リンゴが“蜜入り”かどうかを予測する技術
オンエアレポート
今回、注目するのはこちらです。2024.11.28
「リンゴが“蜜入り”かどうかを予測する技術」
今回のイノベーターは、農研機構の國久美由紀さんです。
そもそも、リンゴの「蜜」とは何なのでしょうか?
「完熟したリンゴの果実の芯の周囲が水に浸されたように透明になることを『蜜が入る』と言います。
細胞と細胞の間に糖(糖の一種であるソルビトール)と水分が溜まることで起こると言われています」
「熟した果実にしか入らないことから、完熟果実の証として好まれていますが、蜜自体はそんなに甘くはありません」
「しかし、フルーティで華やかな香りを発生させており、果実の風味を良くしています。
一方で、長期保存すると茶色く変色して、商品価値を失ってしまうことがあります」
「蜜入り」になるリンゴと、ならないリンゴがあるのは、どうしてなのでしょう?
「遺伝的に『蜜入り』になる品種とならない品種があります。
『ふじ』『ぐんま名月』などは蜜が入る品種ですが、『王林』『シナノゴールド』などは蜜が入りません」
「蜜が入る品種は、熟度・気温・栄養条件などが揃って初めて蜜が入ります。
条件が揃わないと、『ふじ』でも蜜が入らないことがあります」
そして、リンゴが「蜜入り」になるかどうかを予測する技術。こちらについて教えてください。
「リンゴの品種の候補が遺伝的に『蜜入り』になるかどうかを苗の段階で予測する技術です」
「全国の農業試験場では日々、美味しくて育てやすい新品種を作るために、何千もの品種候補を育てて調査しています。
実がなるまで8年ぐらい育てなければ判定できなかった『蜜入り』を1年目の苗で判定できるので、
時間と場所が大幅に節約できます」
なぜ、「蜜入り」になるかどうかが分かるのでしょうか?
「リンゴを『蜜入り』にする有力な遺伝子候補を見つけました。
細胞と細胞の間に糖を輸送する『SWEET』と呼ばれる遺伝子です。
この遺伝子が働くと、細胞の間に糖と水分が溜まり、蜜ができると考えています」
「この遺伝子を持っているかどうか、DNA検査をすることで、
遺伝的に『蜜入り』になるリンゴを、多くの品種の候補の中から見分けることができるようになります」
どのような思いがあって、この技術を開発したのでしょう?
「旬のリンゴに蜜が入っていると嬉しくなります。
しかし、春頃のリンゴが蜜のせいで変色していると、がっかりしてしまいます」
「このように扱いの難しいリンゴの蜜を、消費者のみなさまに上手に味わっていただくために、
旬に味わうための“蜜入り品種”、長期保存用の“蜜無し品種”をうまく作り分けたいと思っていました」
「ちょうどその時、農林水産省の委託プロジェクトに研究費をサポートしてもらえることになったので、
開発を始めました」
この技術、梨の「蜜症」の原因解明に繋がる可能性があるということです。
「梨にも『蜜症』という、リンゴの蜜入りとよく似た症状があります。
梨の蜜はリンゴのように喜ばれることはなく、障害果実として廃棄されてしまいます」
「リンゴの『蜜入り』のメカニズムが分かってきたので、これを生かして、
梨の『蜜症』の原因解明と解決に繋げたいと思っています」
リンゴを旬に味わうための“蜜入り品種”と、長期保存用の“蜜無し品種”の作り分けに繋がる、今回の技術。
この技術を使って生み出された新たな品種のリンゴを手に取る日が来ることを楽しみにしています。