yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

STORY

ストーリー

第465話 優しさだけが世界を変える
-【静岡にまつわるレジェンド篇】映画監督 木下惠介-

Podcast 

静岡県浜松市出身の、映画監督のレジェンドがいます。 木下惠介(きのした・けいすけ)。 黒澤明と同時期に日本映画の隆盛に貢献し、国内外で人気を二分した巨匠です。 木下が脚本を書き監督した、日本で最初の総天然色映画『カルメン故郷に帰る』は、今年8月、藤原紀香主演で舞台化されます。 木下を師匠と仰ぐ、脚本家の山田太一は、「いつの日か、木下作品がもう一度注目されるときが、きっと来る」と語っていました。 コメディ、感動作品、悲劇から社会派のシリアスものまで、幅広いジャンルの映画を撮った彼が、映画に込めた思いとは何だったのでしょうか。 浜松市には、そんな木下の足跡をたどることができる施設があります。 『木下惠介記念館』。 館内には、監督が収集していた灰皿や、愛用していた机、ソファーや所蔵していた本などが展示され、まるでそこに木下惠介がいるかのような息遣いが感じられます。 浜松の「尾張屋」という漬物を中心に扱う食料品店で生まれた木下は、両親の寵愛を受けました。 幼い頃に、絶対的な愛情をあふれるほど注がれた彼は、ささやかな日常の中に「優しさ」を見つける天才になったのです。 戦時中、『陸軍』という戦意高揚映画のメガフォンをとることを命じられた木下は、出征していく息子を涙ながらに追う母の姿を延々、映しました。 しかし、陸軍からNGが来ます。 「お国のために戦地にいく我が息子を見送るとき、母は、決して泣かない!」と。 もしかしたら息子と二度と会えないかもしれないと思う母が、涙を流さないはずがない。 木下は一歩も譲らず、結局、監督を降ろされてしまいます。 彼は所属する松竹に辞表を出しますが、幹部に説得され、慰留を受け入れました。 幹部のひとりは、言ったのです。 「木下君、君の映画を待っているひとが、たくさんいるんだ!」 英雄ではなく、市井のひとの弱さと優しさに光をあてた名監督、木下惠介が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 映画『楢山節考』がベネチア国際映画祭に出品された巨匠、木下惠介は、1912年12月5日、静岡県浜松市に生まれた。 父は、漬物を製造販売する店を営み、母がそれを支えていた。 祖父もやはり商いをしていたが、ひとの良さゆえに、廃業。 父は貧しい少年時代を過ごした。 ふつうであれば、同じ轍を踏まないように、金儲けを中心に商売をする道を選んでもおかしくはない。 でも惠介の父もまた、商いの基本に「優しさ」を置いた。 騙されてもお金を貸し、貧しいひとに食べ物を分けた。 なんとか商売を軌道にのせるため、父は大八車に品物を積み、静岡から信州・諏訪まで行商に歩いた。 その道のりは、過酷だった。 風雨の中、野宿することもある。 重い荷車で険しい峠を進む。 山賊に襲われ、命の危険をおかしても、商品を全て売るまで帰ってこなかった。 留守を預かる母は、頭が良く、商才にたけていた。 そしてやはり、弱き者の味方だった。 貧しいひとからは、お代をもらわない。大目に漬物を詰めた。 母の口ぐせは、こうだった。 「私たちはね、誰かを幸せにするために生まれてきたんだよ」 映画監督・木下惠介は、のちにこう語った。 「私は、子供のときから、父と母が大好きであった。 いまでも父より偉い人間に会ったことはなく、母より立派な女には会ったことがないと思えるくらいだ」 病気や貧しさのせいで二人の子どもを亡くした両親は、生まれてきた惠介をことさら可愛がった。 惜しみなく、愛を注ぐ。 父は、惠介に言った。 「漬物っていうのは、いいぞ。 貧しいひとは、それ一品あれば、ご飯が美味しくなる。 金持ちのひとも、漬物が食卓の彩りになる。 こんなに公平で平等な食べ物はないんだ」 父と母の努力のかいがあり、商売は順調に発展。 十数名の従業員を雇えるまでになった。 母は言った。 「いいかい、覚えておきなさい。 自分だけが幸せってことは、ないんだからね。 自分のまわりのひとが幸せじゃなきゃ、おまえは、決して笑顔にはなれない」 ある日、お店に身なりのいいご婦人が現れた。 女性は言った。 「月末に、お宅の配達係さんが集金に来ましたが、すみません、払えず、3か月もためてしまいました。 もう少し、もう少しだけ、お待ちいただけますか」 深々と頭を下げる。 母は、「小僧が何度も勘定を催促してすみませんでした。どうか、お勘定は気にせず、なんでもご入用なものをご注文ください」と言い、お土産まで持たせた。 母は、惠介に話す。 「あんなに偉い方の奥方が頭を下げられるなんて、よっぽどのことなんだよ。 目に見えるものだけじゃなく、なぜ、ひとがそういう行動をしてしまうかを考えなさい」 幼い惠介には、母の言う意味が理解できなかった。 ただ、涙ながらに帰っていくご婦人の後ろ姿だけは、心に残った。 『二十四の瞳』で知られる映画監督・木下惠介が生まれ育った浜松は、商業が盛んな文化都市。 流行にも敏感な都会だった。 映画館も5館あり、小学3年生の頃から、惠介は映画に魅了される。 当時はまだ無声映画。 弁士が語る予告に、心躍らせた。 父は、自分の幼少期があまりに貧しかったので、子どもたちには、お小遣いが入り用なときは、お店のレジから好きなだけ持って行っていいと、話していた。 惠介は、とにかく映画館に通い続けた。 同じ映画を同じ日に何度も観る。 気がつけば、夜11時を過ぎていることもあった。 それでも両親は怒らなかった。 やがて、惠介の心に夢がふくらむ。 いつか、自分も映画を作りたい。 では、どんな映画をつくるか。 すぐに父と母の顔が浮かぶ。 歯をくいしばって大八車を引っ張る父。 弱き者に漬物をふるまう母。 「私はすべてのひとに、どうにかして幸せになってほしいと思いますし、そういうつもりで映画を作り続けているんです」 木下惠介 【ON AIR LIST】 ◆そばの花咲く / 渡辺はま子、日本ビクター児童合唱団 ◆この道 / ダーク・ダックス ◆喜びも悲しみも幾歳月 / 若山彰 ◆まっすぐな心(木下惠介生誕100年記念映画『はじまりのみち』より) / 池田綾子 ★今回の撮影は、「木下惠介記念館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。 アクセスなど、詳細は公式HPよりご確認ください。 木下惠介記念館 HP
>>続きを読む

STORY ARCHIVES

もっと読む

AuDee

音声を聴く

放送のアーカイブをAuDeeで配信中!
ぜひ、お聴きください!

RECIPE

レシピ

霜降りひらたけと大根のきんぴら

今回は、木下惠介が生まれ育った静岡県浜松市で盛んに栽培されている野菜、大根を使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • 大根 200g
  • にんじん 1/3本
  • 【A】酒 大さじ1
  • 【A】しょう油 大さじ1
  • 【A】みりん 大さじ1
  • 【A】砂糖 小さじ1
  • 白ごま 大さじ1
  • ごま油 小さじ2
写真 カロリー / 128kcal(1人分)
調理時間 / 10分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。大根とにんじんは皮つきのまま拍子木切りにする。
  • 2.
  • フライパンにごま油を熱し、大根とにんじんを炒める。全体に油がまわったら霜降りひらたけを加えて、さらに炒める。
  • 3.
  • しんなりしたら【A】を加えて煮る。煮汁が少なくなったら白ごまを混ぜる。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

MAIL

メール募集中

リスナーの皆様からのメッセージを募集しています。
番組のご感想、ご意見などをお寄せください。

メッセージを送る