビューの最中も、角農場専属の広報スタッフ・廣庭慎二さんが動画を回し、スチールを撮り、
合間合間の待ち時間には、角さんとの色々なエピソードをお話し下さって、場を和ませてくれました。
どんな人が、どんな場所で、どんなことをして美味しい鶏肉が生産されるのかを発信していくことは、
「現代社会では必須」だと角さんは断言。
角農場のホームページやインスタグラムを見れば、それがよく伝わってきますので、
中々見ることができない養鶏の現場、ぜひチェックしてみて下さい。
そして、「養鶏業界の革新のスピードは特に速い」と角さんは力説。
設備やシステムにしても、飼育技術にしても、品種改良にしても、
鶏肉は世界中で食べられている食材なだけに、
世界各地で凄いスピードの進化が続いているんだそうです。
そんな時代の中、一次情報を持っている生産者がどんどん情報発信をし、
同時に世界各地から発信される情報を常にチェックして、
過去のケーススタディ、栄養学の最新知見などを自分の現場に当てはめて、
世界と戦う姿勢が求められているという気構えを熱弁して下さったのが、とても印象的でした。
ちょっと前までは、何かを知ろうと思ったら文献を当たらなければならず、
そこには本にするまでのタイムラグ、それを調べに動くためのタイムラグが生じていた状況が、
SNSの現代では、世界のどこかの生産現場で今日起きた出来事を、
その日のうちに知ることができるようになった、この環境を利用しない手はない…と。
「学校じゃないんだから。自分からドンドン取りに行かないと」…
という一言に、世界に目を向けた開拓者を多く生み出してきた薩摩の魂を見た気がします。
まだ36歳という角さん。
「街に行ってハッチャケたりしないんですか?」って尋ねたら、
「全っ…然、する気ないです」と、またまたブレないお言葉。
養鶏の未来から目を離さずに努力を続ける気骨の生産者が、
「鹿児島いいとこ鶏」の品質を守り続けています。