川瀬良子が全国各地を訪ねて、農業や食の生産現場をレポートする「あぐり紀行」。
愛媛県を巡る3日目は、「今治タオル」でも有名な今治市にやってきました!
お話を伺うのは、
小高い山の中腹で畜産業を営む新開俊之さん。
JAおちいまばりで肉用牛部会の
部会長を務めるという期待の若手です。
訪れて何よりもビックリしたのは、牛舎内の静かなこと。
「モ~~~~~」という牛の鳴き声を耳にすることが、
全くありませんでした。
山の中腹にあるこの牛舎で聞こえてくるのは、
様々な鳥の鳴き声と、時折吹く風の音…。
実際は、お腹が空けば鳴くそうですが、お邪魔したのがちょうど牛たちのランチタイム後半ぐらいだったので、
ムシャムシャと食べる音はするものの、みんな仲良くご飯を食べたり、満足してゴロンと寝てしまう牛も…。
これくらい閑静で、
牛が鳴かないほどリラックスできる環境で
過ごさせてあげることが、
いい牛肉に仕上げるためにとても大切なことだと、
新開さんは教えてくれました。
一方、その「鳴き声」が、とても重要な時もあります。
牛の生産農家には、雌牛に子牛を産ませて出荷する「繁殖農家」と、
その子牛を買い取って何百キロもの肉牛に育て上げる「肥育農家」があって、それぞれは全く別の仕事。
そして繁殖農家としては、牛の鳴き声が種付けをする合図なので、聞き逃せないものなんだそうです。
新開さんによると、「繁殖」の仕事は特に大変で、
各地の農家が小規模に牛を飼育して
取り組んでいることが多く、
そこに高齢化の波が押し寄せたため、
国内生産量が減少し続け、
現在、価格高騰の問題に直面しているそうです。
これに危機感を抱いた新開さんは、お父さんが続けてきた肥育農家の仕事に加え、
全国でも珍しい「繁殖・肥育」の二刀流の道を選んだそうです。
愛媛・今治の穏やかな環境の中、
静かなる闘志を燃やして地元ブランド「伊予牛『絹の味』」を守る新開さん。
敢えて険しい道を選び、愛媛の農業を鼓舞する姿に胸を打たれました。