2100年の環境を想定した部屋でイネを生育する研究
オンエアレポート
今回は、こちらに注目します。2024.11.21
「2100年の環境を想定した部屋でイネを生育する研究」
今回のイノベーターは、農研機構の米丸淳一さんです。
「2100年の環境を想定した部屋」。こちらは、どのような部屋なのでしょうか?
「気温、湿度、日射量、二酸化濃度(上限)を、
分~時間単位、日照時間をコンピュータによるプログラムで制御する高精度な人工気象室です」
「人工気象室の種類によって、部屋の広さや制御可能な温度の幅が異なりますが、
気象データがあれば1年を通じて、任意の気象条件を再現することが可能です」
その「人工気象室」でイネを生育する研究について、詳しく教えてください。
「国内では暑い夏が続いており、イネに対する高温の影響が著しい状態にあります。
特に、花が咲いて米が実る登熟期における高温は登熟不良をもたらし、
米の品質・歩留まり(精米時に利用した玄米に対し、実際に得られた白米の割合のこと)などを
低下させることが知られています」
「今後、さらに温暖化が進んだ場合、国内で栽培するイネに何が生じるか的確に把握する必要があります。
そこで高精度な人工気象室を用いて、イネを栽培し、イネの生育にどのような変化が生じるか、研究を行いました」
2100年の環境というのは、どのような環境なのでしょうか?
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のシナリオのうち、
温室効果ガス等の排出を抑制する温暖化緩和策を一定程度、行った場合の『RCP2.6』、
および、温暖化緩和策を行わない場合の『RCP8.5』をもとに再現しています」
「1990年~1999年の10年間の平均値を基準年としていますので、
分かりやすく言えば、20世紀末に比べて、
気温が1.4℃ないしは4.5℃高く、二酸化炭素濃度は100ppmもしくは490ppm高い環境となります」
「こうした環境をコンピュータで制御して、再現しています」
その環境でイネを育ててみたら、どうなったのでしょうか?
「品種によって異なりますが、コシヒカリでは、
品質低下、歩留まり低下の要因となる白未熟粒の発生が著しい(最大7割)ことが分かりました。
また、温暖化および高濃度の二酸化炭素によって花の咲く時期である出穂が早まることも分かりました」
「現在、日本国内でもっとも作られている品種はコシヒカリですが、
2100年には上手く作ることができなくなる可能性が高いということです。
そして、2100年に想定される環境で生じる現象は何年も前から、時折、発生し、
この数年はかなり近い状況になりつつあると考えています」
この研究によって、2100年の環境でも問題なく栽培できる「おコメの品種」が生まれる可能性はあるのでしょうか?
「この研究では、2100年の環境で何が起こるかを明らかにしたにすぎませんが、
これらの知見も利用することで、様々な米の育種組織で新しいイネの品種が生まれると考えています」
この研究、今後はどうなっていくのでしょうか?
「作物の生育に大きな影響を与える環境条件の再現は、かなりできてきたように思いますが、
雨や雪を降らすことはできていません」
「引き続き、環境の再現を高めて、
任意の場所や時間における作物の生育を再現する『プランタリウム(plant-arium)』を作って、
様々な作物を評価して、新たな技術開発につなげたいと思います」
「温暖化で最も影響を受ける果樹(りんごや梨)などの大型作物を評価できるような施設も
作りたいと考えています」
様々な環境条件を再現できる「人工気象室」を使った研究。
今後は、雨や雪を降らすことができ、果樹も評価できる「人工気象室」の登場を期待しています。