VOL.286「日光の天然氷」
栃木県・日光に、老舗の“氷屋さん”があります。
創業明治27年の「松月氷室(しょうげつひむろ)」。
扱っているのは、日光の山の湧水を凍らせた「天然氷」。
自然の環境下で作られたこの氷で、かき氷を1年中提供しています。
昔とほとんど変わらない作り方で、天然氷を切り出している「松月氷室」。
その製造法は、まさに自然との闘い、そして、共存です。
明治時代に作られた“氷池”に日光の山の湧水を引き入れ、
秋、落ち葉掃きや雪かきをして、
磨きを入れながら、真冬の寒さの中で、ゆっくりと凍らせていきます。
2週間かけて、厚みが15㎝ほどになったら、
切り取り線を入れて、氷を切り出し、
溶けないように、檜のおが屑をかけて保管。
雪が降る極寒の中でも手を休めない、
丁寧な作業があってこその氷です。
「松月氷室」、代表の吉新昌夫(よしあら・まさお)さんのお話です。
「昔からの作り方ですからね、
枕草子にも、天然の氷に甘葛の蜜をかけてかき氷にして食べた、
というような表記があるんですけど、
そんな、昔から親しまれてきた日本の冬の贈り物で、
作り方としては、全く同じなんですね。」
そうしてできた天然氷は、
固くて不純物が少なく、透明度抜群。
その固さが、かき氷になるとフワフワの食感を生み出しています。
「機械的に水を冷やしてできた氷と違うのは、
氷の形はしていますが、日光の冬の自然をそのまま夏まで保存して、
それをみなさまにお分けしているということなんですね。
できればシンプルなシロップをかけて、
氷の白い部分が残るように、氷を楽しんで欲しいですね。」
夏だけではなく、四季折々の口溶けを楽しんでみたい、
そんな気持ちにさせてくれる、極上の天然氷。
日光の自然の恵みは熟練の技によって、
今日もこの地を訪れる人に、美味しい贈り物をもたらしています。