yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

STORY

第497話 褒められたいと願う
-【軽井沢にゆかりのある作家篇】芥川龍之介-

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「軽井沢 つるや旅館」で、病める心を癒した作家がいます。 芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)。 大正時代を代表する文豪です。 わずか35年の生涯で、『羅生門』『杜子春』『蜘蛛の糸』など、いまなお読み継がれる名作を世に送り出しました。 その作品は、海外にも多数紹介され、幻想小説家のボルヘスは、スペイン語に翻訳された『河童』を読み、これこそ文学世界の新しい空間を切り開いた傑作! ノーベル文学賞に値すると、大絶賛しました。 芥川が、信州・軽井沢を訪れたのは、たったの2回だけ。 亡くなる数年前の、夏のことでした。 当時、軽井沢は、文豪たちが執筆のため、夏の暑さを逃れる、格好の別荘地。 芥川も、3つ年上の親友、室生犀星(むろう・さいせい)の勧めに応じて、この避暑地にやってきたのです。 ただ、彼が軽井沢を訪れたとき、心のコンディションは、決してよくありませんでした。 24歳のとき、『鼻』という短編小説で、夏目漱石から多大な評価を受け、颯爽と文壇デビューを果たした芥川は、絶えず、己の才能の枯渇を恐れていました。 さらに彼を追い詰めたのが、日本文壇に台頭してきた、プロレタリア文学。 1923年の関東大震災など、大きな災害や広がる貧富の差が、その流れを後押ししました。 反体制側から、芥川や夏目漱石の文学は、ブルジョワジー、世の中を高みから見物する余裕派、高踏派と、揶揄されたのです。 非難の最たるものは、芥川の作品を「芸術のための芸術」と決めつけたもの。 でも、芥川ほど、日常の何気ない機微や、知人友人たちとの素朴なふれあいを愛した作家は、いなかったのです。 周囲の評判と自分の思いの齟齬に疲れた彼は、心身を病み、逃げるように軽井沢の地を踏んだのです。 軽井沢の優しく清らかな風は、彼に何を教えてくれたのでしょうか。 短編小説の神様として世界にその名をとどろかす、日本文壇のレジェンド、芥川龍之介が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 作家・芥川龍之介は、1892年3月1日、東京、入船町、現在の中央区明石町に生まれた。 辰年、辰の月、辰の日、辰の刻に生まれたので、龍之介と名付けられる。 彼が生まれたとき、父は42歳の厄年、母も33歳で女性の大厄。 当時、両親がともに厄年の場合、生まれた子を、捨て子として扱う風習があった。 友人に一時引き渡し、また戻すことで、拾い子として育てる。 一家に災厄がありませんように、そんな願いも虚しく、龍之介が生まれて数か月後、母が心を病む。 甘えたい盛りに親から引き離され、両国にある母の実家の芥川家に預けられた。 12歳で、正式に芥川家の養子になる。 形式的にとはいえ、いっとき捨て子になったこと、そして養子に出されたことは、龍之介の精神形成において、大きなトラウマをもたらす。 それは、自分という人間の存在否定。 哀しい疎外感。 没後、短編小説の名手であり、寓話性の高い作品を書いたことで、ドイツの作家、フランツ・カフカと共に論じられることの多い芥川。 カフカもまた幼少期に、自己疎外、希薄な実存を経験していた。 さらに二人の共通点は、その絶望的な虚無感を、フィクションの世界で癒したことだった。 芥川家は、代々江戸城の茶道を取り仕切る家系。 文化的で、芸術に傾倒していた。 祖母は、龍之介が眠りにつくまで、毎晩、枕元で物語を諳んじた。 空想の世界に遊ぶとき、龍之介は、ようやく生きることを許されたように感じた。 芥川龍之介は、幼い頃から虚弱体質だった。 学校も休みがち。 日がな一日、家にある本を読んだ。 幸い、蔵書はいくらでもある。 古今東西、歴史書から小説、科学や医学書まで、何でも読んだ。 ただやはり、フィクションの世界にいちばん心惹かれる。 10歳のとき、友だちと小説を書き、回し読みした。楽しかった。 ある話を書いたとき、あまりに同級生が褒めてくれたので、急いで、母親のもとに走った。 かつての実家の、二階。 母はいつも、ぼんやり窓の外を眺め、タバコをふかしていた。 「お母さん、ボクね、すごいって言われたんだよ」 いくら自慢しても、母は、ただ黙って通りを見下ろしている。 やがて、さらさらと白い紙に墨で絵を画いた。 キツネの絵だった。 母はいつも、キツネの絵を画いた。 何も言わずに、キツネの絵を差し出す母。 母をこんなふうにしたのは、自分かもしれない。 龍之介は、いつものように、自分を責めた。 才能の枯渇と、新しい文学の潮流におびえて、軽井沢に出向いた芥川龍之介。 涼やかな風が、彼に生きる力を与え、金沢からわざわざ来てくれた室生犀星との語らいが、心を休めた。 そして、軽井沢で、芥川を今一度創作に向かわせたのは、あるひとりの女性の存在だった。 片山広子(かたやま・ひろこ)。 ペンネーム・松村みね子として、アイルランド文学の翻訳家として名を成していた。 芥川より14歳年上の彼女は、毎年、軽井沢に避暑に来ていた未亡人。 二人は、共通の知人を通して知り合い、やがて惹かれ合った。 プラトニックな関係を貫いたが、芥川にとって、彼女の存在は最後の救いだった。 「あなたには、素晴らしい才能がある。 誰にも負けない世界観がある。 だから、まわりのことなど気にせず、お書きなさい。 あなたにしか書けないものを、どうぞ、お書きなさい」 もしかしたら、芥川は、彼女に母を重ねたのかもしれない。 軽井沢の清らかな風と、広子の包み込むような笑顔。 その二つが彼に、もう一度、作品に立ち向かう勇気をくれた。 そうして芥川は、今も世界的に有名な『河童』を書いた。 彼は生前、河童の絵を好んで描いていた。 人間になれず、人間に憧れる、河童。 終生 過酷だった彼の人生において、この小説を書けたことは、最上の幸運だった。 7月24日。芥川龍之介の命日は、「河童忌(かっぱき)」と呼ばれている。 【ON AIR LIST】 ◆女のカッパ / サザンオールスターズ ◆ゆりかごのそばで 作品47-6 / メンデルスゾーン(作曲)、バーバラ・ボニー(ソプラノ) ◆Clair De Lune / 田ノ岡三郎(アコーディオン) ◆I Wanna Be Loved / Elvis Costello ★今回の撮影は、「つるや旅館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。 「つるや旅館」について、詳しくは公式HPよりご確認ください。 軽井沢 つるや旅館 公式HP
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RECIPE

霜降りひらたけの根菜汁

今回は、春に旬を迎える食材、長芋を使った料理をご紹介します。

材料 (4人分)
  • 霜降りひらたけ 2パック
  • 長芋 30g
  • にんじん 20g
  • 大根 50g
  • 長ねぎ 1/2本
  • 油揚げ 1枚
  • 味噌 大さじ3
  • サラダ油 小さじ1
  • 水 800ml
  • しょう油 少々
写真 カロリー / 73kcal(1人分)
調理時間 / 30分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。長芋、にんじん、大根をいちょう切り、油揚げを細切りにする。
  • 2.
  • 油をひいた鍋に(1)の長芋、にんじん、大根を入れ、中火で炒める。水を加えて油揚げを入れ、アクをとり、根菜に火が通るまで煮る。
  • 3.
  • 味噌、しょう油で味を調える。
  • 4.
  • 最後に霜降りひらたけと1cm幅に切った長ねぎを加え、ひと煮立ちさせる。お好みで、しょうが、ごま油を加える。

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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