9/3 「 マスタリング 」 今回の授業、テーマは「マスタリング」です。 "分かったフリのアーティスト用語" でも、非常に質問の多かった「マスタリング」。ミュージシャンのインタビューなどでよく聴く言葉ですが、これはどのような事なのでしょうか。 まず、スタジオなどでレコーディングされた音をCDにするとき、録音した音がそのままCDに収録されている訳ではありません。CDに音を収められる技術の限界で、現状はCDに収めるときに音が少し悪くなっています。その収められる音と、実際に録音した音の差を調整するのがマスタリングの、ひとつの目的です。 山口先生が、こんな例えをしてくれました。 「レコーディングされた音を果汁100%のリンゴジュースだとしましょう。その果汁100%のリンゴジュースを容器に入れるときに、薄めないと入らないという状況なんです。薄めないと入らないけど、味を変えないようにしよう。果汁100%のままで味を変えないようにする。これが、マスタリングです。さらには、ただ容器に入るようにするだけじゃなくて、酸味を増そうとか、甘みを足そうとか、とろみを出そうとか、すり下ろしリンゴにしよう!とかね(笑) その状況に合うように、いろいろ加工する作業、これがマスタリングだと思ってもらえたら分かりやすいんじゃないかな。」 音楽が再生されるシーンは、さまざまです。サカナLOCKS! のようにラジオで音楽を聞く事もあれば、テレビや映画、YouTubeなどで聴くこともあります。それぞれの環境で聞こえてくる音質には違いがあります。例えばラジオでは、電波に乗って皆さんに音が届いていますが、音質的なことで言うと、いちばん高い音と、いちばん低い音は、構造的に流れないようになっているのです。 「そういった状態で自分たちの曲がそのまま流れてしまったら、もともとある曲が、そのまま伝わらないんですよ。だから、ラジオ用マスタリングとして加工して、聞こえない音域があっても、曲としてちゃんと伝わりやすいものになるように、マスタリングしていきます。同じように、テレビ、YouTube、ミュージックビデオ用にもあります。いろいろ作り替えたりしているんです。」 それではここで、山口先生が用意してくれた、新曲「夜の踊り子」のCD用マスタリングと、ラジオ用マスタリングの音源を使って、マスタリングの違いを聴き比べしてみましょう。教室にはデジタルのターンテーブルを用意しました。同じ曲を同時に流しながら、スイッチで切り替えながら、聴き比べていきます。今回の授業にすごく気合をいれている山口先生、そこには理由があるようです。 「この違い、分かって欲しい!先生、力が入ってます。この違いをみんなが分かってくれると、結構面白い事になると思うんです。この間も話をしたけど、Twitterで「みんなどんな環境で音楽聞いてるの?」って聞いたら、"iPodからイヤ" がトレンドになるくらい、みんなiPodからイヤフォンで聞いている人が多いってことが分かったんですよ。iPodで聞いているってことは、CDで聞いている音より悪い音を聞いている。つまり圧縮された物を聞いている事になっているのに、それを聞いた後は「圧縮って何ですか?」とか、「圧縮されてるって知らなかった!」とか、ものすごいたくさんの返信が来たんですね。別に、圧縮して音楽が(データサイズ的に)軽くなって、身近になる事に関しては、今の時代のテクノロジーの進化に逆らってはいけないと思う。もちろん、CDで聞いて欲しいっていう気持ちは心の底からありますけど、せめて「圧縮されてるんだ」って事を自覚してもらえないと、先生たちはやってられない!(笑)」 「今回のラジオ用マスタリングは、圧縮ではないけど、音を変化させてるので、その微妙な違いを生徒たちが理解できたら、ひょっとしたらCDと圧縮された音楽ファイルの音の違いも気になり始めるかもしれない。若い、未来のある人たちが聞いている授業でこれを試す事が出来るなんて、ミュージシャンとしては本望です!」 それでは、マスタリングの聴き比べをしてみましょう。 「それでは皆さん、ヘッドホンの準備はいいですか。いきますよ。交互にいきますからね!先生、ちょっとドキドキしてますよ(笑) ……スタート!!!」 ……ということで、オンエア中の『サカナ掲示板』には、その違いが解るという書き込みが並んでいましたが、皆さんは解りましたか?実際に聴いてみた印象も含めて、CD用マスタリングと、ラジオ用マスタリングの違いはこんな感じです。 < CD用 > ・高い音から低い音まで、フルレンジで入っている。 ・車などのウーファーで聴くと、低音がよく解る。 ・低音がしっかり入っているので、ラジオ用マスタリングよりも歌がくもって聞こえる。 < ラジオ用 > ・高い音と低い音が削られている。 ・歌の部分(周波数帯)が強調されているため、歌が聞こえやすい。 ・CD用マスタリングよりも、クリアに聴こえる。 「皆さん、分かりましたか?電波に乗っているので、僕らが体感している感覚が伝わっているかは分かりませんが、多分、下の音(低い音)が入ってきている分、全体のボリュームが下がって聞こえるかもしれませんね。でも、ラジオ用マスタリングは低い音と高い音がカットされて、歌の部分がぐいっと上がって、歌が聞こえる、曲が聞こえるはずです。それは、マスタリングをする際に、みんなにより曲の良さが伝わるようにした変化なのですが、それを体感してもらいたかったんです。音っていうのはものすごく繊細に作られていて、いろんな事をミュージシャンは考えて作っているんだっていう事を、この授業で学んでくれたら良いなと思っています。」 「いやー……もっと、3時間くらいかけて、いろんな人を呼んで、生徒諸君にお話をしたいですね〜。……冬休みにやるか!どこか借りて。公民館とか!"サカナLOCKS!課外授業" やりたいな。こんな風に音の違いを感じてもらえたら、先生的にも、授業をやった甲斐があるなと思いますので、これからもラジオやテレビ、CDで音楽を聞くときに、その音質を気にしてみてください。」 ということで「マスタリング」の授業、いかがだったでしょうか。とはいえ、今回の授業で話ししたのは、マスタリングという作業の一例です。興味を持った生徒の皆さんは、本屋さんなどに専門の月刊誌なども出ているのでチェックしてみましょう。 生徒の皆さん、現在出ている宿題 [ 詳しくはコチラ ]……引き続き、送ってくださいね。 |