2018.03.30 Fri
活発的でグルーヴ感あふれる街に。渋谷区区長・長谷部健
最終回は、渋谷区区長の長谷部健さんにいろいろな話を伺いました。今、そしてこれからの渋谷とは?
ローカルという誇りは持っています。
小宮山雄飛「最後は僕の地元、渋谷について語ります。長谷部さんは原宿生まれ原宿育ち。区議会議員を経て区長になりましたが、やはり地元・渋谷への熱い想いがあるのでしょうか?」
長谷部健「シティプライドみたいなものを、この街に持っています」
小宮山「僕は音楽をやっているので、出身が原宿と言うと、地方から出てきたミュージシャンから『なんだよ、原宿かよ』ってなるんです。だから、長谷部さんが渋谷を盛り上げてくれてるのは、すごくうれしいです」
長谷部「ローカルという誇りは持っています。区長になってから『いい街ってどんな街ですか? ひと言で言ってください』と、いろんなインタビューで聞かれるんですが、ひと言で言えるわけがないじゃん(笑) あえて言うならば『シティプライドがたくさん集まった街』がいい街だな、と。就任以来『ロンドン、パリ、ニューヨーク、渋谷区』と言っている。これは成熟した国際都市を目指したいという表現だったんだけど、もうひとつはシティプライドがたくさん集まっている街でもあって。ニューヨーカー、パリジャン、パリジェンヌ、ロンドンっ子。自然発生的に、その街のシティプライドを持っている人たちを表す言葉があるんだよね。渋谷人、渋谷民、渋谷ボーイ……渋谷にも自然発生的にそんな言葉が生まれれば良いと思います」
行政じゃ解決できない課題を隣り近所で解決する。
長谷部「例えば、表参道は『参道』がずっと守られた中で変化している。和の文化の上に洋がトッピングされ、混ざっている。それがすごくいい。景色が変わっていく今だからこそ、地域のコミュニティの力を改めて強く蓄え直し、さらに発展させていきたい。渋谷区は都心でありながら、いろんなコミュニティがある。町会、商店街、PTA、シニアクラブ、さらにその街の商業を通じたコミュニティがある。公式なコミュニティじゃなくても、ミュージシャンやアーティストのコミュニティがある。去年から始めたおもしろい事業が『渋谷おとなりサンデー』。お隣りさんと交わる日を設定しました。ネットだけで呼びかけたら、渋谷区内の40箇所くらいでやってくれたんです。やることは……隣りの人と何かするだけ(笑)」
小宮山「隣りの家の人?(笑)」
長谷部「隣りの家の人や近所の人。元々は1999年にパリで始まった『隣人祭り』がモチーフ。渋谷もパリも似た課題があるんです。そのひとつが孤独死。パリのアパートで起きた孤独死に心を痛めた青年が、『自分たちが顔見知りだったら、三ヶ月も放置されることがなかったのに』という想いで、年に一度は顔見知りになる日を作りました。アパートの住人に呼びかけ、中庭に飲み物と食べ物を持ち寄ってパーティーをしましょうよ、と。すると、翌日から挨拶する人が増えた。気難しそうだったおばあちゃんが、実は子ども好きということがわかって、子どもの相手をしてもらったり。つまり、昔はあった、行政じゃ解決できない課題を隣り近所で解決するということ。渋谷区はマンションが増えて、なかなか混じり合う機会がない。でも、混じり合いたいと思うポポテンシャルを持ってる。つながりたい欲求がある。だからSNSが流行ってるわけで。その日を制定すれば……」
小宮山「はずかしくなくなる!」
長谷部「去年は、いろんな『渋谷おとなりサンデー』が生まれました」
小宮山「何をやれ、と指示することはない?」
長谷部「ない。ある商店街では通行止めの許可を取り、長机を並べて70〜80人でパーティーをしました。あるところでは……昔、俺たちはチョークで道路に落書きしてたじゃない? そんな風に、その日だけチョークで落書きを良くして。そのまわりで大人がビール片手に楽しんでる。近所の人たちと掃除をして一緒に朝ごはんを食べたり。一緒にジョギングをしたり、青空麻雀や将棋をやったり。渋谷区らしく多種多様です。その事例をどんどん紹介して、今年は区が本格的に取り組んで広げます。2018年は6月の第一日曜日開催です」
渋谷おとなりサンデー
shibuya-otonari.jp
笹幡初。
小宮山「渋谷区で、区長おすすめの面白い場所は?」
長谷部「いっぱいあるんだよね(笑) これから取り組みたいという意味では、甲州街道沿いの活性化。今、笹塚・幡ヶ谷・初台の三つの駅を『笹幡初(ささはたはつ)』と位置付けて、面白いカルチャーを作れないかなと思ってる」
小宮山「渋谷区だけど、京王線カルチャー。新宿区に近い地域を、新たに活性化させるんですね」
長谷部「下町の感じがあって、俺たちが高校生くらいの恵比寿と同じ匂い感じる。当時の恵比寿はぎりぎりビール工場があったし、山手線の中ではあんまり特徴のない駅前だった」
小宮山「昔から恵比寿に住んでいる人で『昔は、渋谷区の中では……』と言う人も多いです」
長谷部「ガーデンプレイスが上手な開発をして、昼間人口が増えた。大人が行くウェスティンホテル東京ができた。木造密集地だった線路沿いに飲食店がいっぱいできた。しかも、チェーン店ではなく一軒目が多い。代官山のファッションの匂いも入って、古いものと新しいものがうまく混じり合っている。さらに面白くなるのでは」
小宮山「恵比寿駅の北側が、さらに面白くなりそうですね」
長谷部「街の中心が面白いのは当然なんだけど、だんだん際に広がってる。人を連れていくなら、隠れ家的な店が良かったりするじゃない?」
小宮山「最近だと、シブニや奧渋。渋谷駅からちょっと離れた所が盛り上がってますしね」
長谷部「代々木上原や富ヶ谷あたりも盛り上がってる。幡ヶ谷にはカウンター系のカルチャーがあったり。面白い」
東京のことにつながるという思いがあります。
これからのワクワク、教えてください。
長谷部「渋谷は注目されている場所。東京というと、渋谷駅前のスクランブル交差点を映してくれる状況です。渋谷のことばかり考えていれば、東京のことにつながるという思いがあります。渋谷区の象徴である渋谷駅周辺を、より活発的でグルーヴ感あふれる街にしたい。
渋谷区の基本構想『ちがいを ちからに 変える街。』をまとめたので読んでください。基本構想に紐づいた提案だと行政は受けやすいんです。
例えば、スポーツでは『思わず身体を動かしたくなる街へ。』と規定しています。渋谷区を『15平方キロメートルの運動場』に見立て、政策を考えようと。新しいグラウンドやプールを作るのは土地の制約上難しいので、道路や公共用地を使って何かしたり。基本構想を読んでもらい、いろんな人から提案をしてもらいたいです。今年は『YOU MAKE SHIBUYA』が掛け声。あなたが渋谷区を作る。区役所がさぼるという意味ではないので、ご安心を(笑) 賛同してもらえるとうれしいです」
放送でご紹介できなかったお話
小宮山「長谷部さんは、区長に当選した次の日にお電話をくれて。『雄飛、何かやってよ』と言うので『副区長にしてください』と言ったんですが、即却下されましたね(笑)」
長谷部「丁重にお断りしました(笑)」
小宮山「それで、渋谷区観光大使をやらせていただくことになり。観光大使も面白い展開になっていますね。『ナイトアンバサダー(夜の観光大使)』とか。あの展開は最初から考えていたんですか?」
長谷部「『ナイトメイヤー(夜の市長)』はZeebraくんから話を聞いて、非常に良いなと思いましたね」
小宮山「開発ラッシュで渋谷駅前がすごいことになってますよね。工事が多い」
長谷部「これから渋谷駅の利便性は良くなるし、商業も集まってくる。大きなビルから生まれるカルチャーについては十二分に期待できます。でも、僕らが子どもの頃から触れてきたカルチャーって、ストリートカルチャー・カルチャーじゃない?」
小宮山「渋谷、原宿はそうですね」
長谷部「小学校で竹の子族、ロカビリー。中学校でDC。高校でアメカジ、渋カジ。音楽はイカ天ブーム、渋谷系。コギャル。全部ストリートでいろんな人が混じり合いぶつけ合い、お互いを尊重して生まれてきた。まさにダイバーシティ的なものが土壌にあった。そういう物を大切にしたい。歩行者天国を復活できないか?とかね。街の景色がこれから大きく変わるけど、そんなに恐れていないんだ。だってよく考えたら、子どもの頃からずっと変わってるんだよね、この街」
小宮山「確かに、日々変わってる。たまたま今、大きく変わってるだけ」
長谷部「変化の中にいた」
小宮山「新しいホテルが、渋谷にどんどんできていますね。TRUNK(HOTEL)とか」
長谷部「非常に良いこと。実は、渋谷区にホテルの数がすごく少ないんです。港区の部屋数は2万5000室以上あるけど、渋谷区は5,000室ちょっとしかない。池袋や新宿の半分とも言われてる。ラブホテルを規制したせい。一般のホテルまで規制しちゃってたんだよね」
小宮山「そんな歴史が!」
長谷部「風適法とかいろいろあって、ラブホテルは今もう作れない。ラブホテルを増やさず一般のホテルが増えるよう、もうちょっと要件緩和をする。議会で議論してるところです」
小宮山「新しいタイプのホテルが増えると、観光客と地元の人が交われる」
長谷部「これからナイトタイムエコノミーをやっていくのに、泊まれないというのはまずいと思うし。10年前に比べたら、何倍もの観光客が来ているからね。国は観光をひとつの産業として大きな柱にし、4000万人の訪日観光客を目指すと言っているのだから、これから街の活力として質の良いホテルが重要。渋谷区は今、民泊がすごく多いの」
小宮山「民泊問題は実際どうですか? 民泊よりも、新しいホテルを作った方が良いんでしょうか」
長谷部「ホテルが少ないから、民泊の需要が高い。この街に泊ってみたいんだ、という需要がすごくあるはずなのに応えきれていない。とはいえ、住民感情としては、住んでいる所に入ってきてほしくない部分もあるから、商業地区は許可し、教育施設のある文教地区では許可しないようにします。
問題が出ている民泊は、ほとんどが家主が滞在しない投資型です。ワンルームマンションでどんどんやってたりする。それらは基本的に許可しない。国が定めた営業日数の上限、年間180日の中なら良しとします。家主がちゃんと滞在している民泊の中には、すごく良いものがいくつもあるんです。
例えば、旦那さんに先立たれたおばあちゃんが、家を改装して民泊を始めたら国際交流が生きがいになっている。商店街でご飯を食べられるチケットを作ったり。こういう人は良いと思う。一概に全部だめとするのではなく、良いものは伸ばし、投資型でゴミの処理もせず迷惑をかけている所は規制していくスタンスです」
小宮山「原宿で育った長谷部さんが区長をやっているのは、安心感がありますね。地元への愛があって、新しいことにも理解がある。どちらかだけでもダメな気がする」
長谷部「そうだね」
小宮山「今、ものすごい開発がされていますが、渋谷区の未来の理想像は?」
長谷部「渋谷駅周辺に大きなビルが建設中ですが、山手線の内側は東京オリンピックまでにだいぶできる。10年かけて桜ヶ丘町もできます。今ね、渋谷に来た人は渋谷に来て原宿で帰ったり、表参道で帰ったり。その逆もあったり。渋谷に来て渋谷で帰る人もいるけど、昔より回遊しているんだよね。
今の開発で、恵比寿や代官山への導線がもっとできる。渋谷にはパンク状態くらいに人がいっぱいいるから、街がそうやって広がることが非常に良いなと。そこは期待しています。新しい人たちと古い人たちが混じり合って、新しいカルチャーを生み出すかもしれないし。
それから、新国立競技場。ほとんど新宿区だけど、一部渋谷区で。千駄ヶ谷と東京体育館あたりは渋谷区なので、影響を受ける街でもあるよね」
小宮山「特に原宿はオリンピックの街。盛り上がりたいですよね」
長谷部「オリンピックが開催される2020年は、明治神宮鎮座百年でもある」
小宮山「これから明らかに渋谷が盛り上がるので、特に飲食店の人は何かやりたいと言ってますね」
長谷部「そこはひとつの通過点。その先がどう変化するかに興味がある。オリンピックはなんとかなると思う。パラリンピックはもっと盛り上げなければいけないという課題は感じているけど。渋谷の開発はまだまだ続くので、みんながどう交わるか。渋谷区は20年先のビジョン、基本構想『ちがいを ちからに 変える街。』を具現化していく。コミュニティをくっつけたり、新しい発想を採り入れたり。もちろん、守るものは守る。それらを続けていけば、大きなビル以外の、元々渋谷が持っていた力をさらに強くできると思う。行政がカルチャーを作ろうとすると、だいたいスベるに決まってるからね(笑)」
小宮山「よくあるパターンですね(笑)」
長谷部「僕は場を整えたり、ルールを変えたり、規制を強くしたり緩めたりして、みんなが混じり合う仕掛けをしていきたい。渋谷区は特区構想を持っていて、エンタメ、クリエイティブをもっと集中する。そうすれば、東京の価値が上がると思う。ブロードウェイみたいにするだけでなく、ハイブロウなものもあればカウンター系もちゃんとあって……」
小宮山「ストリート・カルチャーもちゃんとある!」
長谷部「小さなライブハウスでも、大きなコンサートホールでも、クラブでも、IT系のインキュベーションが起きるようなエンジニア・エデュケーションができる施設でも、これからビルを建て直す時、建物の容積が増せないかと思っている。高さを増した部分は人が住むという条件で。新しいビルを建てやすくなると思うんだ」
小宮山「渋谷は土地が足りないから、上にあげる」
長谷部「こちらが望む、エンタメ、クリエイティブに資するものがあれば、上に増してよいと。都心でありながら、24時間、人の体温があるということは安全安心につながる。建て替えも進んで、街が変わっていくんじゃないかな?」
基本構想 | 渋谷区公式サイト
www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/koso/index.html
YOU MAKE SHIBUYA|by 渋谷区基本構想
www.youmakeshibuya.jp
渋谷区
www.city.shibuya.tokyo.jp
〈本日のオンエア曲〉
アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先) / 小沢健二
また逢う日まで / ホフディラン
およそ二年にわたってお送りしてきました『antenna* TOKYO ONGOING』は最終回。
聴いてくださった皆様、ありがとうございました!
小宮山「長谷部健さんは、自分の育った街・渋谷から東京を変えていこうという熱い想いを持っている方です」
田中みな実「話し方が、けっこうフランクですね。『言えるわけがないじゃん』って(笑)」
小宮山「僕にとっては地元の先輩だから、区長としての威厳のある言い方の時と、ものすごくラフな時が混在してるの!(笑)」